色を塗り重ねる

紅蛇

色を塗り重ねる


 小さい頃、私は絵が上手いと言われて育ってきた。親にも「絵描きさんになれるんじゃないのかしら」と微笑まれ、美術の先生に「緑一色じゃ無くて、他の色も使っていていいね」と色鉛筆で描いたお花を褒めた。だから私は「大きくなったら、絵を描いて生活する」と思っていたし、信じてもいた。


 時が過ぎ、お金の存在を知った。小学校五年生ぐらいになった頃、先生にポスターを描く手伝いをした。友達にも助けてもらって二人で描いていたら、クラスメイトの男の子がやってきた。「そんなうまくないじゃん」そう呟いて笑った。

 たったその言葉で、私の中にあった何かが壊れたような気がした。壊れたなんて言い方じゃ足りないぐらいに、粉々に割れて直せなないほどのショックを受けた。友達はすぐさま「何言っての!?」と怒り出したが、その子も絵が上手な子だった。「別に大丈夫」といって場を収めたが、内心怒りでいっぱいだった。


 中学生になると、美術を諦めた子が多くいると知った。そんな中、私は教室の中では上手い方だった。それでも今度は「将来は絵描きになる」なんて夢なんてなくなっていて、描くのは落書きと美術の授業だけだった。私に上手くないといった男の子と同じクラスだったが、ほとんど話さなかった。

 そして、絵描きなんかじゃ暮らしていけないとも知った。


 高校生になると美術が選択科目になっていた。私は迷わず入って、後悔した。

どの子も私なんかとは違って、本気で絵を勉強したいと言う熱意があった。なんとなく楽そうだと思って入った私は、心震わせた。そうして、また絵を勉強したいと願った。無理だと悟りもしたが、デッサンを練習して、周りの子に追いつこうと努力した。仲のいいクラスメイトから「イラストレーターになれるよ」と言われたが、笑いながら「無理だよ」と返事した。心の底からの無理だよだった。


 高校二年生、先生に進路を考えなさいと言い出した。友達に意見を聞いたら、みんな将来をわかっていて、中には大学まで決まっている子がいて、焦った。私はまだ何も知らない。将来を自分を考えようとすると、心の片隅で「絵を描いて暮らす」という願いがシミのように思い出された。

 後輩が「将来はファインアートを学びたいんだ」と自慢げにクラスメイトに話しているのを見て、純粋に「すごい」と感心し、羨ましく思った。


 高校生最後の年、私は身近に入れる文学部のある大学を志望した。どこでもいいからと言い加減な気持ちで書いた紙をみて、自分が嫌になった。


 大学は見事に受かり、一人暮らしをした。

 同時に絵を趣味で描くことも始めた。




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