人形劇用台本

結城慎二

赤ずきん

30分Ver.

赤ずきん登場。


赤ずきん「私、赤ずきん。これからおばあさんの家に行くの。今ね、おばあさんご病気なの。それで私『パンとブドウ酒を持っていって』って、お母さんに言われたの」


舞台の袖から顔を出す狼。


狼   「グヘヘ…いーいこと聞いちゃった。よし、今日のメシはあいつで決まりだ!」


と、襲い掛かろうとして止まる。


狼   「まてよ…ただ食うってのは、芸がないな。うーむ……そうだ! 確かパパ…っと、おばあさんのところに行くって言ってたな。グフフフフ……この作戦で行こう」


赤ずきんの前に躍り出る狼。


狼   「こんにちは、赤ずきんちゃん」


問。


赤ずきん「こんにちは、大きなワンちゃん」


狼   「俺は犬じゃねぇ! 狼だ、オ・オ・カ・ミ!!」


マジマジと狼を見つめる赤ずきん。


赤ずきん「ごめんなさい。狼さん」


狼   「判りゃいいんだよ、判りゃな…つて、少しは驚くとか怖がるとかしろよ」


赤ずきん「どうして?」


狼   「どうしてって、俺様は狼だぞ」


赤ずきん「怖がったりする方がいいの?」


間。


狼   「あ、いや、驚かない方がこの場合いいんだがな」


赤ずきん「ならいいじゃない。変な狼さん」


赤ずきん笑う。


狼   「そ、そうだな。ハ…ハハ、ハハハ」


赤ずきんに背を向けて、


狼   「苦手だ。こういうタイプを相手をするのは疲れるぜ」


赤ずきん「ところで狼さん、私に何か用?」


狼   「おっと、いけねぇ忘れるとこだったぜ。お母さんがね『お花を持たせるのを忘れちゃったわ』って言ってたんだ」


赤ずきん「お花?」


狼   「そうそう、お見舞いにゃ付きもんだろ」


赤ずきん「あれ、あまりよくないのよ。お昼のうちは光合成をして新鮮な空気を生み出すけど、夜には呼吸して二酸化炭素を吐き出すから。それに最近は花粉アレルギーなんかでぜんそくを起こす人もいてね…」


狼   「おいおい、どうしてそういう余計な知識を持ってんだよ。そんなこたぁどうでもいいだろ!」


赤ずきん「重要なことよ」


狼   「と、とにかく向こうの丘に咲いているお花をいっぱい摘んで、おばあさんに持って行きゃ、きっと泣いて喜ぶぜ」


赤ずきん「野生種を勝手に摘んだりしちゃいけないのよ。今は、環境破壊が進んでいるから自然の中に生えている草木の中には絶滅しそうなものもいっばいあるんだから、それらは絶威危惧種といって…」


狼   「お前はグリーンピースか!? だったら花屋で買ってくりゃいいだろう!」


赤ずきん「お金ないもん。お花って結構高いのよ」


ため息をつく狼。


狼   「チッ、もっと簡単に引っ掛かるかと思ったんだがな、子供だと思って甘く見過ぎたらしい。仕方ない、少し作戦を変えるか。…なぁ、赤ずきんちゃんよ、花を持って行くのは悪いことばかりじゃないんだぜ。例えば、色には人の心を落ち着かせる効果のあるものもあるんだ。香りも同じ、それにお花畑みたいに密生しているところは、適度に間引いてやったほうが成育環境がよくなっていいんだぜ」


赤ずきん「そうなんだ。じゃあお花摘んでくる」


と、行ってしまう。

黙って見送っていた狼、


狼   「…つたく、最近のガキは扱いに困るぜ。よし! 次の作戦だ」


と、赤ずきんとは反対方向に退場。

そこに猟師登場。

地面を調べて、


猟師  「これは。きっと悪い狼の足跡だ」


地面とにらめっこしながら追跡開始。

暗転。

お花畑でウンチクしながらお花を摘んでいる赤ずきん。

スクリーンに映る山道を行く狼。

暗転。

おばあさんの家。

家の中には、おばあさんが寝ている。

そこにやってくる狼。


狼   「グヘヘ…ここで俺様は赤ずきんのフリをして、ばあさんに近づき喰っちまう。そして今度はばあさんのフリをして、赤ずきんを喰うのさ。頭いいだろ? なにせ俺様は狼一頭がいいんだ。三匹のこぶたを喰い損ねた奴とはできが違うんだ。ブワッハッハ…っといけね、バレねぇようにしなきゃな」


赤い布切れを被る狼。


狼   「完璧だ。作戦決行! 『おばあさぁん♡ こんにちは、赤ずきんよぉ』…どうだ?」


間。

おばあさんは寝ている。


狼   「…何やってんだよ。『おばあさん、こんにちは』」


おばあさんは起きない。


狼   「チッ、耳が遠いらしいや。まったく、これだから困るんだ年寄りってのは」


おばあさん「だれが年寄りだって!?」


狼びっくり。


狼   「悪口だけはよく聞こえるらしいや」


赤ずきんの真似。


狼   「『おばあさん、私よ、赤ずきんよ。お母さんに頼まれてパンとブドウ酒を持って来たの。中に入ってもいい?』」


おばあさん「なんだって!?」


狼   「『だから、私赤ずきん。お母さんに頼まれて、パンとブドウ酒を持って来たの。中に入れて』」


おばあさん「はぁ? なんだって!?」


腹が立って来た狼。


狼   「判んねぇかな! 赤ずきんがパンとブドウ酒を持って来たんだよ」


真似していないことに気づき、口を押さえる狼。


おばあさん「そうかいそうかい。よく来たね。ドアは開いているから勝手に入っといで」


コケる狼。


おばあさん「どうしたんだい?」


狼   「…『なんでもないわ』」


中に入って行く狼。


おばあさん「パンとブドウ酒を持って来てくれたんだったわね。パンはいいとして、ブドウ酒の銘柄は何? うんたらうんたら…」


と、ブドウ酒について語っている。


狼   「うるさいなぁ…元気いいじゃねぇか。一体なんの病気なんだ!?」


おばあさん「開いているのかい? 赤ずきん」


目と目が合う。


おばあさん「あら?」


狼   「バレたか!?」


おばあさん「あなた、そんな顔だったかしら?」


狼   「目の病気か!? だったらどうして寝込まなきゃならんのだ?」


おばあさん「随分毛深いのねぇ、それじゃあまるっきり狼だわよ」


狼   「狼なんだよ」


おばあさん「狼?」


狼   「そう」


間。

おばあさん悲鳴を上げる。

ベッドの上でジタバタ。

狼、大きな口を開けて一呑み。

おなかが少し大きくなる。


狼   「さて、いよいよ赤ずきんを食う準備にかかるか」


準備を始める狼。

暗転。

狼の足跡を調べながら山道を進む猟師。

そこに走ってくる赤ずきん、斜師とぶつかる


猟師  「どわっ!」


赤ずきん「ごめんなさい。道草してたらすっかり遅くなっちゃって、急いでいたの」


猟師  「そんなに急いでどこへ行くんだい?」


赤ずきん「おばあさんのところ。パンとブドウ酒、それにお花を持ってお見舞いに行くの」


猟師  「おつかいかい?」


赤ずきん「そう」


猟師  「気をつけて行くんだよ。腹ペこ狼がうろついているらしいから」


赤ずきん「はい」


と、先を急ぎながら、


赤ずきん「へえ、じゃああの狼さん腹ペこだったんだ」


退場。


猟師  「そう、あの狼さんは腹ペこでね…!? あの狼ィ!? あ、ちょっと赤ずきんちゃん……いなくなってる…ま、いいか」


追跡を再開する猟師。

暗転。

おばあさんの家。

ナイトキャップを被った狼がベッドの前をうろついている。


狼   「まだかなまだかな。もうお昼過ぎてるじゃねぇか。道草しちゃいけねぇってお母さんに言われてねぇのかな、まったく…あ、道草させたのは俺様だったっけかな」


そこにやってくる赤ずきん。


赤ずきん「おばあさんこんにちは、赤ずきんよ。お見舞いに来たの」


狼   「お、きなすった。よし、作戦作戦」


ベッドにもぐりこむ狼。


狼   「『おお、おお、よく来たねぇカギは開いているから入っておいで』」


赤ずきん「はぁい」


と、中に入って来ながら、


赤ずきん「でもおばあさん。カギもかけないなんて不用心よ。強盗でも入ったらどうするの?」


狼   「強盗って…おいおい、せめて空き巣とか泥棒とか言えよな」


赤ずきん「最近は物騒だから気をつけてね」


狼   「『はいはい』」


狼の前に花束を突き出す赤ずきん。

狼びっくり。


赤ずきん「はい、お見舞いのお花」


狼   「こりゃまたずいぶん摘んで来たもんだな。さては、凝り性だな」


赤ずきん「嬉しくない?」


狼   「え? いや、とってもうれしいわよ」


赤ずきん「どうしたの? お声が少し変よ」


狼、あわてて口を手で隠す。


狼   「『び、病気だからねぇ』」


赤ずきん「あら?」


今度はあわてて手を引っ込める狼。


赤ずきん「大きなお耳ね!」


ずっこける狼。


狼   「なんだよ、手が見つかっちまったかと思ったじゃねえか」


気を取り直して、


狼   「『それはね、お前の声がよく聞こえるように大きいんだよ』」


赤ずきん「ふううん。そうなんだ」


狼   「おいおい、そんなんで信じていいのか!?」


赤ずきん「あら?」


また口を隠す狼。


赤ずきん「大きなお目目ね」


狼   「どこを見てんだ、どこを!! 『それはね、お前がようく見えるようにだよ赤ずきん』」


赤ずきん「へえ、そうなんだ」


狼   「納得するな納得を!」


と、赤ずきんを指さす。


赤ずきん「あら?」


狼   「ゲッ! しまった」


赤ずきん「毛むくじゃらの大きな手。爪もすっごい!」


狼   「そ、それはね…お、お前をしっかり抱き締めるためなんだよ」


赤ずきん「なあんだ。でも、狼さんそっくりね」


狼   「ぱあさんそっくりだな、この鈍さ」


赤ずきん「お口も大きくって牙もあって…」


狼   「……」


赤ずきん「もしかして、本当に腹ペこ狼さん?」


間。


狼   「フッフッフッ。バレちまっては仕方がない。そうさ、俺様は腹ペこ狼! 大きな口はお前を…ふが!?」


狼の詰も開かず、狼の口にパンを詰める赤ずきん。


赤ずきん「言ってくれればパンもブドウ酒も分けてあげたのに」


狼   「もがもが」


パンを飲み込み、


狼   「なにすんだ。狼は肉食だぞ、こんなもの食えるか!」


赤ずきん「ダメよ、偏食しちゃ。好き嫌いしないでちゃんと食べなきゃ大きくなれないんだから」


狼   「それを言うなら牛や馬だって草しか食わないじゃないか。それに俺様は充分に大きいんだ!」


赤ずきん「でも私、パンとブドウ酒しか持っていないわよ」


狼   「俺様が食べるのは・・・」


ゆっくり赤ずきんに近づいてくる狼。


狼   「お前だ!」


ヒラリとかわす赤ずきん。

必死に追いかける狼。

楽しそうに逃げる赤ずきん。


赤ずきん「鬼ごっこね。ハハハ。鬼さんこちら、手の鳴る方へ」


狼、いつの間にか鬼ばんばになって赤ずきんを追いかける。


狼   「俺は鬼じゃない! 狼だ!! だろ?」


と、子供達に問いかける。


赤ずきん「鬼さんよね?」


と、子供達に問いかける。

自分の姿が変わっていることに気づく狼、元に戻って再び追いかける。

肩で息をする狼。


赤ずきん「どうしたの? ホラホラ」


と、楽しそう。


狼   「ハァ、ハァ…くそう、これじゃ埒があかない、そうだ!」


息を整え、


狼   「あ、UFOだ!!」


赤ずきん「え? どこどこ!? UFO見たぁい」


狼   「ガブリ」


と、一呑み。


狼   「ハッハッハッ! どうだ完璧な作戦の勝利だぜ」


ブドウ酒を飲む狼。


狼   「ふわぁ、飲んで食べて運動したら、次はお昼寝だな」


と、ベッドにもぐりこむ。

間。

やがて、足跡を辿って猟師が家までやってくる。


猟師  「ふーむ。狼のくせに家に住むとは生意気な……って、そうじゃないか」


中へ入る猟師。


猟師  「こんにちはぁ、しかし、不用心な家だな。戸締まりはちゃんとしとかなきゃいかんよ。おっ!」


お昼寝中の狼発見。


猟師  「こんなところに寝てやがる。ん? やけに大きなおなかだな」


シーツの下でモゾモゾ動くおなか。

びっくり仰天の猟師。


猟師  「うわっ、でたぁ! スプラッターかエイリアンか!?」


銃を撃とうとする。

間。


猟師  「待てよ。この家の人はどうなったんだ? まさか本当に狼の家だなんてことは、ないだろうし…もしかして……」


ハサミを取り出して狼のおなかをジョッキジョッキ。

勢いよく飛び出してくる赤ずきんに猟師びっくり。


猟師  「ひえっ! 狼のおなかから女の子が産まれてきたぁ!」


赤ずきん「私、狼に食べられちゃってたの。助けてくれてありがとう」


猟師  「ど、どういたしまして」


なおも動く狼のおなか。


赤ずきん「あ、おばあさんを忘れて置いてきちゃった。おばあさんご病気で動けないの。助けてあげて」


猟師  「そんなことならお安い御用」


狼のおなかに手を突っ込んで、おばあさんを引っ張り出す猟師。


おばあさん「はぁ、助かった。ありがたやありがたや」


猟師  「無事でよかった」


おばあさん「しかし、貴重な体験をさせてもらいましたよ。人間、長生きはするもんだねぇ赤ずきん」


赤ずきん「私はまだ若いわよ」


猟師  「ようし、これでめでたしめでたしだ」


大団円のBGM。


赤ずきん「待って!」


BGMカットアウト。


猟師  「どうしたんだい。せっかくいい気分になってたのに」


赤ずきん「狼さんのおなかをこのままにして置くのは、いくらなんでもかわいそうだわ」


おばあさん「それもそうだねぇ。どれ、私が針と糸で縫ってあげようか」


猟師  「そうすんべぇ」


間。


赤ずきん「起きたときにおなかが軽かったらかわいそうだから、石でも詰めてあげましょう」


おばあさん「お前は優しいいい子だねえ」


猟師  「はぁ…!?」


赤ずきん、大きな石をたくさん持って来て狼のおなかに詰める。


猟師  「おいおい、やり過ぎじゃないか!?」


おばあさん、狼のおなかを縫う。


おばあさん「よしよし、これで終わり」


赤ずきん「じゃあ狼に気づかれないうちにそーっと家を出ましょう」


と、三人家を出て行く。

しばらくして狼目覚める。


狼   「ふああ、よく寝た。ん!? なんだかいやにハラん中がゴロゴロすんなァ…ま、いいや。んーん、しかし喉が渇いたなぁ…どれ、水のみに行くか」


重いおなかを支えるようにゆっくり立ち上がると、ヨタラヨタラと歩きながら家を出て行く。


狼   「おおっと、食い過ぎかな? ハラが重くって、真っすぐ歩けねぇぜ」


狼、ヨタラヨタラと袖に消えて行く。


狼の声 「ええと、確かこの辺りに井戸が…あったあった。どうれ…よっこらどっこいしょっ! う? うわっ! あっ! と! うわあぁ!!」


SE ドッボーン。

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