第40話 蜃気楼

 不破ふわさんに言われて井戸を覗き込む綺璃子キリコ

「よく見えないんですけど」

「ライト照らすで」

「OKいいわよ」

「ほい」

「なんだあれ?デカい…貝」

「なにがデカいかい?やねん、何聞いとんねん、あっ、オマエの尻がデカいか?ってことか?まぁまぁ、胸とのバランスを考えたらデカいかな?」

 井戸を覗き込んだままの綺璃子キリコに後ろ蹴りされて、転がるイプシロン(仮)。

「それが…元凶ですよ、イプシロン(仮)、引っ張りだせますか?あの貝」

 顔を擦りながら、井戸を覗き込むイプシロン(仮)

「なんや、化けハマグリかいな…しょうもな…」


 イプシロン(仮)が尻尾を伸ばして器用にハマグリに巻き付ける。

「アンタ、地味に便利なのね」

「茶化すなや…意外と集中力がいんねん…イタッ、尻尾擦れたで…」


 10分ほどで井戸の中から、1mほどの巨大なハマグリが引っ張り上げられた。

「滲みるっちゅうねん」

「我慢よ」

 尻尾が井戸の壁に擦れたイプシロン(仮)、綺璃子キリコがマキロンで消毒している。


「これがなんなんです?」

「これがゾンビやらサダコ(仮)の正体です」

「ハマグリですけど…発育過多な」

「まぁ…イプシロン(仮)の同類というか…妖気を帯びたハマグリですね」

「一緒にされたくないのー」


 26の地獄の軍団を指揮し始めたビフロンス伯爵、その仕事は早かった。

 荒れ果てた墓場は綺麗に掃除されていた。

「まぁ、なんということでしょう」

 ビフォーアフターの差は、どこぞの匠も納得の仕事ぶりだ。

「さて…浄化は終わった、報酬を頂こう」

「コレでございます」

(えっ?)

「なんと…ハマグリ…」

「不浄の地で育った貝でございます、煮るなり焼くなり、いかようにも」

「うむ…では…焼こう」

(焼くんかい!!)


 お墓で焼きハマグリを堪能しているビフロンス伯爵御一行。

「さすがやで…蝋燭でハマグリ焼きよったで…」

「シュールよね…悪魔が巨大ハマグリを墓場で食ってるのよ」

「満足いただけたようで良かったです」


 。―――。

 翌朝、住職が戻ってきた。

「どうでしたか?」

「まぁ墓地で説明します」


 実は…

 この井戸は近くの海へ繋がってしまい、長いこと使われなくなっていた井戸、海水が染み出しているので、使い物にならないまま放置されていた。

 流されたのか、この井戸に小さなハマグリが住み着いた。

 ハマグリは外敵も無く、すくすく成長したのだが、生憎と墓地の妖気も吸って大きくなって、化けハマグリと化した。

 化けハマグリは、近くの人の思考を読んで蜃気楼を作り出す妖怪。

 別に悪さをするわけでもなく、ただ無意識に、蜃気楼を吐き出すだけ。


「まぁそんなわけで、ゾンビやら幽霊やらは、ここを訪れた人の思考を読んでハマグリが作り出した蜃気楼が怪奇現象だったわけです」

「そう言われても…」

「アソコに置いてあるのが、化けハマグリの貝殻です…中身は食べましたが」

「デカいですな」

「お墓も掃除しましたし、墓石の浄化も済んでます」

「それはありがとうございます」

「もう、起きないとおもいますけど…人の念が集まる場所です、綺麗にしておけば、こんなことにはならないわけで」

「おっしゃるとおりです…面目ない、以後はちゃんと弔うつもりです」


 。―――。

「いやぁー、いいことした感じがしますよねー」

「オマエ、何したんや?」

「……気分の問題よ」

「井戸は修理して、そのままにしておくらしいですよ、化けハマグリの貝殻は見世物にするようです」

「商売人やの~、生臭坊主やで~」

「いいじゃないですか、どうです?普通のハマグリ食べていきませんか?」

「賛成!!」

「せやね…どうせなら、ハマグリ狩りしたいわ…砂浜で掘りたいわ、潮干狩り行こ、なっ」

「そうしましょうか」


 砂浜で潮干狩り。

 バケツにカラカラと貝が放り込まれる。

「何事も加減っちゅうもんが大事やね」

 ちっこい麦わら帽子を被ったイプシロン(仮)が子供用のプラスチック熊手で砂を掘る。

「さすがにアレだけデカいと食欲無くすわよね」

「でも、美味しいってたべてましたよ、悪魔御一行は」

「掃除で出たゴミやら枯れ木を一緒に燃やしながら焼いてましたね」

「エコやね」

「僕らは普通に焼きましょうか、浜茶屋で貸してくれんですってバーベキューセット」

「ええねぇー、調味料も買ぉたしのー、なんで…オリーブがあんねん」

「オリーブ焼きよ」

「オマエ…もこさんキッチンにかぶれとんのか…」

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