第39話 お墓掃除

「しかし、無責任な坊主やのー、寺が荒れるのも解るわ」

「信心はともかく、整理整頓は苦手なんでしょうね」

「お盆過ぎの夏の夜に、荒れ寺の境内で、ほかほか弁当食べながら、墓場の見張りって…」

「ワシ、から揚げにしたらよかったわ…なぁレイはん、早よここから帰ろうて、なんや嫌やん、この場所」

「ゾンビはともかく、何か起きても不思議じゃない場所ではあるんですよね」

「何が起きるんです?」

「さぁ…それを確かめるためにココで弁当を食べてるわけで」

「ワシ…から揚げ弁当が良かったんやホンマわ」


「なんにも起きませんね~」

「そうですね」

「バカ猫…おとなしいと思ったら…あんなトコで寝てる」

 イプシロン(仮)、不気味や、気分悪いと不満をぶちまけ、今は、阿弥陀様の膝で爆睡中である。

「妖怪って、ああいうの嫌うんじゃないのかしら普通」

「普通じゃないから妖怪なんですよ」

「図太くないとできないのね~」


 ゴトンッ…墓場で重い音がした。

 身体がビクッとなる綺璃子キリコ、起きる気配の無いイプシロン(仮)。

「そろそろなのかな…準備しちゃいましょうか」

「えっ…やっぱり何か起きるんでしょうか?」

「どうせ起きるなら早い方がいいじゃないですか」

 延長コードと電源ドラムリードを持って走る綺璃子キリコ

 いつものように、DVDをセットして、イプシロン(仮)を叩いて起こす。

「なんや…出たんかいアロハゾンビ」

「まだよ…でも墓場でゴトンッて何かが動いた音がしたわ、不破ふわさんはライト持って見回り中よ」

「ほんで、オマエ怖くなって、ワシを起こしたんかい」

「そういうことよ」

「ヤル気満々みたいな感じで来たわりには、現場で怖いてオマエ、小学生のノリやぞ」

「いや、ほら、なんかふわ破さんも準備しとけって言うし、なんかいるのかなって思ったらね、急にスイカ買ってくれば良かったなんて思ってる場合じゃないんだなって、アソコの井戸でスイカ冷やしたら美味しそうとか…アレ?」

「なんや?」

「井戸の中から…誰か出てくる…」

「アホ…どこのサダコさんやねん」

「トイレの花子さん みたいに サダコさんを刺激しないで、いるから」

「あ~おるね…井戸のサダコさん…おるね、よし、ワシちょっと聞いてきたろ、サダコさんですか?って」

 イプシロン(仮)が井戸の方へ走り出す。

 白いワンピースの髪の長い女性はギクシャクとコチラにゆっくりと向かってくる。

「あの~すんませんけど、お宅、サダコはん?」

「…………」

 ガン無視のサダコさん(仮)

「すんません…おろっ…」

 サダコさん(仮)の足を軽く突こうとしてスカされたイプシロン(仮)がよろける。

「なんや…さわれんのかい」

「えっ?さわれないのー、幽霊じゃん、やっぱいるんじゃん」

「いませんよ」

「はい?」

 振り返ると、不破ふわさんが、ニコニコしながら後ろに立っている。

「幽霊なんていないんですよ綺璃子キリコさん」

「せやで…幻や…これも」

「幻?」

「そうや…こっちきて、さわってみいや、なんも感触せぇへんから、スカスカや、オマエの胸と同じや」

 BAN!!

「狙いが正確になってきとる…確実に眉間に当てて来よるで…」


「さて…じゃあ始めましょうかね、綺璃子キリコさんコレを」

 DVDを受け取って再生する。

 不破ふわさんの前に銀色の燭台が浮かぶ、3本の蝋燭にボッと火が灯ると、黒いスーツの紳士が現れた。

「我はビフロンス…26の軍団を率いる伯爵である、我を呼んだのは汝か?」

 紳士的な風貌と声、残念なのは顔の半分がドクロだってことだけで、なかなかのイケメンである。

「ビフロンス様、この場所に眠る御霊みたまはすでに浄化されております、嘆かわしくも御霊を弔う石が汚れた、不浄の地に安息をもたらしてはいただけないでしょうか」

 不破ふわさんは、召喚した悪魔に恭しく頭を下げた。

「墓石の浄化は承るが…その報酬は?」

「そうですね…この地で育った死肉ではいかがでしょうか?」

「不浄の肉か…よかろう…」

 ビフロンスは墓石のひとつ、ひとつを丁寧に掃除している。

 掃除が終わると、墓石に火を灯す、どうやら浄化しているらしい。


「なんやろね…小まめな人やね…」

「ホントよね…お手伝いしたくなっちゃうわ」

「土地の浄化は、お任せして…本体を引っ張りだしますか」

「本体?」

「そうです」

 と不破ふわさんが指さしたのは、ウロウロ歩き回るサダコ(仮)ではなく、井戸であった。


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