第32話 こだわりって面倒くさい

「帰るわよ~イプシロン(仮)」

「おぅ…入口掃いたら帰るわ~」

「うん…って、またアンタは外で目立つんじゃないわよ!!」

「なんで?せっかく買うてもろうたんや、これはワシのほうきと塵取りや」

 不破ふわさんが、おもちゃのような小さなほうきと塵取りをイプシロン(仮)に買ってくれたのだ。

 なにが嬉しいのか解らないが、イプシロン(仮)は、えらく気に入って、今日は掃き掃除を頑張っていた。

 頑張りすぎて、店内で飽きたらず、うっかり外へ出ちゃう始末…。

「BAN!!」

 ドムッ

「やめぇや~背中にめり込んだやんけ!! 猫背が伸びるわアホッ」


「まったく…厄介な特技を身に付けたもんやで…バカに刃物、綺璃子キリコに妖気」

 ブツブツいいながら、ほうきと塵取りを、これまた不破ふわさんに買ってもらったツールボックスに片づける。

レイはんは解っとるね、人を使うっちゅうことは自主性に訴えるっちゅうことが大事なんよ、自然とやってまう…コレを促せるのが、上に立つ器っちゅうかー、綺璃子キリコにも見習うて欲しいわ」

「ブツブツ言ってないで帰るわよ!!」

「解っとる!!」


不破ふわさん、お先に失礼します」

レイはん、ほな、また明日」

「はい、お疲れ様です」


 。―――。

「ん~今日も、よう働いたのー」

「そうね、アンタ何気に掃除好きなのね?」

「好きちゃうけどね~、なんやお金を貰うにも仕事して、その対価に貰うっちゅうんわ気持ちええやん、結果、仕事頑張ってまうんやね~」

「はぁ~、アンタ昔、金持ち逃げしたって…」

「労働の喜びを知るには、あの頃のワシは幼すぎたんや…」

「幾つだったのよ?妖怪化するほど長生きしてんでしょ?」

綺璃子キリコ…人の成長は時間やない…経験やぞ」

「アンタはいつ、どこで、なんの経験積んで、掃除に目覚めたのよ?」

「掃除やないで、働くことや」

「アンタ、この間まで、ヒマや~ジェスチャーしよか~とか言ってたじゃない」

「オマエ、恥かいたのー、そういえば」

「思い出したわ…この話やめましょ…」


「今日はナニ食うねん?」

「なにがいいかな~と思ってるんだけど…アタシが作ろうか?」

「えっ?えぇー…なんかな~」

「なんかなによ?」

「いや…ワシ出前がえぇなー」

「なに?不味いの?」

「いや…ちゃうねん、不味くはないんや…綺璃子キリコ

「じゃあいいじゃない」

「ちゃうんや…後始末がな、どエライことになりますやんか…」

「そう…かしら…」

「なんでハムエッグだけで、あないになりますの~、おかしいもん、出来上がったクオリティとコストから考えても、あの散らかりようは、おかしいですやん」

「そんなに、散らかってたかしら…」

「あんなん、ゴキブリ1匹仕留めるのに、ICBM落としたくらいの被害ですやん」

「まぁ…あの要領がいいとは、言い難いとは思うけど」

「よう考えてみぃ? ハムエッグやぞ!! ハムとタマゴを油引いたフライパンでジューしたら出きんねんぞ!! なんで、お玉やら泡だて器が出て来てんねんちゅう話や」

「なんかこう…色々試したんじゃないかしら…ね…」

「なにを?どう?試したんじゃー」

「嫌やねん、なんや作ってるときから、アレ、ワシが片づけるんやろなーと思うと、食べてても美味しくないねん 子供がお母さんありがとう~言うて、ワチャクチャな料理出してきて、演技でワァーとか言うても、大半のお母さんは、後片付けがー!!ってなってんねんぞ」

「そんなことないでしょーよ」

「いやなっとる、絶対だねーなっとるねー、ホンマはそんな余計なことしないで、普段から皿洗いだけでもしてくれたほうがって思ってるねー、絶対だねー」

「解ったわよ!! じゃあ何がいいのよ?」

「ほか弁行こうか」

「ほか弁でいいの?」

「ワシ、アソコの店の、付け合せのパスタが好きやねん」

「はっ?」

「ほら、弁当の横に、炒めたナポリタンがチョコッとあるやん」

「あ~あったかも…」

「アレが好きやねん」

「じゃあ、ナポリタン食べればいいじゃない」

「アホ!! そういうことじゃないねん、あの量だから、えぇねん、アレを1人前だったら飽きるで」

「解ったわよ、で?何弁当にするの?」

「から揚げ1択や!!」


 。―――。

「なんでや…パスタがポテトサラダに変わってもうてるやん…」

「いいじゃないべつに…から揚げ買って、トンカツだったら文句言えるけど、パスタがポテサラに変わったって文句は言えないわよ」

「アカン…あのパスタがえぇんや…今なら1皿食いたいわ…」

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