第24話 お昼が中華で…夜は?

「ホンマに、凶暴な女やで…」

 しぶしぶと窓を拭く猫1匹。

「アレやん、猫の正しい使い方、間違ごうてるっちゅうねん、なんやTVで視た猫は、駅で座っとるだけで、可愛い、可愛いされて、御飯食べれてましたけど?」

「アンタは、普通より器用なの、特技は活かして生きていくのよ」

「窓拭きが特技ちゃうわ!!」

「じゃあ何が特技なのよ?」

「……それは……まぁ…ないっちゃぁないの~」

「じゃあ、窓拭きしてなさいよ」

「はい…」

「特技になるといいわね~」

「はい…」


綺璃子キリコー、脚立あったかのー」

「なに?やる気が出てきたのアンタ?」

「うん、なんや楽しいとは違うんやけど、なんやろね…使命感ちゅうか、なんか不思議と夢中になるね」

「いいけどね…ジェスチャーやってるよりいいわ、ちょっと奥見てくるから」

「早よなー、アレやで手ぇ止めたら飽きる可能性大やぞ」

「わかったわよ、持ってきたときに飽きてないでよね」

「なんで、この汚れ落ちへんのやろ…ね…ん?外側か」

 イプシロン(仮)小さな子供用の黄色いバケツに水を入れて、2で外へ出る。

 すれ違う人に挨拶なんかしたりもする、愛想はいい。

「暑いですな、ご苦労さんです」

 それを見た、脚立を肩に掛けた綺璃子キリコ、脚立が似合う女がブッと吹き出す。

「な…な…なにしてるの?アンタ!!」

「なにが?」

「今、何してたの?」

「窓拭きや!! オマエがせぇ言うたんやろが!! なんやねん、いい気分で仕事しとるのに」

「そうじゃないのよ!! アンタ猫の自覚あるの?ってことよ」

「なんや猫の自覚?ありますよ!! バリバリありますよ」

「じゃあなんで、にこやかに話してんのよ、近所の方々と…」

「なんでや?アカンのかい?世知辛い世の中ですな…なんやネット社会言うんですか…なんや人と人との繋がりが希薄になっとる…これでいいんでしょうか?なぁ、綺璃子キリコよ」

 綺璃子キリコのふくらはぎをポンと前足で叩く。

「グゲッ…なんでや…なにか間違うたこと言うたんか…ワシ…」

「現代においては、人と妖怪の繋がりは希薄でいいのよ…自覚して…」


「まったく、猫の自覚っちゅうなら、なんでワシに窓拭きさせるかね…」

「もういいわ…アンタ、中でモップ掛けといて」

「モップ…持たれへんやん…」

「じゃあ…雑巾がけね」

「なんでや…なんでワシ罰ゲームやの」

「アタシに大恥かかせたからよ!!」

「なに?えっ?ジェスチャーのこと?アレ、ワシちゃうやん…オマエがノリノリでやったんやん」

「ノリノリじゃないわよ!!」

「イヤイヤでも無かったやろが!!」

 バシッ! イプシロン(仮)の顔に雑巾が叩きつけられる。

「コレや…パワハラですやん…レイはんに言いつけるからな!」

「よく考えることね…24時間、運命共同体ってことを…常に首根っこを掴まれている危険な状態だってことを…」

(アカン…目ェがマジや…コイツとるときは命掛けなアカン)

 イプシロン(仮)は、そう思ったそうな…。


 。―――。

「ただいま戻りました」

レイは~ん、綺璃子キリコが酷いんやで~、この職場はパワハラが横行してますよ」

「お土産ですよ、焼売です」

「ホンマ?ワシに?アリガトやんけ~」

 焼売を持ってはしゃぐイプシロン(仮)。

綺璃子キリコさんは?」

「ん…便所ちゃうか?なんやあの日かも知れんで、グゲッ…」

「違います、お帰りなさい不破ふわさん」

「はい、ただいま、仲よくやってたみたいですね」

「えぇ…仲よくってます…」

「それは良かった、今後も、店番お願いしなくちゃなんでね」

「お任せください、ねぇ~イプシロン(仮)」

 ニコッと笑う綺璃子キリコ、ゾクッと震えるイプシロン(仮)。

「今日は、店閉めますから、あがっていいですよ」


 。―――。

「なぁ~綺璃子キリコ、なんで機嫌悪いんや?急に始まったんか?」

「違うって言ってるでしょ」

「じゃあなんでやん?」

「アタシ…何してんだろって考えちゃって…」

「何って?」

「ん?仕事クビになって、怪しげなバイトして…1日中、猫と喋ってる…みんな働いてるんだよね…アタシ…」

「ええやんか…オマエ、ず~っと働いていたいんか?ワシ思うねんけどな、人間なんか100年足らずで死ぬんやで、ワシからしたらアッという間や、ええんとちゃうか?ほんの少しアホな時間過ごしたっても」

「そうなのかな…」

「ええんや…」

「うん…ありがと」

「ん?なんて?なんか言うた?」

「なんでもない」

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