第14話 封じ神

「おうおう、女将、ナンボなんでも、この扱いは無いんとちゃうか?」

 イプシロン(仮)が凄む。

「申し訳ありません…先ほども申し上げたとおり、少し訳ありでして」

「驚かれないんですね…彼を見ても…」

 不破ふわさんが女将を値踏みするように見る。

「えぇ…まぁ…」

「そうですね…ココにも居たんですね?」

「はい…ご説明します」


 この蔵は、従業員でも中は覗けないようになっていたのだそうだ。

 代々、この蔵の鍵は女将が管理し引き継いできた。

 旅館の『開かずの間』とは、この蔵に繋がる唯一の部屋のこと。

『開かずの間』外側からは決して開けることができない封じられた部屋。

 この蔵からつながる通路からしか入れない部屋。


「この蔵は…代々、特別な役目を担っていた使用人に使わせていたのです」

「守り人ですね」

「はい…」


 この蔵の中で生活していたのは、女将の妹。

「魅入られたのです…なまじ霊感が強かったばっかりに…」


 もともと、この蔵はただの見張り小屋、それを改築させて、ここに住み始めたのは女将の妹だったという。


「開かずの間に封じてたのは…座敷童ですか?」

「はい…6代前の主が、ある退魔士に依頼して、強制的に、この地に縛り付けたのだそうです」

「なるほど…その座敷童を逃がしてしまった」

「はい…妹が…そそのかされたのです、でなければ…こんなこと…」

「事情は解りましたが…探すのは手間かもしれませんよ」

「妖力を追えばええんやろ、れいはん」

「まぁそういうことなんですが…」

「アンタ…できるの?」

「アホ、ワシは大妖怪 猫又やぞ…犬ちゃうねん」

「できないんじゃない!!」

「犬ほどじゃないっちゅうことやん…ある程度は解るやん、たとえば…せやな…まぁ…ボチボチや…」

「なんもないのね…いいのよ…期待してないから」

レイは~ん…なんか言うたってぇな~、猫又の偉大さを解らせたってぇな~」

「大丈夫ですよ、綺璃子キリコさん、召喚の準備をお願いします」

「あっ…はい」

「僕は、ちょっと『開かずの間』に行ってきます」

「ご案内いたします」

 女将と不破ふわさんは、蔵の奥にある扉を開けて、『開かずの間』へ向かった。

 開けっ放しとなった扉の奥から、冷たい空気と少しカビ臭いを部屋に運ぶ。

「あんまり、ええ扱い受け取らんかったんちゃうかの」

「閉じ込めてたって感じよね…」

 トランプを箱に戻しながら、綺璃子キリコ

「アンタも封じ込められてたんだから、気持ち解るんじゃないの?」

「せやね…でも、ワシの場合、封印が中途半端やったせいか、妖気を、ある程度放出してしまうと、そこそこ動けてん、あんまり遠くには行かれへんけど」

「……アンタ、不自由って感じてたの?」

「そりゃ、オマエ多少はあったで、ワシ妖怪やで、妖怪から妖気取ったら、ただの怪しいやねんで、めっちゃ苛められるっちゅうねん」

「何から?他の妖怪?」

「いや…あんまり妖怪からは無いねんけど…野良ネコとか、犬とかな…カラスにも突かれることもあったしな…」

「アンタ…役に立たなそうね~」

「アホか! 妖気さえあれば…この間かて、土地神、瞬殺やん!」

「アレ…何なの?土地神ってなに?」

「ん?もとは、大したことないねん、土地神って言うても、神様ちゃうねん」

「なんで神よ?」

「神って字を充てるけどな、元は『守』と書くねん、守るっちゅう意味や」

「うん…そうなの?」

「せや、でな守る言うても、アイツらが守るんじゃないで、土地に住まうモノが守るっちゅうことや」

「ん?」

「逆やねん、オマエらが守ってやんねん、で、結果祀られるから、神という字に変わってん」

「あ~、何してくるの?その神様は?」

「基本、何もせんね~、でもないがしろにすると厄災をバラ撒くねんな~」

「はた迷惑な神様ね~」

「神様なんて、そんなもんやねんぞ、仏ほっとけ、神かまうなって言うやん」

「で?アンタに倒されたのは、大したレベルじゃなかったってこと?」

「うん…まぁ…精霊がワシの妖気吸っとっただけやから…返してもろただけやし」

「大妖怪って自称でしょ?」

「デカかったやん、大きゅうなりますやん」

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