えっ?そんなノリでいいの?

第13話 温泉ってだけで寛容になれる

「お~牧場は緑ー、良く茂ったものだ、ホイッ」

 綺璃子キリコとイプシロン(仮)が車の助手席で歌う。

綺璃子キリコ、パッキーあったやん、食べよ」

「ん~後ろの鞄に入ってるから食べていいよ」

「さよか…」

 ゴソゴソと旅行鞄を漁るイプシロン(仮)

「ん…綺璃子キリコ…オマエ、こんな布面積の少ないパンツ履くんかい」

「アンタ! どこ探してんのよ、エロ猫!!」

「エロいのは、オマエじゃ、淫欲ババア! オマエみたいなんが、うっかり妖怪になんねんぞ…ウグッ…カハッ…」

「妖怪に言われたくないのよ…それは、浴衣にパンティラインが出にくいように選んだのよ…解った…」

「…ハウッ…ハイィィイィィ…」


「ハハハハッ、綺璃子キリコさん、その辺にしないと、2人共逝っちゃいますよ」

「クハッ…ハァ…ハァ…不破ふわさん…ハハハちゃいますよ、アンタはんも大概ですな…さすがサモナー…」

「召喚も得意ですけど、昇天させることもできますよ、ハハハハッ」

「だから…ハハハちゃうっちゅうねん」


 。―――。

「なんで…離れなんや…」

「ペットがいたからじゃないの?」

「ワシ…大浴場がええ…」

「いいじゃない、個室風呂よ…見方によっては…」

綺璃子キリコ…オマエ、この状況を受け入れようっちゅうんやな…」

「だって…だって仕方ないじゃない…所詮、お客じゃないのよ…御飯が食べれるだけでも…それだけでも…グスッ…」

「泣くな! 泣いたら負けやぞ!」


「食事貰ってきましたよ」

 不破ふわさんがカップラーメンと菓子パンを持ってきた。

「エグッ…」

 綺璃子キリコの顔が悲しそうに歪む。

「アカン…見てられへん…ワシ一言、もの申してくるわ!」

「イプシロン(仮)…蔵からは24時回るまで出ないでほしいと言われてるんで、お願いします」

レイはん! 蔵っちゅうたらアカン…ワシらはな~、この窓も無い蔵を『離れ』と…このカビ臭い浴槽を個室風呂と脳内変換しようと…頑張ってんねん…現実的なワードを出したらアカン」

「うわ~ん…こんなはずじゃなかった~」

「泣くな! 綺璃子キリコ! 泣いたら負けやぞ」

「まぁいいじゃないですか…蔵とはいえ、部屋っぽく改築されてるし、電気もあるし、冷蔵庫の中には、ほらっ、ジュースもある 広めのビジネスホテルだと思えば」


 着いた時には、テンションMAXだったのに…地元で最も大きい温泉旅館。

 CMも流れてる、超有名旅館だ。

「こんなトコに泊まれるなんて最高ー!」


 変だとは思った…正面玄関から、大きく外れて案内されたのは立派な蔵…。

 山の上にある木々に囲まれた(隠された)蔵…。

「こちらでお待ちを…20時に夕食をお持ちしますので」

 中居さんがソレだけ告げて…軟禁された…。


「美味しいの~綺璃子キリコ…美味しいの~」

「うん…初めて見るカップラーメン…知らないメーカー…醤油味と言われれば、うんって言うけど…味噌だと言われれば、そうだねって答えると思うよ…なに味かもわからない」

「塩味や…涙の味や…やたらと甘いオレンジジュース…かえって喉が渇くの~」

「いやー、ご当地のモノを堪能するっていうのも旅の楽しみですよね」

「もうポジティブちゃうわ…この人…感情が死んでんねんな…若いけど…枯れとんねん」


綺璃子キリコ、トランプしよか?ホテイさんビール賭けよか?」

「うん…やる…現実を忘れられるなら…なんでもやる」

「アカンで…そないな、投げやりな思考やと、アッという間に闇落ちするで…」

「ココには太陽どころか…月明かりすら差さない…」

「テンション上げてこー!! レイはんも混じりや」

「僕は、ちょっと調べものあるんで」

 不破ふわさんは、神経衰弱を始めた2人を他所に、蔵の中を歩き回りブツブツ呟いている。

「アカン…ちょっとレイは~ん、静かにしといてもらえませんやろか?集中でけへんねんけど…もうかなりイカレてますんや」

「アンタ…メチャメチャ弱いわね…」


 ガチャッと扉が開いて着物姿の上品な妙齢の女性が入ってきた。

「こんなところでお待たせして申し訳ありません…訳ありでして…当旅館の女将でございます」



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