えっ?変身するの?

第5話 酒も呑むんかい

「なぁー、綺璃子キリコ、なんでワシを祓わんかったんや?」

「はぁ?アンタ祓ったら、収入が途絶えるからよ」

「金が欲しいんか?金があったら、ワシ祓われとったんか?」

「当たり前でしょ!! どうせ肩に乗せるなら、やたら攻撃力の高い、虫を愛するお姫様になりたかったわよ、なんか可愛いリス系だもん」

「なにをー!! ほなアレか、巨大な芋虫の触手の上で踊りたい言うんかい!!」

「いいじゃない、不気味で目つきの悪い猫よりいい」

「可愛いやんか、なんや小っさくて可愛いやんか!!」

「可愛い?妖しいだけでしょ、尻尾が2本ある猫なんて」

「そこを補って、余りある可愛さ秘めとるやん!!」

「黙ってくれる」

「なんでや、ワシ、ずっと喋る相手おらんかってん、ちょっと楽しいねんけど」

「コンビニ寄るから、おかしい人だと思われるから」

「充分おかしい人やぞ、パンツ履かんとミニスカートで歩いてんねんぞ」

「事故でしょ!! 成行きでしょ!!」

「成行きでパンツ脱ぐか?行きずりの情事に溺れるタイプか?」

「情事…あんな怖げな蛇男に、脱げ言われたらパンティくらいパッと脱ぐわよ身の危険超えて、命の危険感じたわ!!」


 。――――。

「おい…このビールうてくれ」

「ダメ、贅沢な、日雇い労働者には過ぎた代物よ」

「嫌やん、布袋さんがおるもん、、これがいい」

「ダメ…ホテイビールなんて贅沢なの、高いの」

「これがええ…ワシ、布袋さんに世話になったんや…コレにしよ、恩返しや」

「ところでアンタ…酒呑むの?」

「呑むで、呑み友達になろか?」

「……金掛かるわ~、えっ、飯も食うの?」

「食うで、ラーメン好きやで」

「いいとこないな~化け猫…」

「化け猫ちゃうわ!! 猫又や」


 。――――。

「オマエ…ええトコ住んでるの~」

「稼ぎは良かったのよ…ちょっと前まで…」

「はい、ただいまっと」

「おじゃましますでしょ」

「オマエ…知らんの?」

「なにが?」

「はぁ~ええか? 繊細な中学生が、なんや三十路のキャリアウーマンのマンションで初めて暮らす夜にや、おじゃまします言うたら、ただいま言えって…そうやって距離が縮まるんや、気遣いや」

「三十路の日雇い労働者のマンションに、年齢不詳の妖怪が世話になるんでしょうが!!」

「アホか!! この後、風呂に入ってパンツ見て…明日からの不安を醸し出すんやないか」

「祟られてんだよね!! なんで歓迎ムード?」

「器量の狭い女やのー!! 勝負パンツはサラッと渡したクセにのー!! 大体、オマエ、ワシが祟らんかったら、このビールも、サラミも買えへんかったんちゃうんかい」

「オマエが祟らなかったら、ノーパンでコンビニ行かんでも良かったのよ」


 。――――。

綺璃子キリコ…なぁ綺璃子キリコ

「気安く呼ぶな」

「オマエ、なんか忘れてない?」

「なにを?ホテイビールに缶チューハイ…サラミ、柿の種、イカ…大体OKよ」

「違うわボケ! ワシのことや」

「あっ、猫にイカ、ダメだったっけ?」

「ちゃうわ…生でなければ大丈夫やで…そうやない! 名前、ワシの名前、聞いとらんやん?」

「あ~そうね…そういえば…妖怪に名前とかあるんだ」

「あるやろ…そりゃあるやろ」

伊部いべ 四郎左衛門しろうざえもん言うねん」

「言い難いわね…めんどくさいうえに、古臭いわ」

「なにを、その昔、付けてもろうた大事な名前や」

「今風に変えたら?」

「嫌や、伊部いべ 四郎左衛門しろうざえもんって呼んでほしいわ」

「面倒クサ、まぁ呼ぶことないからいいけど」

「なんでや!! 共同生活で呼ぶことないことあるか?」

「トラ猫だし…トラでいいんじゃないの?」

「嫌やん…なんか、ごっつい戦いに巻き込まれそうな予感しかしない名前やん…稲妻とか出せへんし…火も噴かれへん」

「いいじゃない…そのうち、キツネの妖怪と戦えば?」

「ワシはそんな度胸ないで…ええ妖怪だからね…祀られとったわ~」

「封じられてたの間違いでしょ」

「封じられるほどの悪い事はしてへん、オマエとちゃうねん、ワシはパンツも履かんと大股開きで酒呑めるほど気ぃは強うない」

 パッと足を閉じて、猫又を殴る綺璃子キリコであった。

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