番外編 クリスマス
過去話・親の居ない、兄妹だけのクリスマス 前編
今回はクリスマスと40話目を記念して、近藤 駿が転移してしまう、一年前の高校一年生の時に、クリスマスを義理の妹たちと一緒に迎えた、過去のお話です。(所謂番外編ですね)
前編約6000文字、後編約20000字で分かれており、計26000文字と、普段から大体一話5000文字で投稿している私にとってみれば、5話分に相当する文字数で構成されております。
どちらも本編とは一切関係のない、番外編ですので、「いきなり違う物語になったぞ?」と間違えないようにお願い致します。
この番外編を飛ばしても勿論構いませんが、後々本編にも妹の一人が登場するかもしれないので、今のうちに容姿や性格を知っておいた方が言いかもしれません(笑)
長々と失礼致しました。それでは、お楽しみ下さい。そして、これからもよろしくお願い致します。
メリークリスマス^^
2017.12 25 水源+α
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『───珍しく今年の冬は、各地で降雪し、多いところだと膝の少し上辺りまで積雪しています。特に札幌、函館にちょっとした吹雪が発生し、外を辛うじて歩ける程度に歩行者の行く手の視界を濃い霧が遮っています。風も強く、目を開けるのが困難なところもあります。また、道路が凍ってしまったことによる、山道での交通事故が早速三件発生しています。情報ではスリップによる事故のようです───』
と、老若男女誰が聞いても、耳当たりの良い透き通るようなアナウンサーの声が、雪が降り積もる各地の映像をバックに、テレビから朝の食卓に響かせていた。
ふと、閉めているカーテンの隙間から窓の外を覗けば、テレビの雪が降り積もる映像と同じような光景が広がっている。
ネギを栽培しているちょっとした庭は、見馴れた光景から今はがらりと姿を変えて、何の変哲のない雑草や花、ネギまで全てのものに雪が装飾されていて、なんだか見ていて飽きない。
「────......すげぇなぁ」
そう窓の前で呟いたのは、パジャマの上にジャージ、挙げ句にはパーカーについているフードを深々と被っている、自身を見る者を寒くさせるそんな格好をしてるのは、駿だった。
「───兄さん。ほら早く、冷めちゃうよ」
「あ、すまん。雪をみて興奮してたわ......」
「はぁ......兄さん来年から高2なんでしょ? そろそろ子供っぽいのなんとかしてよね。私の高校デビューを恥ずかしい兄が居たせいで失敗とかホントに有り得ない話だから」
「と、いってる望結(みゆ)だって内心は雪で興奮してるんじゃないのか?」
「......」
「はい、無視ですね。......それにしてもスルースキルが年々上達してるような気がするな。流石、俺の妹だ......」
「......なに一人で感心してるの。というか早く座って! 食べれないじゃん」
「お、おう」
と、駿にキツく当たるのは、近藤家で一番下の末っ子である、現在中学三年生の望結だ。
今はショートボブの髪型だが、学校や外に出掛ける時はポニーテールに変える。
少しじゃじゃ馬な性格だが、意外と純粋(ピュア)で、特に恋に至っては興味がない、というより、どうやっていけば良いのか分からないため、告白されては断っている。
見た目は10人に8人は一目惚れしてしまうぐらいに整っているので、一日に一人は告白しに来る模様。
それと、兄である駿には出来るだけ厳しくしている模様。
そんな駿の妹である望結は、机に並べられている料理を前に、ご立腹の様子で待っているので、察した駿は急いで望結とは向かいの席に座った。
何故、駿が揃わないと朝食を食べれないというと、───食べ始める時は出来るだけ皆で。という近藤家の家訓あるからだ。
「あ......結(ゆい)、兄さんが座ったよ~! 早く食べようよ」
駿が席に座ると、今度はその席の隣が空いてることに気付き、望結はキッチンの方にそう呼び掛ける。
「───今行く~!」
すると、エプロン姿をしたセミロングの黒髪をした、初見の人ならば美人だと思うだろう、大人っぽい女性がキッチンから現れた。
直ぐにエプロンを脱ぎ、近くのソファーに畳んで置くと、小走りで着席する。
「お待たせ~......じゃあ食べよっか!」
「いやいや、待ってないぞ。というかいつもありがとな」
「そうだよ結。無理しないで。私も早く......作れるようになるから」
駿と望結がそう言うと、結と望結に呼ばれた女性は、クスりと笑い
「......ん。二人ともありがと」
微笑んだ。
「......じゃあ食べるか。マジで旨そう」
「そうだね。じゃあ───いただきます!」
「「いただきます」」
音頭を取った望結に二人とも便乗し、朝食を食べ始める。
こうして十二月二十五日───近藤家のクリスマスの朝が始まった。
朝食を食べ終わった駿は、そういえば両親が居ないことを疑問に口に出すと、望結からこんな返答されていた。
「今、お母さんとお父さんは、二人でクリスマスの記念に旅行らしいよ」
「え......マジで? そんなの聞いてないんだが」
「だって今朝に出掛けていったもん。ほら、このメモ用紙。私宛、結宛......と、なんか兄さん宛の置き手紙があるよ」
「どれどれ......」
"───駿へ
ごめんなさい黙ってて。でもお忍び旅行ってなんかドキドキするからついやってしまったの......
一応、三泊四日の旅行先は隣の静岡県のど・こ・か......よ? え? 教えるつもりはないわ......だってお忍び旅行だもの。
することは......色々よ? ちょっと汗をかいちゃうからもしれないけど......
それより、駿のクリスマスプレゼントは例のアレを隠してる場所に置いておいたから、確認してみてね?
本題に入るんだけど、お願いがあるのよ───"
「あぁ......なんだろうな。俺の母親ってなんでこうアレなのかな......」
と、ここまで読んだ駿が徐にそう呟くと、望結が「え? なにそれ」とその言葉の真意を問う。
「いや、ラブラブだなってな......両親が」
「あ、そういうこと」
言われたことが望結にも心当たりがあるのか、直ぐに納得する。
しかし、言葉ではそう望結に言ったが、駿の本心は違った。
お忍び旅行ってなんだよッ!? どれだけあんたらは昔の恋愛ドラマで良くある親に反対されたからバレないように駆け落ち風なことしたいんだよ! 絶対お忍び旅行ってそれの延長線上にあるものじゃねぇか! しかも何故に静岡県のどこかに行こうとしてるんだよ。てかどこかってなんだよどこかってぇ! それと次の文面に、することについてで『汗をかくこと』って書いてるけどさ......今ね、冬だよ? 十二月だよ? しかも関東でも珍しく大雪の時期だよ? そんな状況下で汗かくことと言えば......おいおい。まさか聖夜に何かやるつもりだろ。激しいの絶対やるつもりだろっ! にしても元気だな! お兄ちゃんビックリだよ! んで? プレゼントの居場所についてだけど? 例のアレを隠してる場所と............お母さん? プレゼント隠す場所考えましょうね? というかそこ、元々別のもの隠してるから。秘蔵コレクションの隠し場所だから。クリスマスプレゼントは聖なるイベントだから。というか、ジャンルが180度違うよね? 良い子に欲しいものをあげる心暖まる全年齢対称のイベントなのに、なんでR18の要素が一杯つまってる場所にわざわざ置くのかね。もしかしてプレゼントもR18だから、秘蔵コレクションと大差ないからそのまま入れちゃえって感じ? もしそうだったらな......ふざけんなよッ!? 俺がほしいものはそんなイカ臭い奴じゃねぇから! というか余計なお世話だわッ!? ......いや、一番の問題はそこじゃない。なんで秘蔵コレクションの居場所がバレバレだったんだ......上手く隠してたつもりの筈だが。あぁムカつく......置き手紙に、この機に及んでバレてることを報告するってマジで性格悪いな。あの魔女め......今度魔女だけの料理に塩を入れてやるっ......
と、かなり怒り心頭のようだ。
「はぁ......」
「......だ、大丈夫?」
と、手紙を読んでいる途中で疲れたように何故か深く嘆息した駿に、望結は不思議に思い、首を傾げると
「......あぁ。頑張る」
そう返してきた。
「へ?」
が、頑張るって......手紙の内容ってそんなに辛い内容なのかな
思わず望結がそう腑抜けた声を出してしまったが、それに構わず駿は読み進める。
"───実は望結と結の分のプレゼントを買いそびれてちゃったのよ......だから駿、代わりに買ってあげて渡してくれないかしら?───"
「......ふーん」
結構しっかりとしてる方なのに、ここで本当に買いそびれてしまったのかは怪しいところだけど......ま、それぐらいなら出来るし。それに、俺だけ貰ってても不公平だしな......
"───それと、今日は二人の元にいてあげて頂戴ね......二人ともしっかりしてるけど、なにかと寂しがり屋だから。
じゃあ二人をよろしく頼むわよ。余りにも短文な置き手紙だけど、時間が無いから勘弁してね。
───母より"
「......なるほど」
つまり、お兄ちゃんとしての務めを全うせよ......ということだな。でもプレゼントと買いに行くのに二人の元に居ろというのは無理難題過ぎるわな......
そう苦笑し、読み終わった置き手紙を丁寧に折り畳み、ポケットに仕舞う。
「どうだった?」
見計らったのか、望結がそう聞いてきたので、駿は「いや......ただ親の仕事を押し付けられただけだよ」と、笑う。
「へぇ......どんな?」
「それはまぁ......色々だよ」
「......すぐそうやって誤魔化す」
手伝ってあげようと思ったのに......
そうやって頬を膨らます望結に、駿はおどける。
「すまんな......説明しにくい内容だから。じゃ、俺は部屋に戻るから」
「......」
踵を返し、階段を上がっていく駿の背中を見送る望結の表情は何処か寂しそうだった。
= = = = = =
駿の部屋は、何かと清潔を保っている。
といっても、興味があること以外は面倒臭いと思っている本人のがさつな性格の主である部屋が片付いている状況を想像できないだろうが、実際、良く駿は考え事があるときに部屋が片付いてないと気にしてしまい、掃除をしてしまうらしく、潔癖症までとはいかないがかなりの綺麗好きなのは確かである。
しかしそれは自分の部屋限定の話。
事実、人並み以下にバックの中は整頓されてないし、ロッカーに限っては過去のプリントが十数枚も入っているので、自分の部屋以外はどこにでもいるようながさつな男だ。
内装は至ってシンプル。
ベットを扉から見て左の壁際の置き、右には少し大きめなテレビの両側に漫画や資料等の本棚が置いてある。
勿論、駿は無類のゲーム好き、所謂ゲーマーなので、テレビを置いてある棚にはびっしりと色々なジャンルのゲームカセットが並べられ、脇には種類の違うゲーム機が置かれている。
何一つ、埃を被ってない様々なゲーム機達を見ると、普段から一つのゲーム機だけを使用しているのではなく、満遍なく全てのゲーム機を日によって分けているのか、使われているのが分かる。
そして、扉から正面には大きな窓の側に、勉強机があり、埃を少し被っているので、しばらくの間使ってないのが見てとれる。
その使われていない机の脇には、ちょっとしたクローゼットがあり、余りファッションに興味がないのか、服が少ないため容量は小さめである。
目立つのはやはり、ゲーム機とカセットが人並み以上に多いところで、それ以外は特になにも特徴はない、普通な男子高校生の部屋だ。
「......」
そんな見馴れた光景を一瞥した後、駿はクローゼットの前に行き、早速妹達へのプレゼントを買いに行くための準備を始める。
適当でいっか......服は。どうせ美形家族の不良品である俺に似合う服は無いからな
そう自嘲しながら、長袖の白いヒートテックの上に、グレーのTシャツを被り、早急にパジャマのズボンを脱いでジーパンに履き替える。
元々着てあったパーカーにまた腕を通して、平凡な黒いコート羽織って、この頃登校時に使っていたカーキ色の結の手編みマフラーを首に回して、鏡で確認する。
......うーん
やはりファッションには興味がない駿に、服の良し悪しなんて分からないようだ。
......まぁ無難だろ
「さてと......後は財布財布───っと、あった。どんぐらいあるかな?」
......お、諭吉が三枚か。大丈夫だな
小銭は数えてないが、そう判断した駿は直ぐにポケットに財布を入れて、置き手紙を自分の机の上に置いた。
折角書いてもらった手紙だから、くしゃくしゃにする訳にはいかないでしょ......
「よし、じゃあって......今八時だな......この時間に行っても絶対開いてないな」
暖かいパジャマから寒い思いをしてまで着替えた手間は一体なんだったのだろうかと、損した気分になったが、沈んでいく心に、このままじゃいけないと駿はここで発想を転換させる。
「妹達のためさ......」
もし、ここに人がいるとするならば、この発想を聞いてどう思うのだろうか。
多分、大多数が思うのはこうだ───
───「兄って......単純だよな」
しかしそれは、兄のところを男と書き換えても全く意味は同じなのではないだろうか。
男って単純だよな......か。確かに、本質的にはどちらも女の子のために苦労する男の姿だからな......
そんな考察に苦笑いを浮かべた後、ベットに倒れ込めば、これまた見馴れた白い天井が目に視界に広がった。
「......ふっ」
これから、俺はこんな寒い中を妹達のために奔走する。そう、プレゼントを買うためだけにな......
何故だか、一人で居るときに、男子というのは無償に格好つけてたがる時がたまたま訪れてくる。
心の中でそう格好つけたとしても、当然誰も認めてはくれないのにだ。
そういう時が持続してしまう状態のことを、人は厨二病と呼ぶのかもしれない。
「───駿、ちょっといい?」
「ん?」
思い耽っていると、突然扉の向こうからそう呼び掛けられる。
「結か。どうした?」
「あ、うん。実はね、結構玄関の前に雪が積もっちゃってるから、雪掻きしようと思うんだけど......もし良かったら手伝ってくれないかな? 出来るだけ人手が欲しくて......」
「え? 雪掻き? 別に良いぞ。というか、手伝ってほしいときはじゃんじゃん俺に言ってくれ。普段からお母さんの家事を半分やってくれてるし、今日から三日間に至っては家事を任せちゃうと思うし......出来るだけ手助けしたいんだ。家事で出来ることは......あんまり無いけど」
「......」
そう扉の向こう側の結に聞こえるように大きめな声で言った駿の言葉に、結は少し間を空けてから返答した。
「そんなことないよ。駿は......望結は勿論、私のことだって普段から助けてくれてるよ?」
「え?」
俺なんもしてないだぞ......自分で言うのもなんだが
「......なんか、ね? 駿の側に居るときって安心するんだよ......実際、両親が居ない間家事どうしようって......最初は不安だったんだよね......」
「それは......当たり前じゃないか? 誰でもいきなり慣れてないことをやれって言われても戸惑うって......」
「う、うん......でも......今日の駿の寝起きの顔を見た瞬間、それが吹っ切れたみたいだったんだ......」
「成程......つまり、寝起きでさらに不細工になった俺の顔を見て笑ったから、その拍子に不安な気持ちが吹っ切れた......と」
「い、いや! そういう意味じゃなくて......えっと───「うそ」───......え?」
自分が言ったことを取り繕うとして扉を思いきって開けた瞬間、嫌味が無い笑顔を向けられたため、思わず結は困惑する。
「ちゃんと分かってるよ。お前が言いたかったこと。まぁちょっとからかったが......」
一方、自分の部屋で呆然としてる結を、駿は面白く思いながらベットから立ち上がり、やがて結の肩に手を優しく、そっと置いた。
「そんぐらいで助けになったんなら、これから幾らでも寝起きの顔を見せてやるよ。だって寝て、起きたときの顔を見せれば良いだけのお仕事だしな」
「......駿」
「それに、その......安心するって言われた時、正直嬉しかった。......俺、普段から家にいるとき、いっつも望結とお前に助けられてばかりで、兄として何もしてやれなかったから......何処かで負い目を感じてたんだよ。これまで......しっかりと形のあるものを渡すことが出来なかった......」
「......でも、こうして今も......安心させてくれてるよ?」
「......そうなのか? ただ面と向かって話してるだぞ?」
「そうだよ? だけど......それだけでも、形が無いものを渡してくれてる」
と、笑顔で言った後に、やがて片方の右肩に置かれている駿の左手の上にそっと空いている方の左手を添えて、目を瞑る結。
それに少し瞠目した駿は、恥ずかしくなったのか手を退けようとしたが
「ねぇ......駿」
「な、なんだ......」
「───ありがとう」
「......!」
そう結から礼を言われた駿は、退けようとした手を諦めたように力を抜かせ、やがて微笑んで、こう返したのだった。
「............何もしてねぇって言ってるだろが......全く」
───雪が降るクリスマス。
時刻はまだ午前八時。
まだまだ聖なる日は始まったばかりである。
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