第八章 スライムプレイ~そこは口じゃないッス

22:スライム娘のお膝に沈んで


「今日一発目は、恋人コースでーす」



 朝、受付に入るなりルーシアさんが言った。

 はじめてやるコースだ。


 俺と客の女の子は恋人同士!

 という設定でいちゃつくコースらしいのだが、俺、彼女いない歴=年齢だからね。

 脳内ではいろいろやっているけれど、現実で試したことはない。

 果たして俺の妄想力が通用するのか、腕の見せ所だ。


「トモマサさんって、彼女いない方なんでしたっけ。大丈夫ですかー?」


 不安が顔に出ていたのかな。言われてしまった。



「だ、大丈夫です」


 ここで脳内の俺なら、


『なら君が彼女になって、いろいろ教えてくれるかい?』


 なんて言っちゃうんだけどね。

 そして真っ赤になったルーシアさんの頭を撫でて、そっと口付けするの。


『も、もーっ! 女の子の扱い、慣れてるじゃないですかっ!』


 とかね。

 頬を膨らませるルーシアさん。


「本当に大丈夫ですかー?」


 現実のルーシアさんの声に、ハッとなった。

 俺はコクコク頷いて、指定されたプレイルームへと急いだ。

 今回は彼女の家に訪れる、冒険者の彼氏という役目らしい。

 なので、先に女の子が部屋で待機してくれている。


『やぁ、待たせてごめんね俺のお姫様』


 と、片手を上げながら入るか。



「いやだめだ。イケメンじゃないリアルの俺がやっても痛いだけだ。ここは、はじめて訪れる彼女の家に、ドキドキしっぱなしのウブな少年で行こう。慣れない女の子の部屋にキョロキョロしちゃって、向こうから『こっちに座りなよ』なんて言ってもらうのを待つパターンだ!」


『それ演技でもなんでもない、素のトモマサさんじゃないですか?』


 とか言う女神様の姿が浮かんだが、関係ない。

 とりあえず、まずは部屋を二回ノック。



「って面接か!」

 反応がないので、開けちゃうことにした。



「まずは女の子の可愛い部屋にドキッとする演技だ」


 そう、可愛い部屋に――。

 扉を開けると、草原でした。

 人工芝が床一面に植えられていて、壁には森の絵、天井には青空の絵。部屋っつーか、大自然じゃねえぇか。



「あ、来てくれたッスね?」



 ロリっぽい声にびくっとして、横を見た。

 切り株のオブジェに、女の子が座っている。

 顔は可愛い。ショートヘアーに短パン、貧乳というボーイッシュなタイプだ。

 顔はほんと可愛い。


 だが肌が水色だった。



「スライムのローラです。よろしくッス」


 まさかのスライム娘だった。


「さ、遠慮なく座って?」


 ローラが首を傾けた。

 どこに?


「早くするッスよ」


 ローラが目をウルウルさせるので、とりあえず正面に座ってみた。

 草の上だ。



「違うッス! いつもみたいにぃ、ローラのお膝ッスよ!」


 そんなの知るか。

 って、お膝だと!?

 それはつまり、女の子の上に乗っかってもいいってことか?



「そ、そうか。そうだったね。じゃあ、いつものように、上に座ろうかな?」


 本当にいいんだよね?

 恐る恐るローラの膝の上に、お尻を乗せる。


 うわぁい、女の子のお膝だぁ!

 その感触は、きっとマシュマロみたいにふかふか――ぶよよん。

 はじめて味わう女の子のお膝は、そんな感じの感触だった。

 後ろをちらりと見ると、大きな瞳がすぐ側にあった。



 つい視線を下に向けてしまい、


「ひゃんっ。ど、どこ見てるッスか!」


 ローラが口元をおさえ、喘いだ。

 どこって、口だけど?



「もう、すけべ……」



 ローラの水色の頰が、ちょっぴり赤くなった。

 えええー。

 なんで照れてるのかわからない。


 というかさ。

 耳元で喘がれると、ゾクゾクして気持ちいいんだけど、お尻がさ、ぶよぶよでちょっと硬いゼリーみたいなお膝に沈んでいく感覚が、なんだかちょっと気持ち悪いんだ。

 肌色は水色でも、見た目皮膚は人間と同じっぽかったのに。

 やっぱりスライムなんだなぁ。



「あんまり、ローラのお膝、気持ちよくなかったッスか?」


 あ、やばい。

 考えていることが顔に出ていたみたいだ。



「あ、いえっ、そんなことはっ」

「実はローラ、こういうことしたことないッス」


 えっと、それは演技なのかな。

 それとも?


「ローラ、彼氏とかいたことないんス。だから、せめてお店の中でくらいそういう関係を味わいたくて……」

「そ、そうだったんだ。ごめん。実は俺も彼女とかいたことなくて、慣れてないんだ」

「そうだったッスか。なんだかローラ達、似てるッスね」


 えへへ、と頬をかくローラ。

 あれ、なんだろう。可愛いぞ。

 いやさ、顔はもともと可愛いんだけども。


「こういう時って、本当はなにをすればいいッスか?」

「え、ええっと」


 一緒に映画を見る――は、異世界じゃ出来ないし。

 一緒にゲーム――も無理だよな。

 じゃあなんだ?

 一緒にモンスターを狩る?

 もちろんモンハンではなく、リアルファイトだ。

 嫌すぎる。



「お、おしゃべりとか?」


 自分で言うのもあれだけど、クソみたいな提案だった。

 だけど、ローラさんは笑ってくれた。


「そうッスね。それじゃ、そうするッスよ!」



 そういうわけで、俺たちは人工芝の上に向かい合う形で座り込み、お互いのことを話した。



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