第二章 はじめてのえっちなお仕事

06:“騎士団コース”猫耳にペロペロされてみた結果



 夕方。

 部屋の壁に背を預け、空気の抜けきった風船みたいに力なくうずくまっていると、女神様が入ってきた。手には焼いたキノコと肉の刺さった串。お外を満喫していたらしい。


「初日のお仕事はどうでした? えっちな思い、出来たんですか?」

 肉を頬張りながら、女神様が訊ねた。


「うん、まあ……」

 俺が頷くと、女神様は隣に腰掛け、女神様ウインドウ(俺命名)を開く。


「どんな感じだったか、見ちゃいますね」

「……見るってなに?」


 ウインドウに、動画らしきものが映り込んだ。受付でルーシアさんの話を聴く俺が見える。

 あれ、これ今朝の俺?


『トモマサさんの初めてのお仕事内容ですが――“騎士団コース”にて、王国騎士団のプライド高い若きエリート隊長(男だけど強い)が部屋に荷物を取りに戻ったら、賊の女が侵入していたのでとっちめてお仕置きしてやる――というシチュを所望されていまーす』


 ルーシアさんの声が聴こえた。



「確かお客さんが好きなコースとシチュエーションを選ぶんでしたよね。いきなりマニアックですね。あ、着替えシーンですね。トモマサさんのお着替えとか誰得なんで飛ばしますね。早送り早送り」

「おお、まるで録画再生みたいに――じゃなくて!」

 俺は床を叩いた。


「えっ? なにこれなにこれ? 盗撮?」

「これも女神の能力です♪」


 にっこり笑う女神様。

 女神の力、ろくなの残ってねえ。


「盗撮は犯罪じゃ……」

「盗撮禁止なんて法律、この世界にはありませんよ」

「それはカメラが存在していないだけなんじゃ……」


 動画の中で、騎士団風の茶色いジャケットに着替え終えた俺。歯磨きと洗浄液で口内を綺麗にしてから、更衣室を出る。そして、プレイルームに移動。

 部屋はソファとベッドだけが置かれた小さなものだけど、一応隊長の自室という設定らしい。


 部屋の中央には革のバッグが置かれていて、赤いロングヘアーの女があさっていた。猫耳を生やした、おっぱいの大きい女性。歳は多分20前後で、ビキニアーマーと呼ばれる露出度の高い鎧を着ている。

 今回のお客様にして、賊役だ。

 いきなり美人の相手とか、緊張したよ。


『にゃ、にゃんだきしゃまっ! くせものにょぉっ!』

 動画の中の俺が言った。


「あっははは! 噛み噛みじゃないですかーっ! あのセリフ、トモマサさんが考えたんですか?」

 女神様が画面を指差しながら笑う。恥ずかしい。


「ぞ、賊に入られたっていう設定だから……」

「だからって“くせもの”はないですよ。時代劇かっての。ぷぷーっ」


 くっ。好き勝手言いやがって。

 俺(動画)はドアを閉めると、そのまま入り口で硬直した。

 この後なにをすればいいのか、わからなかったんだ。

 女の方は、俺が初めてだということを説明されているらしいけどさ。ルーシアさんが、その上での指名なのだと言っていた。


 だからかな。彼女の方から動いてくれた。


『見つかったニャ! こうなったらお前を始末してやるニャーッ!』

 襲いかかる猫耳の彼女。顔は可愛いのに、思いの外力が強くて、あっさり押し倒される俺(動画)。


『ヒャッ』

「あははは! なんですか今の悲鳴! ヒャッだって! か弱い乙女ですか!」


 バンバン俺の背中を叩く女神様。

 自分の羞恥プレイを美少女に見ながらいじられるって、どんなプレイなの?

 妄想だったらご褒美に感じられたかもしれないけど、実際やられるとすげえ恥ずかしい。つーか、死にたくなる。


『兄ちゃん、近くで見ると可愛い顔してるニャねぇ』


 猫耳ちゃんは、俺(動画)の両腕をしっかりと掴み、顔を近づけてくる。

 近くで見ると、結構腕とか引き締まっていて、腹筋も割れていた。

 女のほうが強い世界って、こういうことかよ。


 動画の中の俺は、自分こそが子猫だ!

 とでも主張しているように、プルプルと震えている。


「ちょっとトモマサさーん、ガクブルじゃないですかーっ!」

「いやだってさ! めっちゃ力強いし、筋肉あるし、怖かったんだって! 今まで強姦シチュの同人誌を使ったこともあったけど、あの時の女の子ってこんな気持ちだったんだなって、思ったら……ほんと、怖くて……」


『肌もモチモチニャねぇ』


 頬を舐められる俺(動画)。

 美人にペロペロさせれてご褒美?

 舌はめっちゃザラザラで痛いし、掴まれている手首も痛いし、恐怖しか感じなかったぞ!


『へへへへへ……』

 しかもなんか鼻息荒いし、獣臭かったし。


「ほんとに、怖くて……」

 恐怖を思い出したのと、こんな姿を見られて情けないのとで、泣けてきた。


「ちょっとトモマサさん!? マジ泣きはやめてください! わ、私がイジメてるみたいじゃないですかっ!」


 あれ、マジで涙出てきたみたいだ。

 女神様が慌ててる。

 だけど、動画は止めない。


 結局、その時の俺は何も出来ずひたすら二時間、顔や首を舐められ続けた。その様子を、飛ばし飛ばしだけども、最後まで見切った女神様。

 っていうかさ、俺がお仕置きするシチュなんじゃなかったの?




「……改めて聞きますね。初プレイ、どうでした?」

「なに? また俺を泣かせたいの?」

「あ、泣いちゃいます? ティッシュありますよ」


 どん!

 とトイレットペーパーを床に置く。

 ティッシュじゃねえじゃん。



「で、どうでした?」


 しつこっ!

 他人事だと思って、楽しんでやがる。


「なんかさ、顔洗ったんだけど、まだなんか獣臭いのとれなくて。妄想の中じゃ臭いとかしないから、獣娘って、あんなんなんだねっていう……」


 夢は夢のままにしておくのがいいっていうね。

 それとも、あの娘が例外だったのかなあ。

 後者を祈る。


「ま、まあ、ほら、今日は二人相手にしたんですよね? ルーシアさんから聞きましたよ! もう一人の方、見てみましょうか!」


 フォローしようとするわりには、続きも見るんかい。


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