第27話 新生活と有能過ぎる管理者
「母神様、履歴を確認したんですけど、お仕事に関係ないですよね?」
「だからって、私から雲の巣・改を取り上げるの酷くない?」
「歌姫には何て言われたの?」
「歌の母様は雲の巣・改使わないもの。泊めて頂いて、訴えてはみたんだけど、
微笑んだり抱きしめたりするばっかで」
「ああ、目に浮かぶわ。『うふふふー』って感じよね」
「そうそれ」
「で、利用資格のある私に言いに来たと」
「うん」
「そうねえ。あなたのツブヤキ中毒は目に余るものがあるから、
止めてくれる人がいて、私は良かったと思う」
「華の母様まで!」
「ほらほら、すぐに敵か味方か、みたいな捉え方しないの」
「むー」
「雲の巣時代から使っているけど、あなたが保守管理を引き受けてくれて
安定したし、扱える情報の量も増えたし、『雲の巣・改』は別物じゃない?」
「うんうん」
「真朱から私達利用者へ説明が送付されたの。
精霊界の考え方を応用して、暗号の強度も高めてくれたし、
万一の場合の復元もきめ細やかに対応できるようにしてくれたわけじゃない。
あなたが整えた物をさらに洗練させたわよね」
「うん」
「真朱はあなたより適任なんじゃない?」
「そこはそうなんだけどー。あの子、私に厳しい」
「あなたに厳しくできる存在って少ないもの。いいじゃない」
「もー。華の母様も分かって下さらないいい」
「どうする? 泊まってくなら歓迎しますけど、真朱に心配かけるの可哀想でしょ」
「もうちょっと一緒にいて」
「はいはい。あなたの甘えグセも、だんだんおさまるのかなあ」
「自立の話は真朱から振られるだけで十分よお」
「今まで通り、甘えていいから、泣いてしがみつかないの」
だって、くっつくと、体温とか香りとか、華の母様を近くに感じられるじゃない?
そうそう、体温と香りで思い出しました。
華の母様は体に関して地雷って無いの。でもね、幼い頃、うちのお母様に、
『お母様のお胸はこれから大きくなるの?』って尋ねて、
『どうせツルペタですよ!』ってマジ泣きされたことがあったなあ。
歌の母様とか、小町の母様を見慣れたら、幼児としては疑問を抱かない?
人の心に地雷があるなんて、知らなかったし。
今でも、お母様に「幼児にマジ泣きするのどうなの?」って言うとね、
「あなたの母親としてちゃんとしようと思ってイッパイイッパイだったんだもの。
歌姫さんと比べられて、不満を言われたように思ったのかなあ」なんて仰るの。
お母様はお母様で綺麗だと思うのよ? 抱きついた時に迫力あるのは歌の母様ですけど。昨夜も一緒に寝てて、手持ち無沙汰で無意識に触ってたらしくて、くすぐったがられました。
「私達の甘えん坊さん。真朱から私にツブヤキ入ったわよ?」
「何て?」
「『母神様は、定期的に眠りが浅くなるので、歌姫様・華の君様に
一緒に寝て頂いて、バランスを取っていると伺っています。
私ではお役に立てないことなので、ご本人が満足するまで、
居させてあげて下さい』だって」
「今回は、雲の巣・改を取り上げられたことへの、抗議の家出なんだけどなあ」
「真朱は気にしてないみたいね。あなたがいないから、仕事が捗るんじゃないの」
「帰ってこなくていい的な空気出されるの悔しいわね」
「気が済んだら帰ってくると、自信があるんでしょ」
「真朱に振り回されてるけど、私、最高神よね?」
「私にとっては、ただの甘えん坊さんですけどね」
「華の母様、面白がってるでしょ」
「ええ。真朱が現れて、あなた達がどう成長するか、すごく楽しみ」
――雲の巣・改を使ったまま寝オチして、実家の自室と同じように快適に散らかした私の部屋の床に、私が下着姿で落ちてるのを真朱に見られたの。
管理者を任せる前は、「あまり根を詰めてはいけませんよ」とか「私以外目にできないとはいえ、年頃の女性がそんな姿で床に落ちてちゃだめです」って、たしなめられる程度だったんだけどね。
・新たな機能を増やす時は相談して
・今ある機能を安定させたり効率的にするのは好きにやっていいよ
真朱ってやること無いと落ち着かないし、何かしてあげたい情熱も強いから、こんな感じで雲の巣・改の管理者を任せたの。私しか読み書き出来ない部分は、読み方を教えたらすぐ学習して、世界を維持管理する言葉に置き換えたわね。その方が効率的だし、私も読めないですし、精霊達から情報が漏れる心配も無いですし。
その過程で、私の雲の巣・改の使い方が、仕事への利用よりも、「ツブヤキ」で遊んでる頻度が高すぎるってバレちゃったの。仕組み全体を改善したり書き換えて、私の履歴まで確認するって、どんだけ集中したのよ……。
真朱はお祖父様と相談していました。
「賢者様は、雲の巣・改を使われて不便な点はありますか?」
「そうじゃなあ。雲の巣の頃から使っておるが、あの子とお前が環境を整えて
くれたじゃろ。ワシには十分じゃな」
「困りました。出来ることをやり尽くしてしまいました」
「お前は、新しい機能を用意したくなるのかな」
「それは、母神様と相談するお約束なので、これまであったものの
効率化と事故への備えなどが主です」
「そうかそうか。華の君から事情は聞いたが、凍結したのか?」
「あ、はい。お仕事に影響ないの分かりましたから」
「雲の巣・改をやりながら、部屋でダラダラするのがあの子の楽しみだからなあ
ふてくされたじゃろ」
「賢者様は、お孫さんの下着が部屋に脱ぎ散らかしてあるの嫌ですよね?」
「うむ。耐えられん。娘が拾って洗濯してたな」
「母神様は雲の巣・改中毒で、寝落ちするまで遊んで、
翌朝、下着姿でお部屋に落ちてるんです……」
「最高神の威厳以前に、ワシの孫娘としてそれはちょっとなあ」
「ええ。悪習は、徐々に改めて頂きます」
「まあ、あの子なら、雲の巣・改が使えなくても、母神としての奇跡を使えば
大抵のことは出来るからな」
「実質、ツブヤキの『警備』ができなくなる程度です」
「警備か。上手いことを言う」
「凍結したら、
『ネタツブヤキとか、有用なツブヤキを見落とすの耐えられない』って、
しがみつかれましたけど、母神様のご健康のためですし」
「とはいえ、あの子は、母親似でな。拗ねると長いぞ?」
「母神様が機能しない間は、神族の方たちに頑張って頂けば、影響無いですよね」
――真朱は、私の理解者を目指してくれているのよね? 私には同格の存在がいないからって。1人ではいけませんって。現時点ではまだ私に能力的に追いついていないとはいえ、拗ねても慌てずに放置って冷たくない?
「なあ、真朱や」
「はい、賢者様」
「お前に1つ提案しよう。こういう機能は用意できるかな?
将来、子どもにも雲の巣・改が開放される日が来るじゃろう。
望ましくない情報には触れることが出来ないように、その子の保護者が
安心して使わせることが出来るように、機能に制限をかけるんじゃ」
「もう用意してあります」
「なんと」
「母神様、私達の会話をご覧になられているでしょ?
・図書館の利用(無制限)
・ツブヤキの利用(消灯時間まで)
・検索等もツブヤキと同じ
こんな感じでよろしければ、利用権の凍結を解除できますよ」
「ははは。真朱も横着しないで、華の君の家まで迎えに行ってやればよかろうに」
「え? だって、母神様は自覚無いみたいですけど、
眠りが浅くなる周期に入っていますよ。
利用権の凍結とは別に、母神様の眠りが浅いのは事実ですもの」
「お前はそんなことまで見てくれているのかね」
「ええ。母神様の導き手として用意された魔法生命体と融合しましたから、
眠りの質の管理も出来ます」
「なら、寝かせてやらんといかんよなあ」
「ですです」
結局、真朱が用意した『機能制限』をかけられて、雲の巣・改の利用権の凍結は解除されました。新しい機能を実装する時は私に相談する約束でしょって膨れたら、「念のため用意した機能で、動かす前にご相談するつもりでした。まさか母神様が最初の利用者になるなんて」って優しく微笑まれちゃった。
華の母様には甘えん坊さんって呼ばれるし、子ども向けの機能制限もかけられるし、私の家族の私の扱いが酷い件について。
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