幕間 新生活編

第24話 新生活と過保護な母の贈り物

真朱まそおに無理やり実家から引き離されました。


新居は村の衆の家と同じ作りで、実家とも同じ間取りです。でも、真新しくて落ち着かないので、自分の部屋は実家と同じ状態にしました。身の回りのことは、真朱がしてくれるし、これって一人暮しする意味あるのかしら?


真朱は私の実家でお母様と会っています。

「母神様の、慣れ親しんだ味付けを教えて下さい」

「教える前に、料理人Lvをカンストさせちゃお。話が早いし」

「それって、いけないことなのでは」

「私がルールです。力の乱用って娘に叱られるけど、あなた達がそれで

 幸せになるなら、喜んで叱られましょう。さ、私の力を受け入れてね」


――お母様、真朱のLvをばかすか上げてるわね。冒険者関連はフルカンさせちゃってるし。


「自分のステータスの確認は出来る?」

「はい。Lv99がずらっと並んでいますね」

「料理人みたいに本来はその仕事を続けないと身につかない職に関しては、

 対象が多すぎるから、必要になったら言ってね」

「はい」


「お料理に関しては、今のあなたなら、そのレシピ見れば同じ味に出来るでしょ」

「ちょっと拝見しますね。記憶します」

真朱はお母様のレシピをパラパラと眺めて、記憶しました。


「あなたは叡智の女神を信仰してるのね」

「信仰というか、旅を引率して下さったから敬愛しています」

「うんうん。あなた達は相性いいと思う」

お母様は真朱の頭を撫でてます。

そして、居間で気力を無くしているお父様へ声をかけました。


「あなた。うちの子が家を出たからって、そんなに落ち込むこと無いでしょ」

「元気が無い日だってあるだろ」

「私は無いですけど? そもそも、私がいるのに不満?」

「あのなあ。愛娘と妻は別枠だろ?」

「お腹を痛めたあの子は、特別な存在です。

 でも、あなたを独占したい気持ちもあるのよね」


「真朱が困ってるじゃないか。で、どうした?」

「真朱ちゃんをフルカンさせといたから、ちょっと実戦の様子見てあげて」

「あのなあ。鉄棍女王の時だって、地道にレベル上げさせただろ」

「あの子のためにお料理を習いに来てくれたから、ついでよ?」

「分かった。この部分では君と分かり合えないことは分かった。

 真朱、ダンジョン行くぞ」


「武神様、顔色悪いです。よろしいの?」

「ダメなところを見られただけで恥ずかしいんだ、気を使わんでくれ」

「ちなみに、私は忘れることはありませんし、雲の巣・改に記憶を同期しています」

「お前に悪気がないのは分かるが、笑顔で刺しに来る感じだな……」

「?」


「真朱は『転移』使えるな?」

「はい」

「なら、オレがこれから、ダンジョン最下層へ飛ぶから、座標覚えろ」

「分かりました」



「ここが最下層だ。鍛錬に使うことも出来るし、

 モンスターの落とすアイテムを換金すれば、短時間で一財産作ることも出来る。

 今日のオレたちのように、安心して力を振るうことも出来るな」

「はい」

「手本は必要か?」

「そこにエンシェントトラゴンの群れがいますね。段取りは頭に浮かぶので、

 1やれると思います」


真朱は腰に吊るしていたメイスを構え、5体のエンシェントドラゴンの群れに近づきました。


魔法で強固な鎖を呼び出し、エンシェントドラゴン達の動きを封じます。噛み付いたり、爪で切り裂いたり、踏み潰したり出来なければ、ブレスが来るわよね。


真朱は『歌』無しで、直接精霊界の水の精霊に精霊語で依頼し、ブレス対策の加護を得ました。エンシェントドラゴン達はブレスを吐こうと予備動作に入っています。


風の上位精霊も『歌』無しで呼び出し、エンシェントドラゴンの分厚い皮を風の刃で切り刻んで貰います。その上で、炎の上位精霊を『歌』無しで呼び出し、業火で焼き払います。この時点で、2体のエンシェントドラゴンは息絶えました。


真朱は魔法で最大級の爆炎を叩き込みます。

また2体のエンシェントドラゴンが崩れ落ちます。残りは1体ですね。

真朱は魔法で自分を強化すると、最後の一体の急所をメイスで強打しました。


お父様は、真朱の戦いぶりに愕然としています。

「真朱、ちょっとこっち来い」

「はい」

「お前、今、何をやった?」

「『鎖』「爆炎』『強化』の魔法の行使と、

 水の精霊の加護・炎の上位精霊・風の上位精霊の協力の依頼と、

 メイスでの打撃を一度に行いました」

「7手を一度に出来るのか?」

「体は1つですから、物理攻撃は1手だけです。

 でも、魔法・精霊魔法・神聖魔法なら、6手までは同時に行えます」

「お前は装備に魔法や歌を貯めずに並行して行えるのか?」

「出来ます」

「そもそも精霊魔法は『歌』と『格』の問題があるから、発動も遅いし

 行使する間は他のこと出来ないはずなんだが」

「私は元精霊です。精霊には顔が利きますから、歌うまでもありません」


「参ったな。オレは神族としての奇跡を使わなければ、お前には勝てないぞ」

「問題ですか?」

「うちの奥さんがな。考えてもみろ、命をかけて地道に鍛えた連中を、

 一度もメイスを振るったことの無いお前が追い抜いたわけだ」

「母神様の好みの、家庭の味を教わりに伺ったはずが、すみません」

「だよなあ。これは家庭の味と関係ないよな。うちの妻がすまん。

 ま、強いのはいいことだ。そこの牙と皮を拾いなさい。換金の仕方を教える」

「はい」


真朱は換金した金貨を持ちきれなくて、お父様にも持って貰っています。

「武神様。私と母神様の暮らしなら、多すぎますよね」

「そうだな」

「持って頂いてありがとうございます。必要な分だけ残して、

 末の神の教団へ寄進してから帰ります」

「骸骨村の座標は分かるな?」

「ええ、記憶しています」


お父様は先に、「転移」で自宅に戻りました。


真朱は末の神の教団で、金貨の入った2つの大きな袋を教団員へ手渡して帰るつもりだったのですが、教団員に引き止められました。そして、教団長の私室にいます。


「あんたが、この世に留まるとはねえ」

「またお会い出来て嬉しいです」

「ダンジョンで稼いで、うちに寄進してくれたんだって?」

「私には多すぎますもの。教団長様なら必要な方に使って下さるでしょ」

「貧民街への働きかけ等、教団の動きも活発になったからね、正直助かるよ」

「毎日通いましょうか?」

「いやいや、あんたは何かやることがあるのだろ。

 まして、叡智の女神の教団に属する立場じゃないか。気を使わなくていいんだよ」

「分かりました。では、夕食の支度もしたいので、お暇しますね」

「引き止めて悪かったね。今度は、手ぶらでおいで」

「はい」


真朱は城下町で食材を少し買うと、「転移」の魔法で帰ってきました。


「母神様、戻りました。ご飯の支度しますね」

『あなたねえ、私が「見てる」からって、天井に話しかけるのよしなさいよ』

「だって、言葉にしないと、私の心は読めないから不便でしょ?」

『そうじゃなくて、ああ、もう!』


私は自室から出て、真朱が夕食の支度をしている台所へ行きました。

「一緒に暮らすんだから、顔を見て話しなさいよ」

「私は、母神様が見て下さってれば十分ですよ」

「人の世では、顔を見て話すの大切なの。慣れて」

「母神様がお部屋から出て、迎えに来て下さっていいんですよ?」

「あなたが私の部屋へ来てもいいじゃない」

「ふふ。せっかくお台所に来てくださったのだから、一緒に作りましょ。

 母神様が幼い頃、お手伝いなさったのは知ってますからね?」


――出来るのにやらないの、どうして把握されたのかしら。


お夕食は、お母様の味付けそのもので、実家が無性に恋しくなりました。

実家はお隣なので、すぐ帰れるはずなのに、真朱が笑顔で阻むのよね。


「真朱は、私の部屋を実家と同じように散らかしても怒らないのね」

「悪習を一気に改めると、母神様もしんどいでしょ?」

「悪習言うな」

「今まで、実家でお料理作って貰って、出された物を召し上がっていたのに、

 今日は私と2人で作りましたよね?」

「そうね」

「他の家事も、母神様はのは承知しています。

 一つずつ、母神様に無理が無いか確認しながら、やってみましょう?」


やだこの子、私から怠惰な暮らしを、本気で取り上げるつもり?

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