ナローシュ・アンサモン

久佐馬野景

プロローグ

 きっかけは、その符牒に気付いた誰かの言葉だった。

 某県の交通安全週間を前にした交通事故情報の整理とリストアップ――その時点で、何かがひっかかった者は一定数存在した。単なる偶然であろう――それよりもこのデータを元により大きな注意喚起を――しかし結局はお決まりのところに落ち着いた。

 ところが――他の都道府県警でも同様のことが起こっていた。警察庁の下にあるとはいえ、所轄を巡るだけでも縄張り争いが起こる警察という組織では、各都道府県警の、それもたかが交通安全キャンペーンでは、そうそう連携は取れない。よくて隣の県よりも死亡事故を減らそうと意気込む程度である。

 警視庁交通部交通捜査課――そこに所属するある若い警察官は、単なる興味本位か、はたまた職務の息抜きのためか、過去五年に亘って交通死亡事故の被害者の情報を整理した。彼の趣味は、エリアフリー機能を使い全国のラジオ放送を様々に聞き比べるというものだった。それゆえ、彼はニュースで流れる情報から、全国の交通死亡事故の奇妙な変化にいち早く気付いていた。

 最初は冗談のつもりだった――のちに彼は述懐した。もしもこれが当てはまったなら、単純に笑い話になるという程度の発想だったという。

 だが――それは異様な噛み合わせを見せた。

 彼が調べた被害者の内、無職、フリーター、及び有職者で、勤務していた企業がいわゆるブラック企業だと判断できる者――それと、彼が問題視した、異様に増えているトラックによる死亡事故――この組み合わせ率を計算したところ、通常では考えられない高い数値をはじき出した。

 結果、彼は戦慄を覚えながら報告書を作成し、最後にこう付け加えた。

 ――これは「なろう小説」である。

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