19.Potassium 【カリウム】

 

 そうそう簡単には爆ぜません。

 いえ、水に放り込まれれば、もちろん爆ぜますけどね、たしなみとして。


 僕は19番。

 反応性が高いからすぐ酸化するし、水に触れれば当然のように爆発するから、取り扱いには気を付けたほうが良いですよ。


 気を付けた方が良いといえば、おかしなことに、僕の同位体のひとつ、カリウム40は放射性です。つまり、カリウム40は放射線を放っています。といっても、そんなに心配することはありません。普通に生活していれば、ニンゲンは日常的に微量の放射線を浴びているのです。宇宙線からも、あたりまえに地球上にある放射性物質からも、それから体内でも放射線は自然発生しています。

 この、『あたりまえに地球上にある放射線物質』に含まれているのが、僕の同位体、カリウム40です。


 ちなみに、同位体って誰かが説明していましたか?

 ……してませんよね、きっと。19番にもなってはじめてこんな説明なのは恥ずかしい限りですが、同じ元素でもいくつかの同位体を持っているのは普通のことです。では、簡単にご説明しましょう。


 今更ですが、ものを作っている僕たち【原子】は≪原子核≫と『電子』でできています。≪原子核≫は『陽子』と『中性子』でできています。つまり、大雑把にいうと、【原子】は『電子』『陽子』『中性子』という要素で構成されています。『電子の数』と『陽子の数』は『原子番号』と同じ数で一定ですが、同じ【原子】でも『中性子』の数が違うものが、数種類存在することがあります。これを“同位体”と呼ぶのです。基本的な性質はそれほど違いませんが、安定するか安定しないかで、放射能を持つ場合があります。

 例えばカリウム39の場合、僕の『原子番号』は19ですから、『中性子』の数は20で安定しています。けれどカリウム40となると、『中性子』の数は21となり、ひどく不安定な存在として、壊れながら放射線を出している、というわけです。


 ここで注目してほしいのは、地球上に存在する僕のほとんどは、無害なカリウム39だということです。放射能を有するカリウム40は、ごくごく微量です。


 さあ、これで理解していただけましたか? 重ねて言いますが、放射線を出している『僕』は微量で、健康に影響のある量ではありません。

 放射線というと響きでぎょっとするかもしれませんが、その量はごくごく微量ですのでご心配なく。バナナにカリウムがたくさん含まれているからといって、バナナを食べないのは、人生の損失だと僕は思いますよ。


 正直な話、金属としての僕は扱いにくく、化学的性質は周期表で真上にいる11番に似ていのために、産業的にも化学的にも、それほど重要な役割を担ってはいません。

 僕の力を本当に必要としているのは生命のあるものたち――、つまり、動植物です。僕は動物の体内で、神経伝達という重要な役目を担っていますし、植物の生育には必要不可欠な肥料を作る元素でもあるんですから、おかしな話ですよね。


 どうして生き物の話で締めたのかというと、次の20番も動物の身体で重要な役目を果たしている元素だからです。あまり『金属』というイメージはないかもしれませんが、20番も、そして僕も立派な金属であることを忘れないように、くれぐれもお願いします。





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