僕の想い


 自室に戻って、スーツを脱ぎ、着替えを持って浴室に向かう。掃除された湯船にお湯がたまっていくのを見ながら、僕は顔や頭を洗っていく。待っていた妻の告白。自殺未遂の理由。それは彼女なりの、僕に対するメッセージだった。それでも、そんな命がけのメッセージを送るなんて、僕には到底、理解できない。



『奥様は本当に、死ぬつもりだったんですかね』



 つい先日、僕は3回目の診察予約を取って、病院に向かった。僕との問答に飽きてきたのか、投げやりな態度が目立ってきた医師が、そんなことをポロっと口にした。


『どういうことですか?』


僕は彼相手に、いま考えられる、ありとあらゆる”妻の理由”を並べ立て、検討している最中だった。


医者は、”しまった”という表情を隠さず、言葉を継いだ。



『いや、奥様はこれまでも、何度か、その…自殺を図ったことがあるそうで。そういう方は不思議と…らっしゃるんですよね、どの程度であれば、死なないか、っていうラインを。

 これはまぁ、本人の感覚なので、医者が言うことではないんですが。繰り返す、っていうのは、自殺を図ってそれだけ失敗してきた、っていう証明でもあるので』



『なんですかそれ。まるで妻が、僕を試したみたいに』



妻の悪意を前提にした口ぶりに、僕は憤りを覚えた。



『妻はそんな人間ではありません! 会えば分かります!』


 そんなことを言ったものの、心の中では、都合よく、医者の言ったこと自分がいた。勝手な話かもしれない。それでも妻が、"本当に死のうとした" と思うよりも、死のうとして”見せた” と考えるほうが、ずっと気持ちが楽になるのだ。



 それほど長い時間でもなかったと思う。でも、外から呼ぶ若菜の声で気が付き、僕はようやく、風呂から上がった。


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