第14話星零をもつもの

凍てつくほど寒い山の頂上に凛と咲き誇る花たちは、いつまでも輝いていた。



 俺の相手は、光属性の分類は雷。放雷熊はその名の通り、雷を纏わせるだけでなく、雷を放出することもできるし、雷雲をつくることもできる。

 いつの間にか空は黒い雲に覆われていて、今すぐにでも雨が降ってもおかしくないくらいだ。

 次、ぴかってなったら突撃。

 そう決めて槍を握りなおす。

 ぴしゃっ!!

「(いまっ!!!)」

槍は後ろに引いたまま走り出す。

 さっき心で唱えた、「咲き誇れ、星零花」は、俺の能力解放の術式であり、己を高める自己暗示でもある。

 「うらぁっ!」

魔力を纏わせた槍をボスめがけて思いっきり投げる。

 ちょうど、雨が降ってきた。

「……来た」

つぶやくと、『星零』の力で雨を雪に変える。一気に、周囲が寒くなる。雪は止むことなく降り続け、地にうっすらと積もり始める。

 「チビのくせに、『星力』持ちかよ。かまうな、つっこめっ!!!」

 星花の魔力のことを、星力ともいう。

 「……チビのくせに、は余計なお世話だ」

視野は広く。いつでも、どこにでも動けるような体勢を保つ。

 もうすぐ、ひとつ大きな風が来るはずだ。そのタイミングで……いや、それじゃ駄目だ。遅すぎる。

 今、槍を投げたおかげで、相手は隙だらけだ。でも、相手の気を引く『何か』がないと……。

 待たなければいいのか。

 雪を氷に変換して、先端を鋭く尖らせる。

 計10個の氷武器は、俺の意思で動かすことができる。これは、〈ヒョウセキ〉という技である。

「行けっ!」

ひゅんひゅんと空を切る音を立てながら、いろんな角度へ飛んでいく。

 「うわっ」

「何だこれ!」

求めていた『間』ができた。今なら絶対に決めきれる。

 「……!!」

無言で地面を蹴る。前足の感覚も少し戻ってきた。両手に魔力をためる。

 気付かれぬ間に近くまで来れた。

 1頭、2頭、3頭、4頭。

 あとは、ボスだけ。

 しかしボスは〈飛氷石〉がおとりだということに気づいていた。全身に雷を纏わせて、俺が来るのを待ち構えている。

「(……上等じゃねーか)」

何も考えずに突っ込む。目と目が合ったとき、お互い、にやっと笑みを浮かべる。

 「絶対に、勝つ」

〈疾光取背〉。

 後ろを取って、ありったけの魔力をこめる。そして触ると同時に、体に電気が走る。

「……っ、ぐぁっ……」

流れた電流のせいで俺が地面に倒れこむと、熊のボスは凍りついた。

 凍結技、〈ヒョウフウカイ〉。周辺一帯は氷の柱や凍った熊たちでいっぱいになって、きらきら輝いた。

 パキッ

 俺の足元も、凍り始めた。しかし、もう氷を振り払う体力は残っておらず、体はぴくりとも動かない。

「咲き、ほこ……れ、せい……れ、いか……」

すると、凍りついた熊たちの、傷口らへんに、星零花をかたどった氷の花が咲く。さらに、その部分から治癒が始まる。

 この技は、相手を封じるとともに、治癒もしてしまう技だ。

 きれいに輝く花たちは、雪の中でも咲き誇っていた。


(つづく)

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