第13話それでもいつかは

いくら怖くても、どれだけ傷を負おうとも、止まることは許されない。



 まずは1頭。

 俺は、向かってくる熊の数を頭の中で数えていた。ボスを合わせて6頭。さっき1頭倒したから、あと5頭。

 やっぱ、雷ってずるいよなあ。なんて思っちゃうけど、俺だってこの一年間何もしてこなかったわけじゃない。

 数々の技を学び、生み出し、高めてきた。俺の得意技〈シッコウシュハイ〉は、最初に生み出した技だ。この間、隠れ熊の里の長のファングルと戦ったときにも使った技で、左右にすばやくフェイントをかけて背後を取るという、スピード型の技。

 次の熊が、槍に雷を纏わせ、突進してくる。

 すばやく右にまわりこんで、蹴り技〈フォル〉。満月みたいに大きく円を描くように宙返りしてかかと落とし。小柄な俺はコンパクトにすばやく回れるのが利点だ。

「せやぁっっ!!」

〈満月降華〉は相手の右腕に命中し、熊は槍を落とした。

 俺はその隙を見逃すことなく、雷が抜けた槍をすばやく拾い上げる。

「ぐるらぁっっ!」

立て直しが速い、と俺が思った瞬間、吹っ飛ばされていた。

「ぐっ……」

とっさに槍を地面につき立て、勢いを殺す。

 ふわりと一瞬体が浮く感覚がして、すとんと落ちる。

 反射で、首を傾けたから何とか頭に直撃は免れたものの、雷を纏った拳が左肩にヒットした。

 やっぱり熊のパワーはすごくて、まあ雷のせいでもあるが、びりびりしびれて左前足が動きそうにない。

 しかも、その衝撃であの傷口が開いた。包帯から血が滲み出し、ぽたぽたと地面に跡を作っている。

 くっそ、何でこんなときに。

 左前足の感覚はもう無い。自分の意思で動く気がしない。

 右前足だけで、あの熊たちと戦えるのか。

 ……いや、戦わなきゃいけないんだ。絶対に。

 「(この熊たちは、これまで戦ってきた相手の中で一番強い。連携も、個々の力も、知恵も。全部俺より強い)」

ならば、どうするか。

「(体が機能しないこの状況で、俺が勝てるのか……)」

 再び突進してくる熊に対して、俺はその場で腰を落とし、右前足に短く持った槍は後ろに引き、迎撃体勢をつくる。

 槍に、俺のすべての魔力が宿るように、右前足に力を込める。

 相手が『雷』の魔力なのに対して、俺の魔力は……『氷』。

 高い、山の頂上にしか咲くことが無い、『セイレイ』。この花は、名の通り星の形をしていて、すごく冷たい。だいせいのうちのひとつ。

 俺の魔力を詳しく言うと、『セイレイ』。星零花の力を持っている、とされている。どうやらこの魔力は非常にめずらしいものらしく、親にずーっと隠していろと何度も言われた。

 そして五大星花というのは、「太陽タイヨウ」「清水セイスイ」「リョク」「アンコク」「コウ」「ヒョウ」―それぞれ、炎、水、草、闇、光、氷と簡略される―のうち、闇を除く5つの属性の星花のことだ。ほかにも「星〇花」と呼ばれるものは存在するが、なぜかその5属性で五大星花と呼ばれる。

 その五大星花のうちのひとつ、氷属性の『星零花』の力を持つ俺は、あらゆるものを凍りつかせることができる能力がある。しかし、その『技』の唯一の弱点が、「対象への接触」である。これは、俺がまだ未熟だから、ではあるが、さすがに5頭とも凍らせるまでに無傷ではいられないだろう。

 それに、俺はこの魔力を全力フルで使ったことが無い。だから、どこで自分の限界が来るのかとか、どれだけ加減すればいいのかとかがわからない。

 「ぐるらぁあ!」

れ、殺っちまえ!」

熊をまっすぐ見て、瞬時に隙を見破る。

 もう、戦うしかない。

 いつかは、こんな戦いなんてしなくてすむ世界になることを信じて。

 「(咲き誇れ、星零花)」


(つづく)

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