第9話きらめくペンダント

起きようとしても、さめない夢。まるで、何かに囚われているみたいだった。



 ここまででも、ずいぶん長い夢だったのに、夢はまだぼくを離してくれないようで、まだ暗闇の中にいた。

 あのとき、カイナにいちゃんがくれたペンダントは、いつもぼくがつけてるものだ。あのペンダントには、カイナにいちゃんの力がこもっていて、ぼくがペンダントに呼びかけると、ぼくはヒーローにわることができる。仮面とマントが装着され、自分の内側から見えない力がわいてくるような気がしてくるんだ。

 カイナにいちゃんが死んでから、何度も泣いて、たくさん笑って、いろいろあった。カイナにいちゃんの言ったとおり、小さいことから始めて、夜中の活動に慣れてきたら、天ノ鳥通信にのった事件を次々に解決できるようになった。

 全ては、カイナにいちゃんのおかげだけど。

 ペンダントの力を借りることによって、カイナにいちゃんから力をもらっているから

 『そんなことは無いぞ、ファミ。俺が見てきたこの一年間、お前は強くなった。自分を下に見すぎだぞ』

―カイナにいちゃん?

『お前は、十分強いよ。足だって速くなってる。俺の力なんか借りなくたって、お前ならできる』

―でも、ぼくは風狼さんにやられちゃったよ。

『もう一度、挑戦してみろよ。今度は、きっとうまくいくから……』

 カイナにいちゃんの気配が、すっと消えた。

 ……いつまでも、現実から目を背けてちゃ、成長できない、か……。

 意識を、暗闇の夢から、明るい現実へ、無理矢理連れて行く。

 まだ事情は聞いてないけど、きっと、風狼さんは助けを求めてる。

 ……だったら、行かなきゃ。


 「ねえ、ファミっ、ファミってば!」

はじめに聞こえたのは、ぼくを呼ぶナタリの声だった。

 ……え?

「……ナタリっ!?」

がばっと起き上がると、そういえば噛まれたんだった前足がずきりと疼く。頭にも包帯が巻かれていて、ああ、はしごから落ちたときに怪我したんだなと察する。

 「……なんで、ナタリがいるの?」

首をかしげながら聞いた。

「なんでって……心配だったから……」

うーん、最近ナタリに心配されるようなことしてたかな……?

 ……じゃなくて、

「行かなきゃ」

ぼそっとつぶやいて、立ちあがる。胸にペンダントがあるかを確認して、果物のかばんを背負う。

 一応、ツリーハウスも見ていかなきゃ、かな。

 そういえば、森の奥のツリーハウス下から、森の入り口の小屋に移動されている。ナタリが運んでくれたのだろうか。

 「ありがとな、ナタリ」

え?と、ナタリが顔を上げる。

、行ってくるわ」

小屋の戸を開け、ツリーハウスに向かって一直線に走る。

 困っているひとを助けるのが、俺たち正義の味方ヒーロー仕事任務、だからな。いつかカイナにいちゃんが言っていたことを思い出す。

「……最後に、……力を貸してくれ、カイナ」

ばさっ、と漆黒のマントが翻る。

 いつもと何も変わらない。

 いつもみたいに、カイナにいちゃんが、俺の背中を押してくれる。

 ……変わったのは、俺の心、かな。

 いつもの何倍も速いんじゃないか、というくらいの速さで森を駆け抜け、ツリーハウスの下まで来た。

 どうやら風狼さんたちはもういないようだ。

 あの風狼さんは……いや、あの風狼さんなら―。

、だろうな」

 ばっ、と方向転換をして、木の枝を次々と飛び移る。

 みんなが幸せになるまで、俺の任務は終わらない。


(つづく)

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