第9話 現実との対峙

強制ログアウトにより戦闘は中断され俺は現実という嫌な世界に戻された。

「早く朝ごはん食べに降りてきなさーい。」

 (朝ごはん?)

どうやら俺は寝ずにゲームに没頭していたらしい。しかも、あの感じだと何度も呼んでいたようだ。今日はそこから先に意識が行かなかった。

何故なら、今日はアップデートに対する期待からか凄くいい気分だからだ。

「はーい。」

勢い余って珍しく良い返事をしてしまった。

俺は完全にハイになってしまっていて脳のハンドルを離している。


俺は食卓に着き無言ではあるが、白飯、スクランブルエッグ、キャベツ、味噌汁を平らげ、更には白飯のお代わりもした。

母は驚きを隠せないといった表情だったが、同時に嬉しそうにも見えた。


 アップデートは15時間も掛かるし、もう少し喜ばせてやるかと思い、「久しぶりに学校でも行くかな。」と言ってみた。もちろん実際には行けないだろうが、口だけでもと思い言ってみた。


 母は壁に手を着きく崩れ落ちた。

いきなりの事で心配になり母に近づくと顔にはキラキラと流れる物があった。。俺には訳はわからなかった。

それほどに、俺は他者に対して無知である事を痛感せずにはいられなかった。



 母の涙により取り返しのつきにくくなった俺の軽率な発言。

俺は行くしかなくなった。人によればそんな状況でも行かない選択を出来る猛者もいるだろうが俺は涙というやつに非常に弱い。

俺は「学校に行く準備をしてくるっ。」といい、その場から逃げるように自室に向かった。


自室に着いた俺は、鞄に教科書などを入れながらも学校に行った俺をクラスのみんながどういう目で見るのか考えていた。

いきなりずっと学校に来なかった奴が来るのだからきっと何かしら思うに違いない。バイ菌扱いのように苛められるのか、喋り掛けてくれる人なんていないんじゃないかなど悪い風にばかり考えてしまう。

どんどんそれが他の事にも伝染していく。

ネガティブ思考の真骨頂だ。

「パキッ」

うっかり踏んづけてしまったボールペンの割れる音で我に返ると学校に行く準備が終わっていた。

 

 俺は深呼吸してから荷物をまとめたリュックを背負い、1階に降りた。

するとさっきまで泣いていた母は泣き止んでおり俺を見るならこう言った。

「翔。頑張っておいで。」

「お、おう。」


・・・学校か。

中学生としての最初の行事である入学式に出て以降まったく行った事がない。

今は中学3年の6月だから実に2年ちょい学校に行っていない。


 歩けば歩くだけ学校に近づく。心臓は激しく脈打ち呼吸が荒くなる。もう歩くのをやめたいとさえ思う。曇なのに陽射しはキツく感じる為視線は常に足元だ。母の顔を考えると意思と反し、足は前へ前へどんどん進んでいく。

 

「ドンッ!」

足元には大きな使い古されたバスケットシューズと鍛えられた足が見える。

どうやら人にぶつかってしまったようだ。

明らかに前を見ていない俺のせいである。

「ぶつかってしまってすいません。」

俺は相手の顔を見るより先に謝った。

「お前、俺と同じ万能中の生徒だよな?何年何組?」

相手は俺にそう言った。

見上げると、相手は万能中学校の体操服を着ており、赤髪で剃りこみアシンメトリーのお洒落な髪型の身長190cmくらいの体格の良い男の人だった。

俺は万能中学校の制服を着ていたからそう言ったとして、やっぱり脅されたりするのだろうかとはち切れたネガティブ思考が暴走していた。

「おい!聞いてんのか!テメェ!」

色々考え込んでる内にイライラさせる間を開けてしまったようだ。

この手のタイプの人間は苦手の最上級だが、こちらからぶつかった手前仕方ない。

「すいませんでした。3年1組です。」

相手は驚きを隠せないといった感じで言った。

「マジかよ。まさかこんなに早く会えるとはな。水城翔。いや待てよ、アスラって言った方が良いのか。」

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