明滅

美作為朝

明滅

 モンタナ州を東西に横断するようにハイウェイ191号線がある。その191号線に面しチェスタナットの街の手前10マイルもしないところにそのダイナーはあった。

 名前は、ケインズ・ダイナー。アメリカの中西部ならどこにでもある食堂。日替わりメニューもスペシャルメニュ-も取り立ててうまいものは、なし。店の名は、ケインズだったが今では代替わりしていて、店主はケインではない。店主は、ロブ・ヒックス。アル中の親父が店を切り盛りしている。ロブが隠し持ったウィスキーの小さなボトルを煽りながら働いていることは、店の常連なら誰でも知っていたが、誰も咎めないし、誰も責めなかった。カウンター席はL字型に曲がり15席ほど。テーブル席は詰めれば、6人ほど向かい合って座れ、5セットほどある。店員は、二人。もちろん、女性。一人はカラミティー・ジェーン。元チェスタナット一の美人にしてグラマー。先代のケインが店主のときは、チェスタナット一の女にして看板娘だったが、今では、Kマートのブラでどうにか作り保っているそばかすとシミだらけ胸に谷間しか男をの目を引きつけるものはなかった。それもブラジャーを外せばどうなるか、しれたものではない。しかし、今でも、髪だけは、きれいにブロンドに染め上げていた。そしてもう一人は、イヴォンヌ。20代。今ではこのイヴォンヌこそこのダイナーの看板娘だったが、器量は並。太っていた。店での気晴らしは新聞のクロスワードとカウンターの斜め上に置かれた、油でギトギトですべてが黄色に見えるテレビだけだった。そしてチェスタナットには、有名な刑務所があった。その名もチェスタナット刑務所。それが街唯一の産業だった。第何次産業になるのか誰もわからなかった。教育事業だという市民も居た。

 初夏の夕方。夕方は、モンタナ州にもこのケインズ・ダイナーにも平等に訪れていた。一人の刑務官が茶色の征服のままケインズ・ダイナーに訪れた。名前は、チャールズ・アイヴァーソン。背が高く髪は銀髪ながら短く刈り上げられている。

「いやあ、ロブ」

「なんだね、チャールズ」ロブのエプロンに白いところなどなかった。

「実はな、ロブ。明日な、執行がある」

 執行という言葉一つで、ダイナーの中の空気が変わった。ジェーンは、カウンターの斜め上の油でギトギトのテレビ画面を見ていた。薄い黄色いユニフォームを着た投手が濃い黄色いユニフォームを着たバッターに対して、インコース低めにストライクを直球でとった。そのボールの際どさにジェーンもバッター同様顔をしかめた。ボールも黄色かった。

「誰なんだ?」

 ロブが尋ねた。

「一応、内緒なんだが、オークリーだ」

「ショットガン・オーか!」

 チャールズは頷いた。<ショットガン・オー>こと、ヴィンセント・オークリーは札付きのわるだった。<ショットガン・オー>の二つ名を貰う前のヴィンセント・オークリーは、ミネスタ州エスタモンドという街からから祖母と一緒にこのモンタナ州チェスタナットにまずやってきた。所謂、親の目の行き届かない典型的な暴力的な不良として育った。このチェスタナットという街はオークリーには小さすぎた。オークリーはモンタナ州一の都市、ビリングス市に乗り込んだ、持てるだけの武器で武装して。ここには、同じアイルランド系のマフィア、<ゴールウェイの拳>という組織が居た。FBIが全面戦争を挑む犯罪集団である。賭博、竊盜品の売りさばき非課税のままでの横流し、武装しての竊盜、恐喝、強姦、傷害、殺人、最後に脱税。<ゴールウェイの拳>のボスの名は、マーク・マクデモルト。オークリーは、あっという間に昇進した。しかし、犯罪集団には当然のごとく敵が居た。法を司る男たちであるFBIだ。オークリーは戦った。このころから<ショットガン・オー>の名を両サイドからもらっていた。オークリーも<ゴールウェイの拳>のボス、マーク・マクデモルトが生きているうちは、一応のりに沿って戦っていた。風向きが変わったのは、ボスのマーク・マクデモルトが赤いベンツでファックのFのFカップのダフネとともに、ミズーリー川の底に沈んで発見されたときからである。事実は、定かでないがオークリーにこのマーク・マクデモルト殺害の容疑がかけられた。<ショットガン・オー>は、裏切り者として組織、FBIの両方から追われる立場となった。モンタナ中を逃げ回った。収入もあるわけがなかった。そこら辺中を襲い奪いながらモンタナ州をさすらった。こっそり盗むか、派手に盗むか、殺してから奪うかの三択しかなかった。<ショットガン・オー>は、結局、9人を殺した一級謀殺の容疑と28件のレイプも含む暴行容疑23件の武装しての強盗容疑、7件の恐喝、どういうわけか、銃の所持許可はチェスタナットで<ショットガン・オー>は持っていた。そして<ショットガン・オー>は、モンタナ州ボーズマンで立ち小便をしているところを逮捕された。司法サイドは、自分の庭で<ショットガン・オー>を切り刻み、組み立て、再度切り刻み、組み立て直し、もう一度だけ切り刻み最後は適当に組み立てた。ヴィンセント・オークリーには、死刑が宣告された。

「で、オークリーが言うには、ここのバーガーがその、なんだ、」

「しかし、最後の食事というと、、」

「あぁ、望みのままだ、ビリングスあたりのステーキハウスのキロあたり、なんぼだ、のステーキでもと薦めたんだが」

 翌日、カラミティ・ジェーンは厨房に立っていた。「やれるのか?」ロブが訊いた。「決まってんでしょ」ジェーンは答えた。しかし、ジェーンは、ゆで卵しか作ったことがなかった。夕刻、刑務官がケインズ・ダイナーのバーガーを取りに来た。恐ろしく大きくて焦げたり生焼けのパテといびつなレタスとかけすぎたドレッシングとペッパーといびつなスライストマトは、これまた、超大きなバンズに挟まれていた。そこからが、三人には地獄だった。いや地獄だったのはジェーンだけか?。しかし、それは、突然だった。一瞬だけ、ケインズ・ダイナーのすべての電燈、黄色いテレビが一瞬弱くなり明滅し元に戻った。ジェーンは「ぎやぁぁぁぁぁぁ」と叫ぶや出ていき、冷凍庫に頭を打ち付けて、慟哭した。ジェーンが今着ている服もオークリーが送金した金で購入したものだった。頭のブリーチ代も。ただヒールが高いだけのシアーズの靴も。極め付きは、このKマートのブラも。全身<ショットガン・オー>が稼いだいや作った金で購入されていた。

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