しとやかな和風ファンタジー

 中学校二年生の少女、京野舞を主人公に据えた、和風の変身ヒロイン・ファンタジー。一言でいうと、そんな物語です。

 
 でも、この作品の特筆すべきところは、文章の「しとやかさ」ではないでしょうか。まるで時間迷路を彷徨うがごときの演出が、読み進めていくうちに不思議な魅力に感じてきます。
 少女たちの普通の学校風景や会話のやり取り、何気ない場面にも、炭酸水みたいな爽やかさがあります。ぬいぐるみのクマも面白いです。

 そして、ひとつだけ、これは! と思った場面を紹介します。
 突然の化け物襲来。ひそかに想いを寄せていた幼馴染、司に手を引かれて、下町の景色の中を逃げ、朽ちた神社に追い詰められていく一連のシーン、凄いです。化け物の姿をあえて描写しないまま、不安だけを描く演出は、舞の押し潰されそうな気持ちが良く伝わってきます。さらに、その後の衝撃的な展開と、何かが違う日常への回帰…… そう来ますか。これ以上はヒントになりすぎるので言及できません。凄く面白いので、一気読みして頂くことをお勧めします。

 文章量は少々多め。スマホで読むとちょっと大変かもしれませんが、読んでしまえば、満足感はたっぷりです。
 いまどきのスナック菓子みたいにライトなファンタジーじゃあ物足りない。そんなあなたに、しっぽまであんこが詰まった鯛焼きみたいに美味しい和風ファンタジーはいかがですか?