-16- 迫る美貌の竜騎姫に対抗せよ!


 背信の確信はないが、状況証拠はある。


 訪問の予約も取らず、アクネロは族長室に乗り込んだ。ディタンは執務に励んでいたが、アクネロが部屋に入るとすぐさま立ち上がり、長年の友との再会を喜ぶようなさわやかな微笑で出迎えた。


 友好の握手を求めてきたが、アクネロは握り返さなかった。


 空を切った手は降ろされ、指先をなぞり合わせながら戻されたが、表情から柔和さは失われてはいない。


 されど護衛騎士だけは複数名、ずらりと背後に控えさせている。


「これはこれは……ご滞在はいかがでしょうか? クラーレの討伐に向かったと小耳に挟みましたが」


「ああ、わけもなく討伐したぜ。俺がどういう男かわかったか?」


「なるほど、素晴らしい。帝都の近衛騎士団の中でも指折りの精鋭騎士とお聞きしてましたが、それほどまでとは」


 テンポのゆっくりとした拍手した後、愉快そうにくっくっくと喉奥を鳴らした。


「奴の卵に誰かが毒針を突っ込んでた。クラーレが用心深い守護獣だとしても、味方からの攻撃は避けられねえよな」


「ほう、なんと非道な」


「クラーレが消えて喜ぶのは、ルーツバルトのアルコール中毒者どもだけだ。それと、お前のような裏切り者だけかな」


 弾劾されても、ディタンはうろたえなかった。


 代わりにすぅっと目を細め、人指し指を立てる。


「領主様、少々私見を述べさせて頂いてもよろしいでしょうか」


「いいぜ。俺はみっともなくて見苦しく言い訳をする奴が好きなんだ」


「それは何よりです……スルード様より自治権を頂いてからというもの、我々、族長会の人間は少量の自由を得ました。海の彼方にある帝国の国情に左右されない自由です。たまに中央から派遣される小役人は幅を利かせようとしますが、山暮らしの偏屈ジジイたちの相手をしきれる器量があるはずもない。

 次第に税も軽くなり、平穏を手に入れた我々には余裕が生まれました。その余裕こそが、自立へのまことの一歩だったのです」


「隣国の王のケツを舐める自立か?」


「間違いではないですね。少なくとも、選択の自由というものが生まれました。不確かな幻獣の機嫌を取り、媚びへつらう日々が終わることを望んでも不思議ではないでしょう。人ではないモノに生活を護ってもらうなど、決して文明国家の民が歩むべき道ではありますまい」


 裏切りは隠されることはなかった。

 それでも、平静さを失わないのは人の上に立つ者の余裕のせいなのか。


「兵隊を増強して欲しかったのか?」


「いいえ、そうでもありませんね。軍人ばかりの街になってもややむさくるしい。膨大な食客の衣食住を提供するのも経費がかかるものです。そもそも、アイグーンが帝国とルーツバルトの間の緩衝材としての役割を終わらせるときがきたのはないかと愚考したのです。

 平穏の裏で、槍と剣を持った輩の影に怯える日々というものは……筆舌しがたく苦痛なのです。それなりに小競り合いもあるのですよ? 敵国がすぐ目の前にいるという気持ちが領主様にはおわかりになりますか?」


「奴らを味方にしても、今度は帝国と戦争になるだけだ」


「無論、ここが再び最前線となればそうなるでしょう」


「つまり、ここが最前線にならない約束なのか……しかし、そこまでぺらぺらとおしゃべりすると驚きだ。大規模な侵略についての話だぞ」


「ええ、大事だというのについつい口が滑ってしまいました。領主様におかれましては申し訳ありませんが、大人しく拘束させて頂けませんでしょうか? 紳士の協定に従って、丁重に扱わせて頂きますゆえ」


「いや、残念だが断る。俺はお前を殺すし、お前にくみした者たち残らず断頭台送りにする仕事で忙しくなるしな」


「そうおっしゃると思っておりましたっ!」


 交渉が決裂した。

 懐に手を入れ、黒光りする短銃をディタンが取り出した。同じくしてアクネロは『飛翔化剣グンカ・グル』を召喚し、銃のトリガーを引こうとしたディタンの右腕を切り飛ばした。


 やかましい発砲音こそしたものの、放たれた弾丸は天井に着弾する。


 温かい鮮血が飛び散った。斜めに切り上げられた腕が窓ガラスを突き破って往来へと消える。


 遅まきながら反応した護衛たちもそれぞれ抜剣した。


 舌で唇を舐めたアクネロはくるりと魔剣を回して構え、身を低くして護衛の間を駆け抜けた。

 名乗りを上げず、躊躇もなく、急ぎ足で護衛を惨殺していく。


 がら空きの首を飛ばし、無防備な手足を寸断する。


 近衛騎士としての剣技は冴え渡った。

 つむじ風のごとく、人を斬れる技は恐ろしく洗練されている。


「殺せっ! 生かして帰すなっ!」


 血の噴き出る腕を抑えたディタンが吠える。

 階下から、怒声に反応した複数の足音が響いてきた。


 狭い部屋に兵隊が大挙してこようとしている。

 ミスリルは部屋の隅に退避したが、アクネロもそちらに寄るしかなかった。


 いつまでも不意打ちの斬撃は続けられない。敵は体勢を整えており、剣を振れば倒せるというわけではない。


 残る護衛騎士は二人、ディタンを含めて始末するのは難しくないが――残した二人は初撃をかわして生き残っている。


 いずれも熟練した戦士なのか、仲間が死んでも顔つきは変わらない。

 殺し切るタイミングを逸してしまった。


 派手な音を奏でて扉が開き、衛兵たちが部屋を占拠し始める。


 アクネロは剣を構え、威嚇した。部屋に詰めかけた衛兵たちもディタンの命令で槍を向け、穂先をゆらゆらと遊ばせる。


 睨み合う硬直状態が続いたが、不意に遠くから、耳をつんざくような唸り声がした。


 ――ケダモノの咆哮。


 火竜と同質のものだった。


 急に側壁が赤く染まったかと思えば、赤熱して崩れ、崩落した。


 浴びせられた火炎の熱量に焼け焦げたあ後、最後に衝撃を加えられて吹き飛んだのだ。


 部屋に現れたケダモノは頭を出した火竜。

 しかし、黄鱗を持っていた。


 クラーレよりも更にシャープな体型をしており、より飛行に適した形をしている。

 くつわをはめられ、背中に手綱を持ちまたがる騎士が一騎。


 黒竜クラーレの眷属ではなく、小型種の竜はギザギザの竜歯を威嚇するように唸らせ、ぼぉぼぉと小さい炎を吐き出した。


「はぁーいっ! こんにちわーっ! うっわ、死体だらけじゃん……おっ! いたいたぁっ! アンタがアクネロ・ファンバードね!」


 現れた騎士は快活に叫び、口の端を吊り上げた。


 深紅のフルプレートは細部にまで装飾が施され、頭部、胴部、腰元、双肩、両腕、両足に至るまで鋼に護られた重装備ではあるが、鎧は細身の体躯にほどよくフィットしている。


 不思議とごつごつしい印象はなく、むしろ華麗ですらあった。


 羽毛付きヘルムによって面貌は隠れているが、出てきた声は若き女のもの。


「なんだてめえぇッ! どこのどちら様か知らねえが、横からしゃしゃり出てきてんじゃねーぞ! 順番待ちだ! こいつらをぶっ殺してから相手にしてやるっ!」


「わーお……威勢のいい人ね。嫌いじゃないわ。ディタン、譲りなさい。いいわね?」


「ハッ、姫殿下」


 慇懃に身を引く。


 只者ではないことはことを感じ取ったアクネロは、竜騎士に向き直った。目を凝らして正体を探ろうと記憶を照合させる。


 けれど、わざわざ向こうから教えられた。


「自己紹介させて頂きましょう。私の名はレオーナ・ルーツバルト。赤色竜騎兵将軍にして第三王女――ふわぁんっ!?」


「敵将! 討ち取ったりぃいいいいいいいいい!」

「レオーナ様っ!」

「姫殿下!?」


 八双の構えから身を投げ出すように――『飛翔化剣グンカ・グル』を投擲したアクネロはレオーナの首もとに狙いすまし、見事命中させた。


 拳を突きあげ、飛びあがって喝采する。


 剣は空中で垂直になっている。首筋に突き刺さった手ごたえもあった。


「馬鹿めっ! 長ったらしい口上を並べやがってうぬぼれ屋のゴミがっ! てめえは剥製にして豚小屋の前に飾ってやらぁ!」


「くっ、くぅ……や、やるじゃない……今のは危なかったわ。もう、ちょっと気を抜いてたら死んでた」


 ぐぐっと、のけ反った体勢から復帰する。

 魔剣は喉に突き刺さる寸前、薄紫色の魔法障壁に阻まれ、止まっていた。


 ルーツバルトの竜騎士は、騎乗時のみ防護結界をまとう。


 それは幻想種の独自の種族結界の一種であるが、もっと局所的で強固なものだ。


 ルーツバルトのフェレン山脈に古来から生きる飛竜は長年の間、人に飼い慣らされて家畜化され、生まれながらの特性もまた変化していった。


 自らの体躯のみを防護する種族結界を――乗り手を含めた防護結界として造り替えたのだ。


 同族意識を植え付けることによって、きずなを深め。

 そうして攻守ともに完成されてこそ、竜騎士と名乗ることが可能となる。


「ふぅー、もう、せっかく一番乗りで来たって言うのに……散々だわ」


 顎の留め金だけは魔剣に跳ね飛ばされたのか、羽付きヘルムが落ちた。


 極上の金糸が束ねられたような黄金の髪がふわりと露わになり、細肩からくびれのある腰まで広がった。

 生来の人当たりの良さと端正さが合わさった容貌が人目に触れる。


 面白そうにアクネロを見つめ、手綱を制御し、飛竜の警戒の唸りをなだめるレオーナ・ルーツバルトは竜騎士として最上位の地位に座っている。


「アクネロ・ファンバード伯。地方貴族の野蛮な礼節は楽しませてもらったわ。それとも、今のは帝国の騎士の挨拶だったのかしら」


 余裕を取り戻すように――今度はチラチラとアクネロの動向を気にしていたが――レオーナは皮肉った。


「挨拶ぅ? なんで敵と挨拶しなきゃならねえんだ? 私はこういう者で、愛する家族と幼い子供たちがいるので、どうか殺さないでくださいとでも言う気か? 真にエレガントな騎士は、何も考えずに敵をバラバラの肉塊に変えるもんだぜ。そして俺は帝国でもっとも最高の騎士だった。心配しなくても今すぐてめえの豚バラ肉に変えてやんよぉ!」


 不遜な態度でビシィッと指差されたレオーナは、憮然として腕組みした。


「うん、凄く腹立つわね。何これ? 街でチンピラに絡まれたときと似てる感じ……って、わぁっ、ボロス!」


 アクネロは地に手をつき、軽やかに前に向かって前転しながら『アレキウスの具足剣』を装着した。


 そのまま刃だらけの両脚を振り上げ、無防備な竜の頭部を踏み潰しにかかったのだが、レオーナの騎竜の退避行動が間に合った。


 建物の外に、飛び上がる。


「逃がすかよっ!」


 追撃のための行動は迅速だった。

 狙いを絞り、ためらわず二階から飛翔して宙に身を躍らせる。


 いつの間にか、アクネロは長剣を持っていた。抜け目なく、倒した護衛騎士から奪い取ったものだ。


 そうして、刃をレオーナの顔面へと振り下ろしたが。

 

「『強腕となる魔槍よハンド・オブ・ラース』」


 振り下ろされた凶刃は出現した盾に阻まれた。


 カキィンッと金属音が打ち鳴らされる。腕甲にくっついた小型シールドは槍型の魔法武器マジックアイテムでもあった。


 折れた刀身が回転しながら、民家の壁に突き刺さる。


 体重の増加によって斬撃で重みがかかり、竜の背がぐらぐらと揺れる。

 アクネロが背甲に着地しかけたところで、主人に忠実な飛竜は背後から長い首を回して敵の横っ腹を噛みつこうともくろんだ。


 人の肉を裂く黄牙は空を切り、ガチンと噛み合わさる。

 けれどスーツの表面が削り取られた。防刃繊維の施された裏地の銀面がさらされた。


 アクネロは火竜の頭を蹴飛ばし、建物の壁に向けて飛ぶ。


 ぎぎぎっと耳障りな音を立てながら『アレキウスの具足剣』のムカデ型の足刃をストッパーにして壁に貼りつき、落下の衝撃を殺して滞空しているレオーナの出方を窺う。


 一握りの選ばれし人間が所持する魔法武器マジックアイテムの召喚は――その者の戦闘スタイルを位置づけるものだ。


 レオーナが呼び出したのは腕甲装着型の変形槍だった。


 腕の紋章付きの丸盾ともなっていたが、手先から肘までしか面積はない。


 手甲から伸びる槍の先は三又に分かれており、輝かしい金色の熱を帯びてなお半透明。

 造形は王族に相応しく、紫電の紋章が刃身に刻まれている。


 ふぉんっと風切り音を鳴らし、切っ先をアクネロへ向けた。


「降光槍術三ノ型『怪雨あやしあめ』」


 特有の呪文を唱えると、穂先に熱が集まり始めた。炎が生まれ、膨れたかと思えば、ぱっと弾ける。


 空から数百を超える黄金の矢が降り注いでくる。

 空気の層が歪んでみえた。陽炎だ。身が焼けるほどの高熱であることは疑いない。


 幸か不幸か攻撃が斜方からだったので、アクネロは両腕をたたんで頭を丸め、魔弾を防御する。


「ちぃっ!」


 受けているだけでは、らちが明かない。

 飛び散る光の雨を防ぎながらも再び、大きく跳躍した。


 足先や肩が光熱に焼かれ、じゅわっと沸騰して焼けた。


 雨霰あめあられと降り注いだ流れ弾で街の露店の天幕に炎が生まれ、ガラス窓が破壊されていく。

 騒動の様子を見ていた野次馬たちが危険を察知して一目散に退避した。


「俺の脚でハンバーグになりやがれ!」


 警戒するレオーナの目の前でアクネロは身体を捻った。後ろ回し飛び蹴りだ。


 レオーナは攻撃に身構えたが、アクネロは急旋回してフェイントを入れた。手に持った剣の残骸を足場にして、一段飛びしたのだ。レオーナの頭上を飛び越え、その隙だらけの背中へ回る。

 自重をゼロに近づける魔剣ならでは戦法だ。


 また、翻るアクネロの足先はブレを生んでいた。

 隠し技でもあるが『アレキウスの具足剣』の足の両脇の突起である足刃は回転可能なのだ。


 きゅいいいんっと獰猛な回転音を響かせ、チェーンソーと同じ原理で複数刃がレオーナを襲う。


 結界や盾で防御したとしても――この回転刀ならば、震動は伝わる。


「う……いたっ、たったったったったーーーーッ!!」

「死ねやパツキンデブ!」


 レオーナは背後からの攻撃に対応した。腰を回し、とっさにシールドで足刃を受け止めたのだ。

 刃が絶え間なくぶつかり、竜騎士は徐々に横へと押されていく。


 姿勢が崩れ、またがった足が偏っていく。竜背から滑り落ちるのも時間の問題に思えたが、悪口によって力が戻した。


「アンタだってパッキンでしょうがぁ! ていうかデブとは何よぉ!」


 押し勝つ――しかし、それも読んでいた。


 押し出された体勢から、アクネロはするりと横に回った。

 接近し、背後からアームロックを仕掛ける。


「お前はよくやったぜ。だが、そろそろ落ちちまいな!」


「うぅう! こ、このぉおお!」


 勝敗は決した。

 頸動脈が締める――主人の危機を理解した飛竜が急降下した。そのまま、くるりと頭を下にして、宙返りする。


 重力と遠心力によってアクネロはレオーナから引き剥がされ、地表に墜落した。重苦しい音を立てて石畳の上に叩きつけられ、這いつくばる。


 ダメージを受けても、アクネロは戦意だけは衰えなかった。


 すぐに剣を杖代わりにして立ち上がり、咳き込むレオーナを睨む。


「くぉっ……おおお……あ、あ、あったまきたぜっ! 女だから、後のお楽しみのために手加減してたが本気でぶっ殺してやる! 我が従属たる――」


「げほっ、げほっ……こんのぉ、降光槍術一ノ型――」


「お待ちください!」

「お待ちを姫殿下!」

「それ以上はいけませんっ!」


 戦いの場を制止する声は複数あがった。


 中空に整列する複数の敵影。

 お付きの竜騎士隊が遅まきながら駆けつけたのだ。背骨が壊れそうな痛みをこらえながら、アクネロは数を素早く数える。


 二、五、十、二十、三十――百を越えた辺りから、中隊だということがわかった。


 ルーツバルトご自慢の赤色竜騎士団の一揃い。


 重装備と軽妙な動きを可能とした竜にまたがった竜騎士たち。

 一人で立ち向かうにはたまらないほど豪華な布陣だ。

 一瞬だけ萎えそうなった戦意を即座に奮い起こした。

 

 馬鹿な――数にびびるなよ。

 考えてみればこれはとてもいい機会じゃないか。


 まとめて雑魚どもを殺れる素晴らしいチャンスに恵まれたのだから、むしろ神に感謝しなければならない。


 暴虐な感性による狂気に囚われたアクネロは天に手をかざし――かけたが。


「領主様、こちらをご覧くださいますか?」

「ひっ……いっ」


 崩れて開けた族長室から姿を見せたディタン。

 残った片腕でミスリルの後頭部にゴリゴリと短銃を突き付けていた。


 小型銃の威力はまだ高いとはいえないが、至近距離で脳天に当たれば、絶命は免れない。


「ディタン、決闘の途中よ。無礼でしょう」


「おそれながらレオーナ様……その男は帝都で入手した資料によれば、一対多数の戦いに長じています。それに勝利するかどうかは不確かではありませんか」


「私が……勝てないとでも?」


 覇気を立ち昇らせて無礼な配下を圧したが、好機とばかりにアクネロはわざとからかう声を出した。


「俺が勝っちゃうから人質とかしちゃってんだろぉー? ルーツバルトの騎士道ってそんなもんなんだなぁ~。確かに俺はレオーナちゃんに体脂肪率では圧倒的に負けてるから勝負はわかんないかもねぇー」


「……殺す」


「姫殿下、冷静に! 冷静に! <怪奇ソード・オブ十剣・ストレンジ>は高名な戦闘狂サイコです。戦いで勝利しても名誉などありません。関わっちゃいけないタイプの人です!」


 お付きの副官と思われる女が飛竜を制御して横付けにまで近寄り、声をかけた。

 苦労性なのか、泣きそうな顔をしている。


 乾いた発砲音が響いた。ミスリルの頬に朱線を作った弾丸は天へ向かった。


 ディタンは目尻を痙攣させ、最後通牒を申し渡した。


「領主様、五秒以内に武装を解いて頂きたい。あなたに召使への思いやりがあるのならば、ですが」


「おいおい、俺はお貴族様だぞ。そいつを殺したところで――」


「残り二秒」


「……ああ、素晴らしい決闘だったよレオーナ将軍。数をたのみに敵を倒すのが、ルーツバルト流の決闘だもんな」


 両手を挙げてアクネロが降伏を示すと、その両脇を竜騎士が近寄り、荒縄で縛り上げにかかった。


 レオーナは嘆息し、久しぶりに会ったミスリルに目配せすると、彼女は気まずそうに目を合わせるのを拒んだ。




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