第3章 七転八盗のシークレットガーデン PART11



  12.



「えええっ!? あんたもだったのっ!?」



 横にいる五十嵐が大声を上げる。


「嘘でしょ!? もしかしてこの会場にいる人は皆、特殊な性癖を持ってるの?」


 周りの反応は完全に引いている。先ほど八橋がレズだといったよりもだ。



「黙っていてごめん。でも僕は女性よりも男性の方が……好きなんだ」



 参浦は足を震わせながらいう。


「ハイ! 参浦さんに質問がありマス! ちなみに、この中では……どの人がタイプなんデスか?」


 興味津々に尋ねる八橋に参浦は再び考え込む。



 ……頼む、参浦! 切り抜けてくれ!


 

 必死に懇願していると、参浦は小さい声でぼそりといった。




「四宮君とは……お友達になりたいかな……」


 

「…………」



  ……俺、かよ。

 


 沈黙が全ての空気を飲み込み、辺りの温度はゆっくりと冷えていく。せめて幼馴染の壱ヶ谷であって欲しかったという思いが膨らむが、何もいうことはできない。



「……よかったじゃない、四宮君。あなたに……その……興味がある人がいるみたいで」


「……ああ、そうらしいな……」


「お友達、いえ、おホモ達ができたようね。彼、財閥のご子息だからお金もたくさん蓄えてあるわよ」


「ああ、ウレシイナー……ハハ」

 


 ……そんな金、いらんわ。



 心の中で突っ込みを入れるが、参浦の表情は緩くなっていく。


「四宮君、僕でよかったら、お友達になってくれませんか?」



 参浦が切なさそうな瞳で覗いてくる。



 ……ち、近いよ! 


 

 先ほどの七八コンビの情景が思い浮かぶ。このまま、男と爛れた関係なんて死んでもごめんだ。結婚もしたくないが、同性の男と暮らしたくもない。


 孤独こそ至高、一人暮らしこそ最高なのだ!



「で、どうなの。四宮君。結婚するのと、おホモ達ができるの、どっちがいいの?」


「は? 零無、お前何を」


「どっちなの? 四宮君。男と女、どっちを選ぶの? 干渉しない人だったらいいんでしょう?」


「馬鹿なことをいうな! 同性での結婚はできんと定義されているだろう?」


「でも子供は作れますよね? シロウさん?」


 零無が尋ねると、シロウは小さく頷いた。


「ええ、結婚はできませんが、今は男性同士でも子供を作ることは可能です」


「だってよ、四宮君? よかったじゃない。これでまた男の子が生まれたら幸せな家庭ができそうね」




 ……どっちもいらんわ!



 声に出したいが、この場で零無の誘導に答えるのは癪だ。


「いいわね、あんたたち。いい相手に巡り合って。ひひ」


 五十嵐が口元を歪めて高笑いする。


「どうせなら四人で住んじゃえばいいんじゃない? ここで二組のカップルを作ってお互いの子供を育てあったらいいじゃない。ね、それなら可能なんじゃない? シロウさん」


「不可能ではありませんが……先のことを考えるとオススメできませんね」


 シロウは憂いの表情を帯びながらいう。


「子供が困惑するような家庭環境では、影響が出るでしょう。お互い、本当に強い気持ちがあれば可能かもしれませんが……難しいと思います」



 ……なにあんたまで正直に答えてんだよ!? 反応しづらいわ!



 シロウの冷静な分析に皆、言葉を失う。確かに偽装結婚を用いるくらいなら、こんなややこしい設定で会議を始める必要はなかっただろう。



 ……だがこれで一つ、駒は進んだ。



 心の中だけでほくそ笑む。自分を囮にしてしまったが、四人のうち、参浦と八橋に焦点が向かうようにすればいいだけだ。


「できるわよね? あんた達なら」


 五十嵐が再び言葉を述べながら口元を手で覆う。


「八橋が料理担当、七草さんが家事をして、参浦君が子育て、四宮は……ニートでもいいんじゃない?」


「それでいいなら助かるな。俺に役割がないのなら結婚してやってもいい。そのままお前は結婚せずに寂しい老後を迎えられるし、いいことづくめだな?」


「は、何いってんの!? 別に結婚したくない訳じゃないし! いい相手がいないだけだし!?」


 五十嵐の顔は途端に曇る。ここは少し攻めてみるとしよう。


「これだけの責任者が揃っていてまだ高望みをするのか? 五十嵐? よっぽどお前には高スペックが詰まっているんだな。見えないだけで」


「きー、うるさいわね! あんた! 何様なの?」


「別に。ただの責任者として同じ同僚だが? お前こそ、理想ばかりを求めすぎて自分のことを棚に上げてるんじゃないか? そんなんだからこそ、今まで結婚できなかったんだよ」


「う…………」


 五十嵐が涙目になる。勝気だった彼女の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。


「うるさい……うるさいうるさい……何も知らないくせに……あたしのこと……」



 ……少しやりすぎたか?


 

 周りを眺めると、皆、五十嵐に同情の視線を送り込んでいた。意外にもメンタルはそこまで強くなさそうだ。


「す、すまん……話を遠ざけてしまった。元に戻そう……」


「四宮君。その前にすることがあると思うんだけど?」


 零無の強い視線に素早く頭を下げる。


「五十嵐、すまない。少しいい過ぎた。お前にだって結婚できる。もしいい相手がいなければ……俺がなってやろう」


「うるさい、馬鹿! 誰があんたなんかと! 死んでもしないわ!」


「ああ、それでいい。そのくらい元気な方がお前らしいよ」


 素直にいうと、五十嵐はなぜか顔を赤らめて声を細めていった。


「……何よ。いきなりそんな笑顔見せないでよ……反応に困るっての」


「よし、じゃあ話を戻してみようか。あまり時間がないみたいだし……」


 壱ヶ谷の一言で皆の意識が集中する。


「参浦のその……話は始めて聞いたがここは結婚を決める場だ。二人が同姓を愛していたとしても、子供を作る環境が揃えばここでは結婚は成立する。なら、二人の意見を改めて、オレは訊きたいな」



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