青々とした私たち

蒔田舞莉

第1話 

四月七日。

短い休みが終わりを告げ、新学期が始まる。

私は晴れて二年生に進級するのだが、あまり実感も感慨もない。

元々一クラスしかない我が商業科は全員進級することができ、教室が変わる以外、何も代わり映えしないのである。

まあ良いクラスなんだけどね。

ひとりごちながらいつもの靴箱にローファーを入れ、スリッパと体育館シューズを取り出す。

表の方できゃー、とかわー、とかいう声がしたのを尻目に教室へ向かった。


うちの高校は五階建ての本校舎と三階建ての別棟からなる。規模だけでいえばかなり大きいといってよかった。

HR教室は本校舎の三階から五階、上から一、ニ、三年だ。

何故か学年が上がるたびに階数が下がる。楽になるしいいけどね。

少し上を見ながら二の四のプレートを探す……までもなく四階に着いた途端、聞き覚えのある笑い声がした。

唯一空いたドアを見つけ、入るとやはり見慣れた顔があった。

さっきの声は後ろに固まっている海野さんたちだろう。


「おっ、理歌りか。おはよ」

「おはよう、大城おおきさん」


口々に挨拶してくれるクラスメイトにおはよーと返しつつ黒板を見る。席順を確認するためである。

流石に初日は出席番号順らしい。

鞄をおろして、仲の良い友人の元へ行く。


「お久ー。っても一週間前に遊んだけど」

「まあでも、久々って感じはあるな」


中学時代からの親友、開田かいだももはそう言って笑った。

この男子のような口調は初めて会った頃から変わっていない。男子よりも女子に人気のある子だ。剣道部員だということも一因かもしれない。


「そういえばさ、普通科二人辞めたらしいよ」

「マジで。うわあ、もったいねー」

「ほんとそれ。ところで話変わるけど、宿題持ってきた?」

「唐突だな。もちろん……って、忘れたのか?」

「んなわけ。けど国語答え合わせ出来てないんだ。ちょっと見せてくれない?」

「成程。あいよ」


そういって鞄から春休みのワークを取り出してくれた。あと筆箱から赤ペン。

お礼を言いつつ丸を付ける。一応得意科目なのでバツはほとんどなく、大した時間もかからなかった。

あとは共通の趣味の話や昨日のテレビの話をしつつ時間を潰した。

SHR開始のチャイムと一緒に入ってきたのは去年と同じ担任で、あちこちからまたかよー、ややったーなど様々な声が飛び交った。

もっともまたかと言っている生徒の声色も嬉しそうではある。


その後始業式を終えた私たちは、さっさと宿題を提出し、帰路についていた。

生徒会でもない限り、午後から行われる始業式には参加しないからだ。

李は電車通学ではなく自転車通学なのだが、駅までの道は一緒、ということで途中までは一緒に帰ることになっている。別にどちらかが言いだしたわけでもなく、暗黙の了解みたいなもの。

明日の課題テスト嫌だねーなどと愚痴りつつ、ゆっくり歩く。


「部活も、入る人いるかなあ」

「どうだろうな。うちは一人は入ってくると思うけど」

「ああ、小森くんだっけ。中学の時の後輩くん」

「そ。合格したって連絡来たから」


スマホを器用に片手で操作して、画面をこちらに向ける。

お馴染みの緑色をしたメッセージアプリの個人トークには少々誤字混じりの合格報告が綴られてあった。


「慕われてたもんね」

「運動部だし」


微妙に釈然としない答えだったけど、そんなものかと反論はしなかった。

何気なく腕時計を見るともうすぐ電車が来る時間だった。


「ヤバ。もうすぐ電車来るから急ぐわ」

「はいはい」


少し早足で歩く。これを逃すと十五分待つことになる。目の前でそんなのは嫌だ。

改札に着くと、丁度電車の到着を知らせるメロディーが鳴った。


「セーフ。じゃ、また明日ね!」

「うん、また明日」


にこやかに手を振る李をあとに、電車に乗りこんだ。

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青々とした私たち 蒔田舞莉 @mairi03

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