大丈夫と大丈夫じゃないの狭間で

櫻日和鮎実

大丈夫と大丈夫じゃないの狭間で

私は問いたい。

一体どこまでがセーフでどこからがアウトなのか。


 何のことはない、部屋で映画を見ていたら下腹部がゴボゴボ言い出した。

二時間半の映画で、ちょうど二時間が経過したところ

そう、つまり一番いいところだ。

だから私はこのままの勢いでラストまで向かい、感動したい。

しかし下腹部を通りすぎ始めたうんこに30分の我慢はできない。


―解る!!解っている!!ここでいったん映画を止めて出してくるべきである!

そうでもしなければ物語が終結していく一番いいところで我慢の限界を迎える!

そもそも既にこんなことで気が散っていて終盤の伏線回収がわからない!

出すのか、出さないのか!


…いや?


冷静になって考えてみれば、ここは自室。

私以外誰もいない。


…大丈夫じゃないか…?

さすがに全部はまずいかもしれないが、半分くらいなら許されるのではないか?

誰に怒られるわけでもなし。

そうだ、別に誰に何かを言われることもない。半分までならセーフ。

むしろ下着でガードできていれば、多少座高が上がる結果になろうがセーフではないだろうか。


そうこうしているうちにうんこは肛門付近へとたどり着く。

耐えてくれ肛門!と、願う気持ちと、

まあ肛門という壁が突破されてもパンツという壁があるし…という気持ちがせめぎ合っている。


第一、考えてみてくれ。

パンツが何のためにあるのかを。

隠すだけならズボンでいい、人類はそこへ更にパンツまで履いている。

これはつまり、つまりそういうことだ。

パンツは肛門の失態をカバーするためにいるのだ。

ならば、たまには仕事させてやらねばなるまい。

お前がいてくれたおかげで事なきを得たよと、労いの言葉もかけてやろう。

そうだ。

そうだろう。

つまりパンツまではセーフだ。

大きく言ってしまえばパンツが駄目でもズボンが壁となってくれればセーフだ。


時計の針はあれから30分進んだ。

結末がどうだったか、感動できたかどうか、何も覚えていない。

ただ、座高は少し上がった私が座っている。

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