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1.『花葬』著: 黄間友香 ジャンル: 歴史・時代・伝奇(No.004)

 まず初めに断っておきますが、本稿はこの企画で初めて「作品途中」での批評となります。具体的には弐の『暑さに目を瞑ることはない』迄(ただし話としての区切りが章ごとなので、事実上壱迄と言ってもいいかもしれません)です。


 それが完結した作品への批評と何が違うのかというと、あくまで「今で揃っている情報でのみ」の判断になる為、割と「高めの評価が出やすい」です。この作品がそうかは分かりませんが、世の中にはそれっぽく風呂敷だけ広げて、終わってみれば微妙だったという作品がごまんとあります。また、序盤の評価がそれなりでも、最終的には非常に高い評価が出ることもあります。その辺りの「ブレ」がある事はまずご理解頂けたらなと思います。


 その上で本作ですが、現時点で物語として直すところは有りません。非常に良く出来ている。優良、と言って差し支えないでしょう。


 ネタバレにならない様に内容を確認しますと、架空時代小説という事で、あくまでフィクションではありますが、江戸とかその辺りの雰囲気を個人的には感じました。後遊女とかそういうやつ(曖昧)ね。作品全体、という訳では無いのですが、『穢翼あいよくのユースティア』の館(だっけ?)だとか『いろとりどりのセカイ』における異世界のひとつ(そういう表現で良いのかは不明)とか、その辺りをちょっと思いだしました。どちらも全部はプレイしてないんですけど。


 さて、内容として直すところが無いので、良いところを上げておきましょう。


まずは文章。自分は余り文章の良し悪しを見極める力が強くないのですが、全体として作品の空気とよくあっているな、と思いました。単純に綺麗な文章だからというのも大きそうですが。


 次に、人物。多分ここが強いんじゃないかなぁと思うのですが、良く出来ていると思います。その内コラムでも書こうかなぁと思っているのですが、外から特徴を装飾した人物ではなく、きちんと「内側から作っている人物」になっているように感じます。過去にこういう事が有った、だから今こういう事をする。基本ではありますが、そういう部分がきちんととらえられてるんじゃないかなぁと思います。全部見ないと断言はできないですけど。


 後は、世界観。とは言っても特殊な魔法だとか、現象がある訳ではありません。ただ、どちらかと言えば馴染みの薄い、遊女的な(という理解で良いのかは不明)職業と、その周辺の人々に関して、良く理解し、表現しているなぁという感じがします。


もしかしたら現実の歴史から辿った場合、「こういうのは違うんだよ!」という事があるのかもしれませんし、無いのかもしれません。ただ、この場合重要なのはそこではなくて、架空の時代小説として、架空の歴史として、存在しえる様に見せる事。その辺りのバランス取りは上手いと思います。こういう時に出して良い物、出してはいけない物という区別が出来ていると言いますか。


 さて、内容としてはアドバイスするところも無く、このままの質を維持してくれればいいと思うのですが、一つ気になるところが有ります。それは「キャッチーではない」という事です。


 自分は色んな作品を見てきました。その中で感じた事なのですが、「やっぱりキャッチ―な作品が強い」という事です。キャッチ―な作品、というのはもう感性の話になって来るので「こういうのだよ」と明示するのが難しいのですが、強いて特徴づけるならば「シナリオその物が簡素でインパクトを与える物である」という感じでしょうか。


最近流行った作品で言えば「シン・ゴジラ」だとか「君の名は。」辺りでしょうか。この辺のストーリーを本当に大まかな形で書き出してみると凄く単純な事に気が付くと思います。まあ、実際の所どちらもそれを支える屋台骨がしっかりしているのですが、要はそういう「最初の分かりやすさ」みたいなものがある作品が「キャッチ―」なのかなぁというのが個人的な見解です。


 で、本作。そういう観点で考えるとやっぱり「キャッチ―」ではないと思います。後は、以前(※1)にも書きましたが、カクヨムという媒体、そこに集う人間。そして、そこからデビューした作品群の装丁などから考えると、この作品は少し異端なのかなぁという感じもします。個人的には悲しい事ですが、世間の読者は結構分かりやすい物を求めてます。


 と、色々書きましたが、これに関しては「どうすべき」という答えは無いと個人的には思います。勿論現段階のバランスを保ったまま、キャッチ―さ、分かりやすさを追加して引き付けるという試みが有ってもいいでしょうし、現段階で問題がないのだから、そのままという選択肢も十分にあるでしょう。個人的には「伏線」じみたものを早い段階でちらつかせてもいいかなぁという気もするのですが、構造上無理である可能性も有るので、何とも言えないです。


 何だか雑多な感じになって済みません。ただ、一つだけ言えるのは、このままの品質を維持していけば、間違いなくトップクラスの物になるだろうな、という事位でしょうか。こういう和な雰囲気の作品も良いなぁ、やりたいなぁ、って思いました。自分がやろうとするとバランス取りに苦戦しそうですが。



※1…No.003で解説


(作品URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054882872815

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