わたし、迷走してます

「チャコ、なにそれ」

「何って眼鏡やん。見てわかるやろ?」


 また放課後に二人を引き止めて、恒例になりつつあるツンデレ会議をしていた。

 昨晩の収穫はそう、この眼鏡だ。


「朝はしてなかったやんな?」

「うん、さっきした」

「なんで放課後にすんねんとか聞きたいけど、とりあえずなんで眼鏡なん?」

「昨日マンガ読んでたらな。眼鏡掛けたキャラがツンデレしててん。いや〜ヒントは近くにあるもんやな」

「キャラとっ散らかりすぎやろ! 元気系犬系眼鏡系ツンデレ少女って濃いわ! ドロドロのソースかお前は」

「うまいっ! ソースっていっぱい材料入ってるもんな! 頭ええなぁせっちゃんは」

「その反応やめろ! 天然が追加されるやろ!」


 せっちゃんは文句ばっかり。やってみないとわからないのに。失敗は成功の元って言うのに。

 今日もこの後イッキくんに会うことになっている。運良く同じ時間に図書室で本を探していたわたし達は、気まぐれで有名な杉田先生に二人まとめて掃除を頼まれたのだ。何たる幸運。


「チャコちゃん、ツンデレの極意。デレ・ツン・デレやからね」

「わかった!」

「絶対わかってへんやろチャコ!」


 あんまりイッキくんを待たせるわけには行かない。二人をそのままに、わたしは図書室に走り出していた。




「ほいで? 今日の戦果は?」

「タンちゃんの嘘つき.....」

「私?」


 掃除が終わるまで待っててくれたけど、今日はタンちゃんのせいで酷い目にあった。


「デレ・ツン・デレってさ、デレてからそっぽ向いて、そんでデレるんやろ?」

「なんや、理解してたんか」

「図書室行ったらイッキくんがほとんど終わらしてくれててな。ここやと思って『ありがとう』ってデレてん」

「ほう」

「そんでツンしようと思ってな。窓の下のホコリ指ですくって『まったく、詰めが甘いんだから』ってゆってん」

「そしたら?」

「『.......ごめんな』って」

「がぶふぅう!! また謝らせてるやん!! アホやチャコ! しししシンデレラのおばさんんんん!!」

「うるさいわ!! お陰で『遅刻したくせに文句言う非常識な女』やと思われてるわ絶対!! なんやねん! 嫌われるためにやってるわけちゃうわ!」

「私、関係ないやん...」


 わたしは眼鏡を床に投げつけた。


「しかも、眼鏡ない方がいいねって.....」


 前回にも増して爆笑しているせっちゃんは、袖で涙を拭って床に落ちている眼鏡を拾った。


「そらそうやな。チャコは目がクリっとしてて可愛いんやからこんなフレームクソでかい眼鏡で隠したらあかんよ」

「え?」


 褒められた?


「そうやでチャコちゃん。見た目は可愛い。子犬みたいで」

「動物やん」

「それでもええの。次からは物に頼らへん。わかった?」

「ん〜.....はい」


 なんだか丸め込まれた気がするけど、なんか褒められたからええや。

 それから、学校から離れたコンビニでアイスを買って帰った。並んで食べるアイスはとても甘くて、今日の失敗が何だったのかというほど満たされてしまったのだった。




 しかし、この時のわたしは知る由もなかった。翌日に起こる大事件の事を。

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