第34話 はじめての

 オーケー。状況を整理しよう。

 まず、俺は過去を瑞菜さんに告白した。

 その上で瑞菜さんは俺のことを好きだと言ってくれた。

 そして、俺も瑞菜さんのことが好きだ。


 そして、ナウだ。


 瑞菜さんは俺の身体によりかかりながら、俺を見つめた後に瞳を閉じた。

 

 さぁ。どうする?

 いや、この状況で躊躇するのは失礼に当たるだろ。

 それにあれだ、こんな美人とこういうこと出来るなんて一生で今だけかもしれないぞ、そうだ、行くしか無い!


 恐る恐る顔を近づけて……目を閉じて……


 ムニュ……


 や、柔らか……ん? なんか唇をぐにぐにと動かされるぞ!

 激しいキスなのかこれは!?


 って、いくらなんでも上下左右に動かされすぎだろ!


 思わず目を開ける。

 俺の唇を人差し指で動かしまくっている瑞菜さんと目が合う。


「ブハッ! ご、ごめんなさい! だって遅いから目を開けたらプルプル震えてる琉夜さんがいて、ついかわいくていたずらしたくなっちゃったんです!」


 大笑いされた。


 正直、怒るとかじゃなくて、ホッとした。

 

「ふーーーー」


 ホッとしたら自然とため息が出た。

 急に笑い転げていた瑞菜さんがぴょんと正面に正座して肩を掴んできた。

 と思ったらぐっと引き寄せられ……唇を奪われた……

 柔らかいし、あったかい……それに凄くいい香りがする……


「……そんなにがっかりしないでください、い、一応初めてなんで、それで許してくださいね」


「お、俺も……初めてでした……」


「よかった、27でキスもしたこと無いって引かれるかと思った」


 ちょっと舌を出してはにかんだ瑞菜さんはとても可愛らしかった。


「で、でも、その、瑞菜さん、そんなに可愛いのに、彼氏とかいなかったんですか?

 俺とは状況が違かったんじゃ?」


「うーん……中身は一緒だったんだと思います。

 店長夫婦が凄く良くしてくれたから、元気にしてないとなーって。

 だから、確かに言い寄られたりもしましたけど……なんとも思えないし、こんな気持で食事行ったり、デートしたりしたら相手に失礼だなーって。

 だから、妙に琉夜さんにストンと来たのは自分でも不思議だったんです。

 たぶん、お父さんが連れてきてくれたんじゃないかな?」


 ぐっっと来た。

 その言葉に、彼女を幸せにすることが、俺の人生の目標になった。

 電撃が走ったようにそう感じた。


「み、瑞菜さん。俺、仕事するよ、働く!

 だ、だから、絶対瑞菜さんのこと幸せにする!」


「……嬉しい。でも、プロポーズみたいだよ?」


「あっ、いや、今はまだ、難しいけど……そのうち……ちゃんとしたら……」


 瑞菜さんは姿勢を正して正座し、2つ手をついて深々と頭を下げる。


「お待ち申しております」


 俺も慌てて身を正して深々と礼をする。


「頑張ります!」


 同時に顔を上げて見つめ合う。

 そして、また二人で大笑いしてしまう。

 その日は夜遅くまで色々なことを話し合った。


「仕事するって動物に関わる仕事?」


「それができれば嬉しいな……」


「うちのお店の裏に動物病院あって、あそこの先生うちに全部お弁当任せてくれているんだけど、相談してみようか?」


「えっ!? め、迷惑じゃななければお願いしてもいいですか?」


「うん! 明後日仕事だからその時聞いてみるね」


「そう言えば明日お休みなんですよね」


「うん、リフクエいっぱいできるね」


「その発想いいですね」


「あ、ソロソロアップデートの情報来てないかなー、公式ページ見てみようよ」


 パソコンを立ち上げてリフクエの公式ページを覗く。


「あ、出てる出てる……え? 凄くない?」


「うわ! 凄いなこりゃ……」


 今回の長時間メンテ明けから導入される事は凄まじいの一言だった。


・感覚関連の増強。香り、味、触覚の強化。注:安全のために痛覚は除きます。

・時間経過による日変動の導入。夜実装。

・レベルキャップ開放最大レベル100→200へ

・魔法職の強化、弱点属性攻撃倍率を1.5倍から2倍へ

・新大陸フェベルゼルク実装。飛空艇実装。


 その他大量に書き並べられたアップデート内容。

 まだまだ自分たちには関係ないレベルの話も多かったが、まるで別のゲームになったと思えることの無いようだった。


「ほんとうにもう一つの現実になっちゃうよねこれだと……」


「料理の匂いとか味とかわかるのかー、ちょっと嬉しい」


「感覚かぁ……こんな風に手を繋ぐとゲームでも手を繋いだ感覚になるのかな?」


 俺の手を握ったり掴んだり、摘んだりしていろいろと試している。


「琉夜君、手大きいよね」


「ああ、よく言われた」


「結構体つきもしっかりしてるし、何か鍛えてるの?」


「うーんと、リハビリを続けてるから、運動と言うかストレッチ的なものはずっと続けてるね」


「どれくらいやるの?」


「えーっと、長いから詳しくはこれを……」


 俺は大昔に病院から貰ったリハビリのプリントをシーリングしてまとめたファイルを渡す。


「……!? こ、これを毎日……」


「うん。習慣になってるからねぇ。それに他にすることもなかったし……」


「ちょっと失礼ー……うわ、凄い……」

 

 瑞菜さんが俺の身体を触りまくる。くすぐったい。


「細く見えるのに、バキバキだね……」


「バキバキなのかな? あんまり自覚ない……」


「肌も綺麗だし、背も高いし、細いし、バキバキだし、優しいし。

 うん。ナイス私の目!」

 

「お気に召して頂けて光栄です」


「私も運動しようかなー、二の腕とかやばいんだよねー……

 店長のご飯も美味しすぎてついつい……」


「え? だ、だめだよただでさえ細いのに……」


「細くないよー、見て横の腕のプニプニー」


 え、触っていいの。はーやわらかーい、気持ちいいー。


「これは、チャームポイントだから無くしちゃ駄目。

 でも、柔軟とかはいいと思います」


「いつも何時くらいにやってるのー?」


「だいたいお昼が多いけど、朝だったり、夜だったり……」


「夜にしよう。これから私も通って一緒にやるから!」


 こうして、我が家での定例会が発足した。

 

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