第27話 成長

「一回のダンジョン探索で2万ゼニーは美味しいね」


「ギルドクエストもいくつも受けていけるし、これはすぐにランク上がるかも」


 みんなで今回の冒険の成果を確かめ合う。

 レベルも上がったし、何と言っても素材系のプレイヤーによる買い取りが非常に増えていた。


「今はもうプレイヤー作成武具の方が安いわよー。店で買わないようにね。

 ハイレベル武器のための経験値稼ぎに初心者用をたくさん作る鍛冶まわしがネットに上がってるから、この町の店売りよりプレイヤー店舗から探すといいわよー」


「ケアのこういう情報は当てになるから皆、信じていいぞ」


「お店から買うところでした……ありがとうケア」


「ふふん。もっと褒めていいのよミーナね~様。

 攻略サイト見ないってのは聞いてるから、まぁホントに困ることだけにしとくわね」


 頼れるケア姉さんって感じになっている。


「流石に情報なしは厳しいのかなぁ……」


「でも、見始めると際限なく見ちゃいそうでなぁ、それで効率追い求めるのは違う気もするんだよね……」


「焦る旅でもない、これからはケアもいるし、最低限大きな損はしないように上手いこと言ってくれるじゃろ」


「ちょっとー、ラックの無茶振りが酷いんですけどー……」


「ケアちゃん。お願いします」


「ケアさんお願いします」


「あーもー! おにーちゃんもおねーちゃんも頭上げてよ~……

 適度にアドバイスはしてあげるわよ。あーもーケアってば天使~♪」


「ケアさんマジ天使っす」


「ケアおねーさま」


 悪乗りする二人組であった。

 兎にも角にも、結構まとまったお金が手に入ることがわかった。

 余った時間はプレイヤーの店舗でほしいものに目星をつけてその日は解散になる。

 夜の7時だとやや集合が大変なので、パーティでの狩りは20時位からメンバーが集ったらゆったりとやっていこうということを決めておいた。

 リアルの生活もある人もいるだろうから。


「あ、あと明日は大型メンテになるそうだから、一日入れないからまた明後日ね」


 ケア姉さんの連絡事項も胸に刻む。


「はー……。結構暑くなってきたなぁ……」


 機械を取り外し窓を開ける。

 夜の風が部屋に差し込み火照った身体を覚ましてくれる。


「「あー、気持ちいい」」

 

 ん?


「瑞菜さん?」「琉夜さん?」


 窓から身を乗り出すと瑞菜さんも同じように窓から乗り出していた。


 ……ふぉ!! でけぇ!!

 思わず目を逸らす。下から見上げてるのと、手すりに乗っているようになって凄いことになっていた。


「こ、こんばんは!」


「こんばんはー、夜の涼しさが気持ちいいですねー」


「そ、そうですね。閉めてたから部屋が少し暑くて……」


「私も何ですよー、もー汗ばみますね」


 ぱたぱたと服で仰いでいるんだろう。見てはいけない。自制心と戦う。


「でも、キンキンに冷えたビールとかが美味しそうな季節ですね!」


「お酒飲めたらそう思うんですかねー?」


「今度飲みましょうか!」


「お、俺どうなるかわかんないんですよー……」


「それでしたら琉夜さんのお家で飲めばいいじゃないですか」


 なん……ですと……?


「店長の唐揚げ買ってー、琉夜さん明日暇ですかー?」


「ひ、暇ですよ」


 明日はメンテで暇だ。


「ちょうどよかった。私も急に暇になっちゃったんで、琉夜さんのビールデビュー記念で飲みましょー!」


「いいんですか俺なんかと?」


「やだなぁ、琉夜さんと飲みたいんじゃないんですかー……あっ」


「え?」


「お、おやすみなさい! 明日夕方まで仕事なんで、む、迎えに来てください!」


 ガラガラぴしゃーと閉じられる窓……

 今、言われたことをゆっくりと反芻する。


「聞き間違いじゃなければ……俺と、のみたい……?」


 どうして瑞菜さんはこうも俺を沸き立たせるのか……


「……俺、彼女に何か気に入られるよなことしたっけ……」


 顔が少し火照っているので顔を洗いに洗面台へ向かう。

 自分の顔を見るが、もう何年も見慣れた……顔……


「傷って……こんなに目立たなかったっけ?」


 頭部にこびりつくようについていたやけどは、スキンヘッドにした皮膚に引き連れた部分が少しあるが、あまり目立たない……


「いや、あんなに酷かった傷が急に変わるはず……」


 俺は急に大昔の先生との会話を思い出す。

 大垣 楽蔵先生。俺に親身になってくれた先生だ。


「君の傷はきれいに治した。

 もしそれでも君に傷が残ってると言うなら、それは心の傷が君を傷つけているんだろう。

 その傷を今治すことはできなかったが、これから長い時間をかけても向き合おうと思う。

 僕はいつでも君を応援しているし、いつでも頼ってくれていい。

 だから、今はゆっくりと休んだほうがいい……」


 病院を退院する時にかけてもらった言葉だ。

 誰に話しても傷はないと言われたのに、唯一傷があるって言ってくれたのは、他でもないその傷の治療をしてくれた先生だった。

 あの一言で、少し救われた。

 やっぱり自分の頭がオカシイのかと追い込まれないですんだ……


「楽蔵先生、お元気なんだろうか……会うことは無いだろうけど、もし、会えたらお礼をちゃんと言わないとな……」


 先生。時間はかかりましたが、皆が言っていた傷の話わかるようになりました。


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