第26話 ダンジョン

「えーっと、普通のフィールド・ダンジョンか、パーティだけのダンジョン作成か選べるみたいだね。こういうとこはゲームが全面に押し出されてるな……」


「最下層にはボスもいるから、ボスに粘着するやつ対策じゃろ」


「ダンジョン作成すると、出現する敵のレベルがパーティに影響を受けるみたいね」


「ケア難しい話よくわかんなーい」


「嘘つけ、ケア、どっちがいいんじゃ?」


「……もー……、このメンツで作成はしんどいと思うよー、12人パーティを想定してるからー。マップも毎回変化するし、ケア達にはまだはや~い」


 ちょっと不機嫌で答えてくれるが、ゲーム情報はケアに聞くのが一番だ。


「よし、このままダンジョンへ入ろう!」


 準備はしっかりとしてきたので、そのままのダンジョンへと突入する。

 洞窟は街から少し離れた森を抜けて、山の麓にその入口がある。

 もともと鉱山だった場所が廃坑になりダンジョン化したという設定だ。


「ちゃんと照明がついてるのは有り難いね」


「松明型の照明じゃな、火のゆらぎは処理が大変なんじゃろう」


「ちょっとラック、メタい発言禁止ー」


「おお、すまんすまん」


 洞窟内も一定の明るさが確保されている。

 それでも昼しか無いリフクエの中では薄暗く、雰囲気は十分だ。

 流石にリアリティよりも安全に考慮されて、天井も十分高く、道も広い。

 戦闘が起きても立ち回りに困ったりはしなさそうだ。

 

「なんか、洞窟なんて入らないから……少し……怖いね……」


「そうじゃなーやはり外とは違う趣があるのう」


「ケア暗いとここわーい。リュウヤおにーちゃん掴まってもいい?」


「しっ! 戦いの音がする……」


 今のところ一本道の洞窟の先から金属がぶつかりあうような音が連続して聞こえる。この先で誰かが戦っているようだ。


「とりあえず、見えるとこまで慎重に進むかのう」


「リュウヤごめん。ちょっと緊張してきたから、裾掴んでてもいい?」


「え、あ、うん」


 いつも元気なミーナのしおらしい一面にドキッとしてしまう。


「あー、リュウヤおにーちゃんケアの時と対応がちが~う」


「い、いや。さっきはほら音が聞こえたからとっさに……」


「見えてきたぞ、あれはゴブリンじゃな」


 リアル指向ではない可愛らしい子鬼ってビジュアルだ。

 コブリンが5匹、錆びた剣を持った2匹、弓をつがえた2匹、杖を持った1匹。

 きちんとパーティしている。


「1階のこんなに浅いところからあんなパーティを組んだ敵が出るんじゃな。

 なかなか歯ごたえがありそうじゃな」


 相手をしているパーティは6人。

 装備も俺たちとは比べ物にはならないほどしっかりしている。

 コブリンが放つ矢も前衛の鎧に弾かれている。

 見事な剣が紙のようにコブリンを切り裂いていく。


「すごーい……」


 ミーナもその見事な戦闘に舌を巻いている。

 そのパーティはまるでゴブリンなんていなかったように颯爽と洞窟の奥へと進んでいく。


「ちょっと距離取ったほーがいいわよー、相手がいなくなっちゃうから15分くらいかなー」


 適切なアドバイスをしてくれるケア。いつもそっちだと助かるんだけどなー。

 結局一旦外に出て、もう一度入り直してみた。


「おっ、前方に敵影」


 ダンジョン最初の戦闘は先程と似た構成のゴブリン。

 前衛3の弓1という構成だ。


「準備いい?」


「大丈夫」


「OKじゃ」


「おっけ~」


 俺は駆け足で一気に距離を詰める。

 こうすることで全員のターゲットが自分に向いてくれる。

 前衛の攻撃を盾で受け、一撃を加えて防御体勢に移行する。

 あとは、何度もやった戦い方で慎重に戦闘を進めていく。

 初めての飛び道具だが、きちんと見ていれば問題なく盾で受けられそうだ。

 

「ラック、お願い!」


「うむ、ファイアーボール!」


 俺に攻撃を受け流されたコブリンに火の玉が直撃する。

 流石に肉の焼ける匂いなんかはしない。

 ゲームらしいエフェクトとともに消えていく。


「おつかれー」


「緊張したけど、一回戦っちゃえば平気みたい!」


 ミーナにも笑顔が戻っている。


「遠距離攻撃あると緊張するよ、そっちにタゲ行かなくてよかったー」


「リュウヤおにーちゃん頑張ってたよ! えらいえらい!」


 素直に嬉しい。


 その後もダンジョンを慎重に進む。

 ダンジョン内の敵は複数一緒にいることが多く、戦闘で得られる経験値も多い。


「美味しいねこれは」


 さらに炭鉱設定のせいか時々鉄鉱石などの素材系アイテムもドロップする。

 製造に使われるので金策にもなる。

 明らかに効率がいい狩り場に全員興奮する。

 マッピングをしながら無心で敵を倒し続ける。

 同じようなことを考えているパーティとも複数すれ違った。

 

「さて、一階は全部回ったな。どうしようか?」


「時間的にはあと1時間ちょっとじゃな、帰るかの?」


「ケアもう暗くてジメジメしたとこ飽きたー」


「一度街へ帰りましょー! ドロップ品精算しないといけないですねー」


 こうして俺達の初めてのダンジョン探索は大成功で幕をおろした。





 


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