第19話 魔法

「おお、助力感謝する!」


 俺は老人のアバターのプレイヤーと敵との間に割って入る。

 これで少なくとも囲まれて背後から襲われるのは防げるはずだ。

 

「アピール!」


「ガードスタイル」


 いつもの組み合わせで敵の注意を自分に向けていく。


「ファイアーボール」


 ウルフの一匹が火の玉の直撃を受けてボフッと消える。

 俺がギルドの時に試したものより大きく早く、強そうな火球が出たことに少し驚く。


「魔法も強いんですね」


「余り使うものはいないが、なかなか楽しいぞよ。やはりせっかくのゲームだし魔法を使いたいじゃろ?」


 にやりとサムズ・アップするおじーちゃん。白い髭とクシャッとした笑い方が、人懐っこさを感じさせる。

 いかにも魔法使いですってローブに帽子。

 ロールプレイを思いっきり楽しんでいる感じはとても好感が持てる。


 ウルフからの攻撃を防ぎながら、強力なベアの攻撃に注意を払う。

 盾役の俺が入ったことで、ミーナとおじいさんの攻撃で無事にウルフは倒せる。

 3対1なら強力なベアも敵ではない。

 俺が攻撃を防ぎ、二人が攻撃。

 パターンに入ったというやつだ。


「よいしょー!」


 突進を盾でしっかりと受け止めて動きが止まったベアにミーナの矢が突き刺さり、氷のつららが降り注ぎ、あっけなくベアは消えていった。


「おお、一時はどうなるかと思ったが、おかげで助かった。

 私の名はラック。お二人ともありがとう」


 ラックさんは深々とお礼をしてくる。


「ラックさんは結構離れてますがソロでここまで来たんですか?」


「いやー、街まで歩いていこうかと思って来たんじゃが、ちょっと欲出してベアにちょっかいを出したら思いの外、敵がリンクしておってな……」


 懐からポーションを取り出して使用している。

 結構ギリギリだったようだ。


「やはり魔法使いは接近されると駄目じゃな。

 逆に前に人がいてくれるとこれほど楽しい職は無いのぉ。

 いやはや、鍛錬せねば……」


「ラックさん、もし街へ行くなら一緒に行きませんか?

 俺たちも今、街へ向かっているところなんですよ。

 もうあとは丘を下りていくだけですし……」


「私もそれがいいと思います!」


「いいのかい? 二人のデェト中に邪魔してしまっても?」


「で、デートじゃないです。冒険中なんです!」


「そ、そうですよ!」


 ミーナが強く否定して少しさみしかった……

 こうしてラックさんも一時、俺達のパーティに加入する。

 

 実際に魔法を使い遠距離攻撃をするラックさん、それに物理遠距離攻撃をするミーナ、それに前で敵を引き受けるタンク役の俺。

 パーティとしてバランスが良かった。

 問題は……


「ポーション、使ったねぇ……」

 

「すみません、皆のまで使ってしまって……」


「何を言っておるか、お陰でワシは安全に旅が出来た。

 もちろんポーション代なんぞいらんぞ、命の恩人じゃからな」


 ウインクしようとして両目をギュッと瞑るラックおじーちゃんは少し可愛い。


「もうすぐ街だし、もう敵もほとんど出てこなくなってきてるから。

 リュウヤ、お疲れ様でした」


「皆さんもお疲れ様でした。こうやってパーティになると、本当に楽しいね!」


「そうじゃのぉ、もし暇があればまたご一緒したいのー」


「あ、ラックさんフレンドいいですか? タイミングあればまた誘います!」


 貴重な魔法使いの方と友達になれたのは嬉しい。

 魔法はロマンって考えは物凄くわかる。


「こうなると、回復役も居ると楽よねー……」


 ミーナの言う通りだ。

 

「やっぱり古来からのRPGの組み合わせは正しいんだね、タンク、火力、回復、+αっていうのは……」


「そうじゃなー、ここがリアルな世界だったら、ワシなんて今頃クマの餌じゃったからなぁ……弱い人間は群れねばならない……」


「みんなで強くなっていきましょう!」


「そうね! もっと冒険しましょう!」


 そんなことを話していると、街の入口にたどり着く。

 今回の旅はかなり冒険っぽくて楽しかった。

 ラックさんというフレンドも出来たし。

 とても実りの多い旅だった。


「旅人よ、ケーロの街へようこそ。

 身分を明らかにする物はあるか? 冒険者の証があればそれが身分を明らかにする。」


 衛兵が話しかけてく。他の冒険者の姿もたくさん見受けられる。

 プレイヤー達もどんどん冒険の範囲を増やしているのだろう。

 ギルドの情報は自動的に衛兵たちに送られるようだった。


「うむ、冒険者ギルドに認められた者達なら何の問題もない。

 ケーロの街へようこそ!」


 街を囲うように造られた城壁を抜けると、村とは規模の違う大きな街だ。

 建て並ぶ建物も石造りか漆喰が塗られて村とは明らかに雰囲気が違う。

 木造の素朴な村に比べると、道も石が敷かれて人の手によって造られたという整然さが感じられる。


「おお、なんか、海外に観光に来たみたいだ……」


「確かに……凄いね……」


「ふむ、建築様式は西洋の中世くらいをモチーフにしてそうじゃの、ありがちだが……心が踊るワイ!」


 田舎から都会に出てきた人みたいに3人でキョロキョロと町並みを観光気分で眺めながら、ギルドと教会に顔を出しておく。

 こうしておけば、万が一死んだときでも復活場所がこの街になる。


「ギルドも大きいし、人が凄く多かったねー」


「教会もちゃんと教会! って感じで……」


「食堂も立派じゃの、料理も多いし。これで味がわかればビールの一つでも……」


 皆、新しい街についた興奮で見てきたことや感じたことを楽しく話し合う。

 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので……


「あー、もうこんな時間か……でも、今日は楽しかったー!

 二人共ありがとー!」


「ほっほっほ……ワシも楽しかったよ。また会えることを楽しみにしておる」


「俺も楽しかった! 次は、ダンジョンでも行けたらいいね!

 それじゃぁ皆、おやすみー」


 こうして俺の3日目の冒険は幕を閉じる。

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