第4話 テンプレ

「ええと、まずはなにすればいいんだろう……」


 何の下調べもなく、とりあえず入ってしまったから何もわからない。

 それでも自分の周囲に次から次へとアバター達が現れて迷いなく歩いていくので、それに着いていくことにする。

 中には俺と同じように、現れて、消えて、また現れてガッツポーズしてる人もいる。

 まぁ、この光景を見て簡単にゲームの中って思わないよね……

 なんとなく心の同志がいたことが嬉しい。


 しばらく歩いていくと木の柵に囲まれた小さな村が見えてくる。

 村の入口の前で柵の前にいる兵士の前に貯まる集団と、どんどん村の中へ入っていく人たちに別れている。

 その理由はすぐに分かる。


「おお、君は旅人だね。

 この世界ファーミティアには君みたいな『旅人』がよく訪れるんだ。

 ここはカーレイの国、最南端の村ライム。

 僕はこの村の衛兵のダムだ。よろしくな。

 何か聞きたいことがあれば答えられる範囲で答えるよ」


 そして目の前に選択肢が現れる。

 チュートリアルキャラってやつだね。

 コンソールも出して地図を呼び出す。

 自分の周囲と村が地図に書き込まれている。

 村の名前や国の名前、世界の名前も表示されていた。

 さっき見た時は無かったけど、こういうふうに情報聞くと増えるのかな?


「この世界には魔物や凶暴な動物もいるから、村や街から大きく離れたり、街道から離れるときにはきちんと準備した方がいいぞ。

 もし襲われて力尽きて倒れた場合は、最後に立ち寄った村や街の教会に神の奇跡で呼び戻してもらえる。その代わり、道具や金銭を失うことがあるから気をつけるんだぞ」


 いろんな話をダムさんから教えてもらった。

 メモ機能もあるので、何個か気になったことを書き示しておいた。

 ふと思いついたので、日記もそこに書き始めてみた。


「随分熱心に聞いていたね。君もリフクエ初めて?

 攻略サイト見ない派?」


 急に話しかけられた。

 自分に話しかけているかわからなくてキョロキョロしてしまう。

 

「君だよ君。その黒髪の、そう君だよ」


 肩まで伸ばした真ん中分けの黒髪、おでこが出ているのがキュートな可愛らしい女性アバターのキャラだった。


「あ、はい。今日始めたばかりです」


「そ、そんなに固くならなくていいよ。私はミーナ。君は?」


「あ、はい。お、僕はリュウヤです」


「固いなぁ、ま、いいや。リュウヤは攻略サイトとか見てない派だよね?」


「あ、うん。とりあえず始めちゃった」


「いいね! せっかくこんなすごい世界なのに、調べて進むのもったいないよ!

 よし! 今日から攻略サイト見ない同盟だ!」


 可愛らしくクルクルと変わる表情に感心していると右手を出された。

 しばらくぼうっと見つめていると、


「同盟! ね!」


 無理やり右手を掴まれてブンブンと振られる。

 ぽんっと告知音がなり、『ミーナからフレンド申請がありました』と表示が出る。

 承認ボタンを押す。


「よろしくねリューヤ」


 ナウいヤングは積極的だなぁ……と感心しながらよろしくと挨拶を交わす。

 いくら俺でも外見が女の子でも中身が女性ではないことは知っている。

 可愛らしい笑顔を向けてくるこのミーナも中身は男だ。

 そんな漫画や小説は山ほど見た。

 それでも、俺にとってこの世界初めての友達だ。


「そしたら、お互いゆったりこの世界を楽しもうね!

 なんかあったらフレンドコールするから、まったねー!」


 元気よくスキップして離れていく。

 元気な子だ。


「さて、俺もこの世界で楽しんで生きていこっと」


 村の中へと歩いていく。

 小さな村だ。それでも一通りの設備はある。

 道具屋、武器屋、雑貨屋、防具屋、鍛冶屋、食堂、魔道具屋、様々な店がある。

 まさにファンタジーRPGの世界だ。

 テンションが上がる。

 

「まずは、基本だよな……」


 ダムさんも言っていた。この国を旅するなら冒険者の証があったほうがいいと。

 俺は冒険者ギルドの前に立っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る