掌編

憧れ(300字SS お題:雨)

 仕事帰りに買い出しに来たはいいものの、ずっしり重い袋を両手にぶら下げて外に出た瞬間、天気予報がはずれだったことを知る。


 そして同時に。



「お迎えにあがりました。お嬢様」



 そういえば言ったことがあった。『あめふり』の歌は私の憧れだと。


 彼は私の手から大きいほうの荷物を奪い、代わりにビニール傘を差し出した。


「ありがとうございます」


 笑顔で彼に背を向けて。


「これ、よかったら」


 空を眺めていたお婆さんに手渡した。


「わざわざ買ったんですか?」


 彼の差す大きな和傘に潜り込む。


「昔のもらいもの。よかったの? 傘」


「……憧れだったんですよ」




 帰り道、頭の中で幸せな歌が響く。




 ぼくなら いいんだ かあさんの


 おおきな じゃのめに はいってく

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