のうみそのびょうき

々々

のうみそのびょうき

ねえ、知ってる? 恋愛感情ってね、人間の、脳みその、一番古い時代からずっと、ずっと、受け継がれてきた部分の、そのまた奥の、一番、一番深い所に、全ての人間に備わっている、絶対的な、機能なんだ。って。でね、ほら、この前の授業で習ったでしょ。DNA。それをね、生まれる前に、お母さんのおなかの中にいる時に、ちょちょいと調べてあげるだけで、ほら、DNAって、地図なの。設計図。って言ってもいいのかな。とにかく、DNAを見れば、そのDNAを持っている人が、どんなふうに成長しますよー。とか、目の色は何色ですよー。とか、髪の色はー。とか、背の高さはー。とか、とにかく、いろんなことがわかるらしいんだけど、ほら、それで、たまに、テレビで、なんだっけ、デザインベイビー?よくわかんないけど、そうやって、DNAで、赤ちゃんを選んで産んじゃう。ってのが、まあ、それはどうでもいいんだけど、とにかく、えっと、なんの話してたっけ。ああ、そうだ、恋愛感情。恋愛感情をね、生まれつき、持ってませんよー。っていう赤ちゃんが、いるんだって。でね、いるのがわかって、どうするかっていうと、赤ん坊のうちに、注射をするんだって。赤ん坊のうちだと、お薬で、治せるんだって。恋愛感情を持てますよー。っていうおくすりをね、こう、身体の中に、ホルモン?注射をしてあげると、あとは、他の子と同じように、大きくなったら、自然に、普通に、みんなと、あたりまえのように、恋愛ができるようになるんだって。でねでね、昨日ね、あ、昨日ってクリスマスイブだったけど、ヒロちゃんはどうしてた? あたしは家族とテレビ見ながら、うちって、昔から、毎年、家族みんなで、フライドチキンを食べるんだ、ケンタッキーの。それとね、ケーキ。でもね、ケーキは一つしか食べれなくて、それはまあ、普通なんだけど、あたしにとっては普通じゃなくて、実は、あたしの誕生日、昨日で、クリスマスイブで、あ、ありがとう。そう、ヒロちゃんと同じ15才になりました、えへん。だから、本当なら、二つケーキを食べたいなー。とか思うんだけど、でも、まあ、仕方がないよねー。って毎年妹と話してて、あ、妹の誕生日は八月だから普通の日で、そういうことないんだけど、やっぱり、ケーキを食べれる日は多い方が嬉しいし、だから、ねー。って、話してて、えっと、なんだっけ。ああ、そうそう。昨日15才になったから、プレゼントをもらう時にね、お父さんとお母さんがね、大切な話があるからって、ううん、平気だよ、大丈夫。ヒロちゃんに聞いてほしいんだ。でね、大切な話って何だろー。ってね、おもってたら、教えてもらっちゃったの。あたしはね、生まれた時は、恋愛感情のない子だったんだよ。って。黙ってようか悩んだんだけど、15才になったから、そろそろ教えてあげようって思ってって。あたしはさ、ほら、馬鹿だから、2人が何で黙ってたのかとか、どうしていきなりそんなこととか、ぜんぜんわかんなくて、そんなのいいよー、って、笑って答えたんだけど、昨日ね、寝る前に、少し考えて、なんかね、怖くなって、寝て、夢の中にヒロちゃんが出てきて、うん、たまに。それでね、やっぱりあたしは幸せだったんだけど、でも、ほら、夢って、ぼんやりしてるでしょ、だから、なんだか、ヒロちゃんを好きなあたしを、違う人を見てるような、ぼんやりとした気分になっちゃって、うん、それだけなんだけど、でも、起きたら心臓がすごいうるさくて、じゃあ、もしかして、今のあたしのこの恋愛感情って、本当はお薬の力なのかな。あたしがヒロちゃんを好きなんじゃなくて、お薬が、ヒロちゃんのことを好きなんじゃないかな。っておもっちゃって、怖くって、そんなことないって、何回も何回も自分に言い聞かせたんだけど、でもね、どうしても、自信が持てなくて、ねえ、あたしって、本当にヒロちゃんのことを好きなのかな。本当に、あたしがヒロちゃんのことを好きなのかな。もしかしたら、これも全部、お薬が、好きだって思わせてるだけなんじゃないかな。って。そう、考えちゃって、もう、怖くて、わけがわからなくて、泣きそうになって、ねえ、あたし、このままヒロちゃんを好きでいいのかな。ちゃんと、ヒロちゃんを好きだって胸を張っていいのかな。きちんと、ヒロちゃんがあたしを好きでいてくれてるのと同じように、好きでいられてるのかなって、そういうのが、もう、全然わからなくて、ごめんね、変だよね。わけわかんないよね、いきなりこんなこと聞かされて、でもね、もし、もしもだよ、あたしが生まれた時に、注射をされてなかったら、もし、最初からきちんと恋をすることができる脳みそを持って生まれていたら、それでも、あたしは、きちんとヒロちゃんを好きになれたのかな。って、そう考えた自分が、怖くて、許せなくて、つらくて。ごめんね、あたし、もう、自分を信じられない。もう、ヒロちゃんを好きでいられない。好きなのに。こんなに好きなのに。触りたいのに、抱きしめたいのに、キスだってしたいのに、でも、これが、もし、薬のせいだったら、あたしの心じゃなかったら。そうかんがえたら、もう、駄目で。だから、ほんとうに、ごめんね、ヒロちゃん。お別れしよう。大丈夫。ヒロちゃんは、きちんと恋愛ができる人だから、また次も、きちんと誰かを好きになって、楽しませて、幸せにすることができる人だから、だから、あたしのことは、もう忘れて、ねえ、ほんとうに、ごめんね。ほんとうに。ごめん。ううん。ヒロちゃんは優しいから、絶対そういうって、わかってた。でも、うん。うん。ううん。そんなことない。あたしはヒロちゃんのことが好き。ちゃんと、好き。ちゃんと好きだから、好きだから、別れようって、そう、言ってるの。あたし、馬鹿だから、なんにもわからないけど、でも、このままじゃ、絶対、ヒロちゃんを不幸にしちゃうから、だから、うん、ほんとに、ごめんね。ごめんね。うん。うん。あたしね、勉強するの。うん。馬鹿だから、みんなに負けないくらい、いっぱい、いっぱい、勉強するの。そして、きちんと、恋について、勉強して、脳みそのことも勉強して、もし、ね。もしもだよ、あたしが大人になって、今の恋愛感情の薬を全部取って、それでも、それでもまだ、あたしが、その時のあたしが、ヒロちゃんのことを、好きでいられたら、その時は、もう一度、告白、していいかな。ううん。待っててなんて言わない。他の人を好きになっちゃ駄目なんて言わない。ヒロちゃんは、幸せになれるひとだから、あたしはその邪魔をできないから、でも、もし、もしだよ、ヒロちゃんがその時、たまたま他に好きな人がいなくて、たまたまあたしのことをまだ好きでいてくれて、きちんとあたしがヒロちゃんのことを好きなままでいたら、その時は、もう一回、つきあってくれますか。うん。うん。ううん。うん。大丈夫。泣いてないよ。大丈夫。あたし、頑張るから。絶対頑張るから。今よりも何百倍も、ヒロちゃんのことを好きになってみせるから、うん。だから、うん。そのときまで、お別れしよう。ううん、大丈夫、大丈夫だよ、だって、ほら、あたしは、のうみそのびょうきだから。

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