16 エピローグ

 翌朝、ヘルシャフト一行はバルガイア大陸に戻る為、港へとやって来た。そしてグランドを始めとした大勢のグランドールの民も、見送りのため港に集まっていた。


 グランドとヘルシャフトは握手を交わした。


「本当にヘルシャフト殿には助けられた。お礼に兵を貸したいのは山々なのだが……サルラの残党との戦いもあるので、何とも。ミルドと結託しているとなると、これも厄介じゃ。まったく力不足で情けないのじゃが……」


 本当に申し訳なさそうな顔で、グランドは目を伏せた。


「恩義を感じない不実な奴と思われよう。しかし──」


 グランドの言葉を遮って、ヘルシャフトは言った。


「これは妙なことを。兵なら、もう借りている」


「なに? いや、そんな覚えは──」


 グランドは首をひねった。


 ヘルシャフトは、ちらりと遠くに控える四人の姿を振り向いた。それは自分が最も信頼する部下、ヘルゼクターたちの姿だ。


「あんたの息子をな」


「……!」


 グランドは不意打ちを食らったように、驚きに目を見開いた。


 グラシャは胡散臭そうな目で、グランドたちを睨んでいた。グランドも、そんな息子の姿を見つめた。


 ヘルシャフトはグラシャを見つめたまま、グランドに言った。


「あれは万の兵にも匹敵する」


「……な」


 グランドは驚いてヘルシャフトに視線を戻す。


「ヘルランダーの魔獣軍団の軍団長をまかせられるのは、あいつしかいない。グランド殿には申し訳ないが、いまあんたの息子を返すわけにはいかんのだ。この俺と、ヘルランディアには、グラシャがどうしても必要だ」


 しばらく呆然とした後で、グランドは苦笑いを浮かべた。


「いささか評価が過大すぎますな。奴にそんな大仕事……ご期待には応えられないと、あらかじめ断っておきたいところですが──」


 しかし、その瞳は涙で潤んでいる。その目を隠すように、グランドは頭を下げた。


「あんな奴ですが、宜しくお願いします」


 ヘルシャフトはきびすを返し、船の前で待っているヘルゼクターの許へ向かった。


「待たせたな」


 フォルネウスが抗議するようにヘルシャフトの前に躍り出た。


「もー今回、フォルネウスはつまらなかったんだもん、って仲間はずれにされちゃったことにぷんぷんなんだもん!」


 フォルネウスは白くてぷよぷよしたほっぺたを、齧歯類のようにふくらませた。そんなフォルネウスを落ち着かせるように、サタナキアは優しく頭を撫でてやった。


「仕方がないでしょ? フォルネウスのセイクリッドでは、敵味方まとめて吹き飛ばしちゃうんだから」


「ふーんだ」


「でも、グランドールでは、いっぱい食事が出来ましたよね?」


「うん……ごはんは、美味しかったけど」


「フォルネウスが一番沢山食べてましたね。いいなー」


「……えへ」


 サタナキアが何とか慰めようと頑張っている。


「なあ、王様……」


「どうした? グラシャ」


 グラシャが不機嫌そうな、そして不安そうな顔で見上げていた。


「親父と……何を話してたんだよ」


「兵の貸し借りの話だ」


「ウソつけ! 何か、オレのこと話してたろ!? 何だよ? 何喋ってたんだよ!?」


「出航の時間だ。行くぞ」


 ヘルシャフトはグラシャの横を抜け、船のタラップに足をかけた。


「おい! 王様!」


 ヘルシャフトは振り向いた。


「お前が、親父似だと話していたのだ」


「なっ──」


 口を開けたまま固まったグラシャの横を、アドラとサタナキア、フォルネウスが追い越して船に乗り込んでゆく。


「ちょ、ちょっと待てよ! 王様! あんなクソ親父とどこが似てるってんだよ!」


 サタナキアが船室に入ろうとして、グラシャの方を振り返った。


「早く乗らないと置いてゆきますよ。そんなに実家が恋しいのですか?」


「ば……」


 グラシャは真っ赤になって、タラップを飛び越えて船に乗り込んだ。


「んなわけあっか! ざけんなサタナキア! てめえ!」


「船室で暴れるな! 駄犬!」


 アドラの叱責が響き、まるでそれを合図にしたように船がゆっくり動き出した。


 ヘルシャフトはソファに座り、窓から見える灰色の海原を見つめていた。


 結局のところ、時間と労力をそれなりに払ったものの、兵を集めることは出来なかった。


 しかし、ヘルシャフト──堂巡の胸には、妙な満足感があった。


 ──次は、アドラと出会った場所にでも行ってみるかな?


 堂巡はバルガイア大陸がある方向を見つめ、そう心の中で呟いた。


               了

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エクスタス・オンライン 第三巻追加エピソード(グラシャ篇)『魔獣の王国』 久慈マサムネ @kuji_masamune

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