第四章 若き棟梁の戦い

12 選択

 グランドの屋敷では会議が開かれていた。ヘルシャフトがグランドと面会した部屋に、十数名の重鎮と、数名の部下が集まっている。だがグランドの姿はない。代わりに、グランドがいつも座っていた椅子には、グラシャが座っていた。


 グラシャは渋い顔で机に彫られた地図を睨み付けた。


「すると何か? ミルドが国境に兵を集めてるってのか」


「そうみたいなんだにゃ。国境に近い村から報告が来てるにゃ」


 ルーニャが真剣な顔で手に持った紙を広げた。それはつい数時間前に、伝令が届けた文書だった。居並ぶグランドールの幹部たちが、腕を組んで唸る。


「どうしますか若? わしは一応、兵を出すべきだと思いますが……」


「そうじゃな。奴らが攻めてくるにせよ、しないにせよ、我らが気付き対応したところを見せねば」


「いや、しかしその隙にサルラにつけ込まれるかも知れぬぞ?」


「しかしミルドが本気なら、国境近くの村が三つは奪われるぞ! そんなことが許してたまるものか!」


 会議は急に熱を帯び、大きな声が飛び交った。だが、ミルドへそれなりの軍勢を出すという声が圧倒的に多い。一通り怒鳴り合いが終わると、全員がグラシャの方を向いた。


「若! いかがなされます!?」


「わしらは若の決断に従う!」


「ご決断を!」


 グラシャに焦りの感情が湧く。食いしばった牙が、ぎりっと音を立てる。


 ──親父。


 グラシャは椅子から立ち上がると、全員を見渡した。


「おめぇらの言い分は分かった。ミルドに──」


 激しい音を立てて、扉が開かれた。


 会議の最中は、出席者以外は立ち入り禁止になっている。一体誰だと文句を言おうとして、全員が口を開けたまま固まった。


「会議中に失礼する」


 身長二メートル三十センチの黒い鎧。そして背後に控える三人の部下が、そこにいた。


 グラシャが信じられないものを見るような顔で呟いた。


「王様、お前ら……どうして」


「耳寄りな情報を手に入れたのでな。是非ともグランドールの頭領に聞かせたくて、やって来た」


 ごくりと喉を鳴らしてグラシャは言った。


「──聞かせてくれ。今は、オレが頭領だ」

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