11 調教

 魔王ヘルシャフト──そしてその周りには、アドラ、サタナキア、フォルネウスの三人が控えている。


「な……なんで……もう帰ったはずじゃ……」


 シルヴァニアの声が震え、目が泳ぐ。


「こんな遅くにどこへ出掛けていた?」


 淡々と尋ねるヘルシャフトの声が恐ろしい。シルヴァニアは必死に冷静さを取り戻そうとするが、体が震えて止まらない。


「わ、私は……町の、調味料を、買いに……」


「それにしては随分かかっていたな」


「わ、わたし……ほ、星を見る、のが……」


 アドラがタキシードの内ポケットから懐中時計を取り出し、ちらりと視線を移す。


「私が見つけた小屋までの往復とするなら、丁度良い時間でしょう」


「そうか」


「──……!!!?」


 シルヴァニアの額に冷や汗が浮かぶ。


 何で? どうして分かったの? そんな疑問が頭の中をぐるぐる回る。


「森の中にあった小屋は、見張るべき対象が何もない場所にあった。見通しも悪く、姿を隠すことだけを考えているもののようだ。となれば、何らかの中継場所。グランドールの内側にもぐり込ませたスパイからの情報を受け取る中継所ではないかと考えた」


 シルヴァニアはじりっと後ずさりをした。


「俺たちは屋敷を出た後、誰が外へ抜け出すのかを見張っていた。あの小屋にいた連中の話では、俺が邪魔だったらしいからな。恐らくグランド殿に毒を盛ったことが成功したことと併せて報告に走る奴がいるはず。そう思っていたら、お前が一番初めに出て行った。確かに買い物はしたが、そのまま姿を消した」


「キングのご慧眼には感服致します」


「本当に素晴らしいですね、ヘルシャフト様は」


「ヘル様すごーい♪」


 緊張感の欠片もない様子で、ヘルシャフトを褒めそやした。


「ふふふ、よせよせ。大したことではない」


 ヘルシャフトも呑気な態度で、部下たちに手を振っている。今この瞬間、誰もシルヴァニアのことを見ていなかった。


 シルヴァニアは後ろ手に把手を掴んだ。


 この隙を逃したら、もはや助かる術はない。


 身をひるがえすと同時に扉を開け、外へ飛び出そうとした。


 床を蹴って飛び出そうとした足が止まる。


 顔の前に、赤と白銀、二本の刃が待ち構えていた。


「え……」


 よそ見をして歓談をしていたはずの、アドラとサタナキアがいつの間にかシルヴァニアの両脇に立っていた。しかもいつ抜いたのか、剣をシルヴァニアの前に突き出している。


 あのまま脇目もふらずに飛び出していたら……。


 シルヴァニアの喉がごくりと鳴った。


 自分に剣を突き付けているダークエルフが、優しい声で囁いた。


「まだヘルシャフト様のお話の途中ですよ。どこへ行こうというのです?」


 シルヴァニアはもつれそうな舌で辛うじて言った。


「あ……た、たすけて……」


 吸血鬼の眼鏡が冷たく光る。


「それは貴様次第だ。お前の知っていることをキングに洗いざらい報告するのだ」


「は、はい……それは、もう……」


 必死にシルヴァニアは頭を働かせた。何とか嘘の情報を渡して、グリズラのサルラ軍が有利な状況を作るのだ。自分は捕虜となって助けを待つ。仲間がこいつらを倒しやすくするにはどうしたらいい?


「わ、わたしは……ミルド国のスパイで……」


 アドラが眉を寄せた。


「なに? サルラではないのか?」


「は、はい。サルラ側の国境から進軍している最中で──」


「待て」


 ヘルシャフトがシルヴァニアの言葉を止めた。


「お前たちは外へ出ていろ。こいつの尋問は俺一人でやる」


 三人は素直に部屋を出て行った。二人きりになると、ヘルシャフトは空中で指先を動かした。


「シルヴァニア、お前は単身敵地に乗り込むような、豪胆にして強靱な精神を持つ奴だ。そんなお前が、そう簡単に真実を話すとは思えん。だから俺の魔法で、自ら真実を言いたくなるようにしてやろう」


「な……なにをする、つもり、なの……」


 ヘルシャフトの手の平がピンク色に光った。


「『エクスタス』!!」


 その手の平が、シルヴァニアの下腹部に押し当てられた。


「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああ!」


 細身の体が、大きくのけぞった。


「いや……なにぃ……これぇ……」


 シルヴァニアが頬を染めて、体をくねらせる。その素肌にうっすら汗が浮かび、あえぐような熱い息と共に、ピンク色の舌をちらりと覗かせた。


「体が、熱くて……あん♥……な、何なの……これぇ……?」


 ヘルシャフトの目が怪しく光った。


「この俺にだけ許されし禁断の魔法『エクスタス』」


「え、えく……その、魔法で……な、何を、する……うっ♥つもり」


「知れたこと。お前を尋問して真実を白状させるには時間がかかる。だから手っ取り早く、お前の体に訊いてやるのだ」


 ヘルシャフトはシルヴァニアの体を軽々と抱き上げると、宙へ放り投げた。


「──きゃ!?」


 ベッドの上に落ちて、シルヴァニアの体が飛び跳ねる。ヘルシャフトも覆い被さるようにして、ベッドに上がった。そして大きな手でシルヴァニアの胸を掴む。


「はぁあああああんんんんんっ!!♥♥♥♥♥」


 シルヴァニアの体が細かく痙攣し、だらしなく開いた口から舌が突き出される。


「あ……♥ああ……♥♥……そんな……たった、これだけで、い、いっ……♥♥♥」


 続けてヘルシャフトはシルヴァニアの襟元を掴むと、服を一気に引き裂いた。


「!? やぁ……ああん♥」


 もはやシルヴァニアは叫び声を上げることが出来なかった。服を破られることすら、快感に感じてしまっている。肌が直接空気にさらされることが、さらに官能を煽っていた。


 しかし、シルヴァニアの瞳が淫猥の色に染まってゆくにつれ、ヘルシャフトの手の動きは鈍くなる。


「え……?」


 そしてついに、ヘルシャフトはシルヴァニアから体を離した。


「ど……どうして?」


「続きをして欲しければ、俺に服従しろ」


 シルヴァニアは悔しそうな貌で唇を噛んだ。


「べ、べつに……あなたになんか、頼まない……」


 シルヴァニアは自らの手で、疼く体を慰めようとした。しかし赤く染まった貌は、羞恥と屈辱に歪んでいる。触れてはならないものに触れるかのように、罪悪感をまとわせた指先が、蜜を滴らせている敏感な部分へ向かう。


 その細い手首をヘルシャフトが掴んだ。


「あうっ!」


 ヘルシャフトは片手でシルヴァニアの両手首を掴むと、ベッドから引き起こした。


「自分で触ることは許さん」


 シルヴァニアは両腕を吊されたような形で、床の上に立たされる。その美しい体を隠すものは何もない。ヘルシャフトの力は強く、腕をぴくりとも動かすことが出来なかった。


「う……うあ♥ぁ……はぁん♥」


 シルヴァニアの体が震えた。恐怖と欲望が争っている。もはや自分の理性と意志ではどうにもならないほどの高ぶりが、お腹の下に渦巻いている。必死になって太ももをすり合わせるが、そんなものでは到底満足出来ない。救いを求めるように、尻尾を激しく動かした。


 黄色いシルヴァニアの瞳から、涙が溢れ出す。


「お願い……もう我慢ができないの……このままじゃヘンになっちゃう……ああっ、何とかして、お願い!」


 胸の先端は痛々しい程に尖り、床には足の間から滴る蜜で水たまりが出来てゆく。


「ならば俺に服従するか?」


「……し、します」


 ヘルシャフトはシルヴァニアの腕を放した。


「ならば証しを立てよ」


 シルヴァニアは膝を折り、床に正座をすると、裸のまま手を突き頭を深く下げる。


「こ……この時より、私はヘルシャフト様の……も、もの♥です。で、ですから……」


 上気した顔を上げ、涙に濡れた瞳を新たな主人に向けた。


「お、お願いします!」


「良かろう」


 シルヴァニアは嬉しそうな顔で、ヘルシャフトの体にすがり付く。ヘルシャフトはシルヴァニアの華奢な体を抱き、その背筋に指をすべらせる。


「あ──あ、ああ♥……あ♥」


 シルヴァニアは顎を上げて首を伸ばし、気持ちよさそうな声を出した。


「お前の雇い主は誰だ?」


「サ……今は勿論、ヘルシャフト様♥ですが……以前はサルラの、グリズラでした」


 堂巡は兜の下で微笑む。


 ──やはりな。


「ではシルヴァニア。グリズラの作戦を、貴様の知る限り、洗いざらい俺に話すのだ」


 シルヴァニアはヘルシャフトを見上げて妖艶に微笑んだ。


「はい……よろこんで♥」

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