第6話 おさない勇気



子供の頃のあたしは、少年期生になり学校に通うようになっても友達が出来たことがなかった。


人見知りで自分から誰かに話しかけるのがとても苦手でいつも御神木の木陰から同級の子供達を横目に一人遊びをしていたのだった。


「君は毎日一人で遊んでおるが友達はおらんのかな?」

その日もいつものように一人で中央広場の木陰のすみで草のかんむりを作っていると、突然声をかけられた。

ふと顔を上げると深緑のローブを着用した髭もじゃの奥につぶらな瞳を携えた長老様の一人がこちらを覗きこんでおり思わずぎょっとしてしまった。

「ぎょ!!」

「ほっほっほっ、すまんな突然驚かせてしまってのぉ。しかしお嬢ちゃんぎょっとしたからといって口でぎょっと言う必要はないじゃろ。」


穏やかな表情でそう語りかけてくる長老様はとても暖かく感じたのだが、人見知りだったあたしは両親以外とまともに喋った事がなかった為に思わず訳のわからない事を口走ってしまいそのまま押し黙ってしまっていた。

「おやおや口を動かすのは苦手かね?では別の方法で口を動かせば喋りやすくなるかね?」

と言いながら取り出したのは最長老のお屋敷の中庭の樹にしか実らないとても甘い果実だった。

「え、い、いいのですかちょうろうさま…?」

「ほほっ、効果覿面じゃな!早速喋ってくれたのぉ。遠慮することはないぞい。」

と嬉しそうに喋る長老様からその甘い果実を受け取るとそれは強く握るとそのまま潰れてしまいそうなぐらいによく熟れているのがわかった、とても甘いであろうという期待感から気づくとヨダレが舌の裏から溢れてくるのを感じるぐらいにでてきたのでそのヨダレをコクリと飲み込むとそのまま一口「グシュリ」とかじった、するととろっとした果汁と果肉が口のなかにじゅわっと広がり幸せを感じさせてくれた。


「ちょうろうしゃま!ものしゅごくおいしいでふ!!」

と口のなかいっぱいにしながら長老様に喋りかけると「そうかそうか、慌てて食べるでないぞ」とあたしが食べ終わるのをニコニコしながら見守ってくれたのだった。


「君はいつもこの御神木に寄りかかりながら一人遊びをしておるのぉ」

その甘い果実を食べ終わり残った大きめの種を口のなかで転がしながら食べ終わった余韻に浸っていると長老様が横に腰を下ろすとそう話しかけてきた。


「うん、そうなのです…ほんとうはおともだちほしいのですけどどうしたらいいのかわからなきゅて…」

子供ながら単純な事だが甘いもので釣られたあたしはすっかり心を許していた様子で自然と言葉を発することが出来た。


「うーむそうじゃのぉ、しかしお主はいつもあそこの三人組をみておるじゃないか、仲間に入りたいのではないか??」

長老様は御神木から少し離れたところでおいかけっこをしている三人組、メレクとルムヤとアレスを指差しながら言うと図星をつかれたあたしは思わずギクリとした。

「ギクリ、で、でもあのさんにんはがっこうにはいるまえからなかがいいんでふ…そこにあたしはいれてもらえないよぉ…」

とギクリとしながらも答えた言葉で甘い果実の美味しさから忘れていた事を思い出してまたうつ向いてしまった。


「ほっほっほ、なるほどのぉ、ならばお主に良いことを教えて差し上げようかのぉ?」

ともじゃもじゃと蓄えたひげを片手で触りながら問いかけてきた。

「え…な、なんでしょうかちょうろうしゃま…?いいことおしえてくだしゃい!」

「うむ良し、ならばそなたに友達作りの極意を伝授しようかの、それはのぉ…」

と難しい言葉を交えつつ語る長老様の言葉の意味はよくわからなかったが「しょ、しょれはのぉ…?」とあたしは言葉を続けた。


「それはのぉ、ほんの少しの勇気じゃよ!」

ババーン!と効果音がでそうな声とどや顔で長老様は答えた。

「ゆ、ゆうきですか!で、でもそのゆうきがでないのですぅ…」

そんな勇気があればとっくに百人友達できてますよと言わんばかりにあたしが更に落胆していると長老様は続けた。

「ほっほっほ、そう言うと思っての、実は皆には内緒にしてあるのだがワシには魔法が使えてのぉ、魔法といっても言語物理学のような魔法ではないぞ?何を隠そう先ほど食べた甘い甘い果実もワシの魔法であそこまで甘くしたのじゃよ!」

これまたバババーンと効果音がでそうな顔でそう言い切るとローブのポケットからまた同じ果実を取り出すとあたしに手渡してきた。


それを受け取るとさっきの甘い果実とは違い少し硬い様子だった。

困惑した顔をしていると長老様が「ちょいとかじってみるのじゃ」と促してきたので口に入っていた種をぶぺっと吐き出しその果実を一口かじってみる。

「シャクリ」と音をたてるその果実は先ほど食べた果実とは違い甘いのだが少し酸味のある果実だった。

「ふぇっ…?じぇ、じぇんじぇんあじがちがうよ!なんでですかちょうろうしゃま?これがまほうなのでふか…??」

と思わずあたしは長老様に問いかけた。


「ほっほっほ、そうじゃよこれがワシの魔法じゃよ!先ほどの甘い果実もちょっと前まではその果実と同じ味だったのじゃがワシの魔法のてにかかれば少し待つだけで甘い甘い果実になるのじゃよ!しかものぉ、なんとただ甘いだけではなく先ほど食べた甘い果実には勇気が湧く魔法もかけておいたのじゃよ。どうじゃ?なにか内側から湧き起こってくる何かを感じぬかね??」

そう言われてみると不思議なことに何か内側から暖かい感情が湧いてきている気がしてきたのだった。


「うん…ちょうろうしゃま!なんだかいまならみんなにこえをかけられるきがしまふ!」

そう言いながら立ち上がると両手の拳を胸の前に掲げあたしは長老様にたぎる気持ちを抑えられない様子で感情を伝えると、そのまま長老様は「そうじゃろそうじゃろ」と言いながらあたしの背中に手を添えて三人の所に向かうように微笑みながら促してくれた。


あたしは無言で頷くと手にいれた勇気を胸に三人に話しかけることができ、無事にそこから初めての友達を作ることに成功したのであった。


その後も悩み事や相談事がある度にその長老様に会いに行き、今でも尊敬する大人の一人となっている。


後日一度だけあの果実に何か液体のようなものを霧吹きで振りかけているのを目撃したことがあり、やはりあの果実を甘く変えたり勇気を込められる魔法というのは嘘だったのかもしれないと今では思っている。

しかしあの時あたしに勇気をくれたのは紛れもなくあの長老様だったのだ、たとえ不思議な魔法が使えなくてもあたしにとっては立派な魔法使いで有ることにはかわりないのだ。

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