記者と政治家3.5 ―Another Side―

「どこのマスコミだ。記者か? 局の人間か?」

 室内には二人の影。

 天井の四隅に飾られたランタンが部屋を怪しく照らす。開いた窓から吹く風で踊るように影が揺らめいている。

 壁一面には書棚が並べられ、圧迫感を与えるには十分すぎるほどに分厚い本が数多く敷き詰められてあった。部屋の中央には剛健、という言葉が良く似合う重々しい机が鎮座しており、そこにはたっぷりと髭を蓄えた老人が座っていた。

 苛立ち混じりにため息を吐き、机に肘を置いて向かいに立ち竦む若い男に威厳と畏怖を刷り込ませるように睨みつけている。

「申し訳ありません。まだ調査中でありまして、詳細は不明な点が多い状況であります」

「そんな瑣末な情報だけで、こちらへのこのこと戻ってきたのかね」

「いえ、あの……」

「もういい。すぐに調べあげて儂のところに持ってきなさい」

「は、かしこまりました」

 若い男は老人に深々と頭を下げると、逃げるように部屋を出ていった。

 一人になった静かな空間の中で老人――源田智和は、葉巻を一本机の中から取り出すと、口にくわえ、マッチで火をつける。燻らせた煙は天井まで昇ると、ぶつかって広がり、やがて消えた。

 煙の行く末を見届けた源田は、ゆっくりと目を閉じる。

 二十余年――。

 政治家に転身して歩んで来た月日を回顧する。その歳月が長いのか短いのか――それは源田本人しか知りえない。

 ただ源田はそれを噛みしめながら葉巻を燻らせる。

 彼が今何を思うかは、理解に及ぶことのない境地に達していることだろう。それこそが、彼をここまで邁進し、躍動してきた原動力である。今となっては総理大臣に最も近い男、と囃し立てられることも少なくないが、源田自身はそれは持って然るべきだと考えている。

「あと少しの辛抱だな」

 絞り出した声は、六十を超えた老人そのもので、どこまでも弱々しく侘しさが漂っていた。

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