第12話 親友はホモでも頼りになる

 今日の昼休みは生徒会メンバーで昼食をとることになっている。ここの学食はかなり安く、生徒の財布に優しいものがほとんどだ。


 今日はうどんにしよう。


 食券を発券し、食堂のおばちゃんに渡す。


「今年も生徒会に立候補者したんだって? 応援してるよ」


 ホホホと笑うおばさん。


「少し多めにしといたから。頑張りな」


「ありがとうございます」


 去年、生徒会長が色々と派手に動いたお陰もあって、去年の生徒会の知名度はかなり高い。


 それがこういう形に繋がるのは得した気分になれる。


「席は……」


 生徒で溢れる食堂を見渡すと、春咲が手を振っているのが見えた。


 その隣のテーブルに敷町と知らない男が座っている。何やら楽しげだ。


 と思えば、その男の肩が震えだし、何かを書いて早々と去っていった。


「素晴らしい手際だわ」


「いやー、それ程でも」


 一ノ倉の賞賛に敷町は遠慮する。


「遅いですよ、先輩」


 俺がトレンチを置いて椅子に座ると春咲はそう言った。


「悪い悪い。それより、今の男誰だ?逃げるように帰っていったけど」


「生徒会長に立候補者した一人よ。ほら」


 そう言って、一ノ倉は一枚の紙を手渡す。


 そこには『辞退届』という文字が。


 俺は酷い脅迫現場を目撃してしまったようだ。訴えられたら、俺ら普通に負けそうだな……。


「そ、そうか」


 いただきますをして伸びないうちに、うどんに箸を突っ込む。


 確かなコシにツルッとした喉越し。やっぱりうどんはこうでなくちゃな。


「今日の議題はポスターなのよ。色々案を考えてきて欲しいの」


 去年まではポスターの大きさにあまり明確な制限がなかった。しかし、去年、生徒会長がそれならとクソみたいにでかいポスターを用意して来ると、その翌日には制限が明文化されていた。


 破天荒な去年の生徒会長のエピソードの一つだ。


「ポスターか……。あまり真面目に考えて作ったことないや」


 去年はかなり適当に作ったからなあ。まあ、それで落選して、副会長に任命されたんだが。


「ポスターは一番、自身の宣伝で重要なんですから、真面目に考えてくださいよ」


「わ、わかってるよ」


 念を押す春咲に、面倒そうに折乃は答えた。


☆☆☆


「と言ってもなあ……。思いつかない……」


「お困りのようね」


 うなだれる折乃に話しかけたのは、上門だった。


「ちょっかい出すなら、あっちいけよ」


「あらあら、もうギブアップ? このままじゃ、一ノ倉さんは私の花園の一輪になっちゃうわよ?」


「わかってるよ! だから、こうして……!!」


 やられた。立場を逆転され、弱気になっていたせいだろう。負けそうだ、と自分から言ってしまった。


「私は私らしい戦い方で勝つわ。あなたのマニフェストを読ませてもらったわ」


 上門はため息をついて、続けて言う。


「つまらない。『貴方』が見えない。こんなんで私が負けるわけがない!」


 そう言って去っていった。


 今日の作戦会議は休もう。気分が悪い。


☆☆☆


 放課後、一人で帰ろうと隠れて下駄箱に向かった。


「帰るなら、誘ってくれよ」


 後方からのよく知る声に、俺は動揺を隠せなかった。


「お、俺の無断欠席を報告しないのか?」


「別に。そもそも、俺は会議の正規メンバーじゃあない」


 敷町は笑ってそう言う。


「お前には敵わないな」


「親友だろ?」


 『親友』という言葉がこれほどに心地いいのは久しぶりだった。


☆☆☆


 昨日はここの道を気持ち良く歩いていたのに、今日はこんな落ちた気分。人生何があるか分からないな。


「どうするんだ?」


 主語も目的語も何も無い敷町の問い。それでも理解できるのは親友だからだろうか。それとも、選挙のことで頭がいっぱいだからなのだろうか。


「どうしようかね。もう何がしたいか分からないよ」


「そうだなー。お前はなんとなく、流れに乗って、なんとなくでやってきちゃったんだよ。何かしたいこと、お前らしい、折乃らしい、そんなことを見つければいいんだよ」


 そう言って、敷町は敷町の帰路へ別れて行った。


「深いこと言ったつもりか? あいつ」


 ひねくれが増している俺はそう言うことしか出来なかった。

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