第11話 同族は直感でわかる

「選挙対策会議、始めまーす!」


 春咲の元気な掛け声で元生徒会メンバーによる会議が始まった。


「いえーい」


「なんで敷町までいるんだよ」


「いいじゃないか。親友だろ?」


「その言葉を悪用してはいけません!」


 春咲のクラス、二年三組の教室を借りて集まったわけだが、何故か敷町がついてきた。


「まあ、いいじゃない。敷町君にも働いてもらえばいいのよ」


「一ノ倉さんがそう言うなら、それでいいけど……」


「任せておけ!」


 不安しかない。


「まず、現状の整理をしましょ。我々が今、何の危機にさられているか」


「えーと、折乃先輩の不甲斐なさ故にアイドルにされようとしている、こと?」


「正解ね」


 一ノ倉は眼鏡をかけ、黒板に要点を書き込んでいく。


「不甲斐なさは余計だろ」


「私達が完璧な勝利を得るには折乃君の勝利が必須なわけね」


「それを今から考えようというわけですね!」


「というわけで、何か案を出してくれる?」


「票を集めないといけないな」


 敷町はそう言い、頭の後ろに手を置いて、背もたれに寄りかかる。


「と言ってもなあ。朝の挨拶とかの活動ぐらいしか思いつかないな」


「私の作戦使います?先輩なら許しますよ?」


「考えるだけで鳥肌がたつわ!」


 あれはもっとルックスのいい、男らしい顔なら、いいかもしれないが、俺には無理だ。


「いい作戦を思いついたわ」


 一ノ倉はそう言って、中指で眼鏡を持ち上げる。


「何か思いついたの、一ノ倉さん?」


「やっぱり票の分散はよくないと思うのよ」


「そうだけど……」


「敷町君、男に迫って、立候補を辞退させなさい。できるかしら」


 同族はすぐ分かるのだろうか、ホモだってバレてる。


「ああ、やってみせるぜ」


 生徒会長に立候補した人数は七人。その内の男子は俺を含めけい五人。たしかに票の集約はかなり期待できそうだ。


「でも、これじゃあ、上門さんの票数を育てることになるんじゃないの?」


 一ノ倉は一覧の上門のマニフェストを指で指して言う。


「大丈夫よ。こんな、男のためのマニフェストに賛同しないで、他の男子に投票する奴なんて、ホモかゲイか変わり者ぐらいだわ」


 酷い偏見だ。


「あとはどうします?これじゃあ、折乃先輩の票数増やしただけで、上門さんの票は動きませんよ」


 唯一まともな意見をする春咲。


「そうね、経験者の元生徒会メンバーが手を組んだとか言っとけば、多分大丈夫よ」


 適当!一番まともな作戦が適当!


「いい感じに時間も来たことだし、今日はここまでね。敷町君、明日から頼むわね」


「おうよ!」


「一緒に帰りましょ、先輩」


 ポニーテールを揺らしながら駆け寄る春咲。


「一ノ倉さんもどう?」


「じゃあ、一緒に帰ろうかしら」


 そう言って、眼鏡を外し、鞄にケースを入れる。


「モテモテだな、折乃」


 敷町はニヤニヤと笑う。


「なんでそうなる」


☆☆☆


 カラスが鳴き、橙色に染まる空は『放課後』というのをよく感じさせる。


「去年の生徒会は楽しかったですね」


「そうね」


 回想する春咲に一ノ倉はそう返した。


「折乃先輩がいて、一ノ倉先輩がいて、今年の生徒会もそうしたい!だから、先輩方に頑張ってもらわないと!」


 笑顔でそう語る春咲はいじらしいほどに可愛らしく、折乃の目には写った。


「そうだな!最後の一年だ。どうせなら楽しい方が良い!そうだろ?春咲、一ノ倉さん?」


「そうですよ!」


「え、ええ。そうね」


「俺も頑張るぜ!」


「親友、期待してるぜ!」


「ああ!」


「ようし、頑張りますよー!」


 春咲がそう言い、えいえいおーの掛け声で皆別々の帰路に別れて行った。


 俺と敷町、春咲と一ノ倉さんが同じ方向だ。


「折乃君」


 後方からの一ノ倉さんの声に振り返る。


「今の折乃君……」


 言いかけた言葉を途中でやめる一ノ倉。


「どうかした?一ノ倉さん」


「いえ、選挙、頑張りましょうね」


 そう言った、一ノ倉さんの頬は少し赤く、魅入りそうになってしまう。


「はい!じゃあ、また明日!」


 そう言って、敷町の方へ走る。


 今日は少し、一ノ倉さんと仲良くなれた、親密になれたと思えた。

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