scene:01 査問会(その3)


『査問会の落としどころが見えたぞ』


 その念話をどれほど待ち望んでいたことか。

 エリザは飛びつくように念話を返す。


『本当!? ――わたしはどうすれば』

『まあ落ち着け』


 念話の向こうでマリナが苦笑する。


『そもそもなエリザ、このままお前が何もしなくても、恐らく

「え!?」


 思わず、念話だけでなく口から声が漏れてしまった。


 隣で告発内容を語っていたエッドフォード伯が、げんそうな表情でエリザを見る。エリザは「何でもありません、どうぞ続けてください」とほほむ。

 あからさまに怪しんでいるエッドフォード伯を無視して、エリザはマリナに問う。


『――どういう事?』

『さあ、細かいことまではオレには分かんねえよ。――けどな、あの王様がエリザとクソ野郎の親父エツドフォード伯のどちらも罪に問う気が無いのは確かだ』


 ますます意味が分からない。

 その感情が念話を伝わり、マリナの苦笑を引き出した。

 マリナは『すまん、説明が足りなかった』と言って、自身の考えを披露する。それはマリナがシャルル七世を観察して得た結論。その推測を聞くうちに、エリザにもマリナが考える査問会の落としどころが見えてきた。


 確かにそれならば、エリザもエッドフォード伯も罪に問われない。

 少なくともシャルル七世はそうしようと考えている事になる。


 もちろん、この推測には『マリナの直感と洞察が正しければ』という但し書きが付く。だが、このマリナという異世界ファンタジアの少女は人の好意には鈍感なくせに、悪意や作為にはやたらと敏感だ。それを思えば、あながち間違っていないのではないだろうか。


 そこまで考えて、エリザは査問会で果たすべき自身の役割に気づいた。


『待って、マリナさん。――それならわたしは、』

『察しが良いなエリザ。すがはオレのご主人様だ』


 マリナは心底うんざりとした感情を念話に乗せて告げる。


『どうやらオレ達は、どうにかしてクソ野郎の親父エツドフォード伯を助けなくちゃなんねえらしい』



    ◆ ◆ ◆ ◆



「――つまり、炎槌騎士団長リチャード・ラウンディア・エッドフォードは帝国の魔の手から王国を守るべく、ぜんとした対応をとったのです」


 ヘンリー・ワルサウ・エッドフォードは、そうして隣に立つ少女の告発を終えた。


 だが、ヘンリーの胸中にあるのは『陥れてやった』という達成感ではなく、じりじりと燃え続ける焦燥と怒りである。

 正直言って、これほど腹立たしい事はない。


 本当なら今頃、炎槌騎士団がバラスタイン平原に駐屯する帝国軍を蹴散らし、対帝国のきようとうを築いているはずだったのだ。そうなれば、一げつたないうちにバラスタイン平原のみならず、その先のコンスタンティノポリス要塞までもがエッドフォード家の手中に収まっていたであろう。

 ――今となってはむなしい夢想だが、エッドフォード家の借財を一掃する機会を永遠に逃したと思うと、笑い飛ばす事もできない。金を借りた王家と同一派閥内の貴族には、向こう十年頭が上がらないだろう。

 くわえて炎槌騎士団がいるからこそまかとおっていた無理が今後は通らなくなると考えれば、エッドフォード家はこれまで以上に厳しい生活を強いられる事になる。


 それもこれも、リチャードがこんな小娘に負けたからだ。

 やつが無様に負けたりしなければ、俺はこんな所で小娘を告発したりする必要も――。


 と、そこでヘンリーは思い出す。


 そもそも、リチャードはチェルノート襲撃を正当化するため、先に王政府へ公女エリザベートのスパイ疑惑を報告していたのではなかったか。あれが届いているのであれば、こんな査問会を開くわけがない。


 まさか――

 ヘンリーはある疑念を抱いて「ところで陛下」と、切り出す。


「今お話したことは全て、事前にリチャードが王政府へ届けたと聞いておりますが」


 そう指摘されたシャルル七世は、途端にしどろもどろになって、


「――え? あ、えーっと…………ごめん、ガンドルプス?」

「陛下、昨晩届けられた告発文です。お読みになったはずでは?」

「え、本当? ごめん、どんな内容だったっけ?」

「…………君、お持ちしろ」


 宮宰があきれた様子でこのへいに指示を出す。

 ヘラヘラと「ご、ごめんね。すぐ読むから」と謝るシャルル七世に、ヘンリーは「いえ構いません」と通り一遍の返答を返した。


 このクソバカ王め。

 ヘンリーは内心でそう吐き捨てる。


 いつもいつも風呂にばかり入っているせいで、脳みそまでふやけてしまったに違いない。大した能力も無いが、貴族に従順だからと王位に立ててやっているのに、肝心な所で役に立たない男だ。思えば休戦協定も俺が出兵して宮廷を留守にした途端、どっかの馬鹿に唆されて結んでしまった。馬鹿なら馬鹿なりに何もせず、ずっと風呂にでも入っていろというのだ。


 だが、これでこの査問会も終わりだ。

 リチャードが用意した偽の証拠と告発文書を見れば、流石さすがのバカ王でも公女を裁くことを決意するだろう。

 ヘンリーは一仕事を終えたとばかりに、小さく息を吐く。


 そしてようやく戻ってきたこのへいが、リチャードが届けさせたらしい告発文書を宮宰のガンドルプスへ渡し、ガンドルプスはその文書が正しいものか確認してからシャルル七世へと差し出した。


 そうしてようやく告発文書を読んだシャルル七世は、何故なぜか首をかしげる。


「んーっと……。これ、どういうことかな」


 この馬鹿、文字も読めないのか。

 ヘンリーはその内心を隠し、ごくへいたんな口調で「どうされましたか?」と問いかける。

 すると、シャルル七世は「いやさ」と眉をひそめて、


「この内容、エッドフォード伯の言ってることと違うんだよ」

「……なんですと?」


 僅かに嫌な予感がする。

 ヘンリーは文書の内容を確認させろと要求すべきか迷う。

 だがその一瞬のうちに、シャルル七世はあっさり告発文書の内容を明かしてしまった。


って書いてある」


 途端、議場が騒がしくなる。

 それはそうだろう。

 なにしろ今、シャルル七世が口にした内容は


『エッドフォード家が戦争を再開するために、バラスタイン辺境伯を陥れようとした』


 と言ったに等しい。

 ヘンリーからすれば、一瞬にして戦局をひっくり返されたようなものだ。


 どういう事だ!?

 一体、俺は何をされた!?

 ヘンリーは平静を装うのも忘れて、シャルル七世へ食ってかかる。


「そ、その報告は誰がしたものでしょうか?」

「えっとね。……アレクサンドル・って書いてある。確かエッドフォード伯が紹介してくれた人だよね? 辺境伯の領地運営の手伝いにって」


 ――エッジリア!!

 公女の様子を探らせていた平民上がりかッ!!


 あの男は口封じにリチャードが始末したと言っていたが、恐らく同じく官僚の誰かを抱き込んで、自身が死んだ場合に告発文書が宮廷に届くよう仕組んでいたのだろう。


 リチャードめ、どうしてそう詰めが甘いのだ。

 ヘンリーは証言台の下で拳を握り締めた。


「ふむ……」


 わざとらしいつぶやきが、ヘンリーの耳に届く。

 見ればカスティージャ伯が、いやらしい笑みを浮かべていた。

 目が合った途端、獲物の前で舌なめずりする石眼蛇バジリスクのような声で問いかけてくる。


「もしやエッドフォード伯は、その何者かについてご存じなのではないかな?」

「……おつしやる意味がよく分からないが」

「ふ――口にしてもよろしいので?」

「ちょ、ちょっと待って待って! けんは駄目だよ、二人とも」


 壇上のシャルル七世が、けんせいし合う二人の貴族を慌てて止める。


「エッドフォード伯がそんなことするわけないじゃないか。それに『誰か』って書いてあるだけで――」

「しかしながら陛下。それは告発文書なのでしょう? そしてエッドフォード伯の手の者が告発したという事は、自然――誰を告発したのかも明らかというもの」

「でも証拠も何も無いし、」

「証拠など、。物証よりも、それを成す理由があった者を探すべきでは?」

「でも……」


 と、


「陛下」


 シャルル七世とカスティージャ伯の会話に割り込む声があった。


 その声は、ヘンリーの隣から聞こえた。

 それまで沈黙を守っていた公女が、突然、王を呼んだのだ。


「わたくしも、申し上げるべき事柄がございます」

「えっと、なんだい?」

「わたくしは炎槌騎士団の攻撃の前日に、魔獣による襲撃を受けました」

「――なんと、」


 カスティージャ伯がわざとらしく驚いてみせる。


「そのは魔獣まで用意して、辺境伯を殺そうとしていたのか。これはこれは念入りなことで――」

何故なぜ、私を見る」

「……いい加減シラを切るのはやめたらどうですか? 見苦しいですぞ」

「お待ちください、報告はまだ終わっておりません」


 カスティージャ伯のなじるような声を止めたのは、やはり公女だった。

 この小娘、何を考えている。ヘンリーが疑うような視線を向けても、公女は意に介さずに壇上を見続けている。


「魔獣は魔導式によって、遠方から操られているようでした。その証拠に、その魔獣は城へ忍び込む際に〔音響制御式〕を使っております。〔思考制御〕や〔感覚共有式〕も使っていたかどうかは、城に残る遺骸を調べて頂ければ分かるかと」

「それがどうしたのだ? 魔獣使いビーストテイマーくらい誰だって用意できるだろう。魔獣を介して魔導式を使ったというなら、むしろ優秀な騎士団を持つ貴族が怪しいということにならないかね?」


 敵対派閥の首領を陥れるチャンスを邪魔されたカスティージャ伯が、いらたしげに公女へ吐き捨てる。

 だが、公女はカスティージャ伯を見据えると、逆に問い返した。


「城塞用の魔導干渉域が展開されていても、ですか?」

「――なに?」


 カスティージャ伯の顔が一瞬で険しくなる。


 魔導干渉域を展開している城で魔導式を自由に扱える魔導士など、汎人種ヒユーマニーには存在しない。魔導干渉域による阻害をかわして式を成立させるには、秒単位で式の構造を組み替え続ける必要があるからだ。汎人種ヒユーマニーが持つ魔導神経では到底不可能。


 それが可能なほど優れた魔導神経を持っているのは――


「まさか、長命人種エルフか!?」

「そう、わたしは考えています」


 公女は、カスティージャ伯の言葉を肯定する。


「どういう意図があったのかまでは分かりませんが、長命人種エルフ国家のアルフヘイム連邦にしか不可能というのは確かです。それに、先ほどの告発文書の通り、王国と帝国の戦争を望んでいる何者かがいるとしたら、それは両国をうとましく思う第三国である可能性が高いのではありませんか?」

「それは、そうだが――」


 カスティージャ伯はまだヘンリーを追及することを諦められないらしかった。

 だが未練たらしく言葉の接ぎ穂を探しているカスティージャ伯に、公女はほほんでみせる。


「まさかこの王国に、他国との戦争を望む者がいるはずありませんし」

「――そうだな。バラスタイン辺境伯の言う通りだ」


 カスティージャ伯が、しぶしぶといった体で認める。

 下手な事を言って言質を取られる前に引き下がることにしたのだろう。

 王国に戦争を望む者がいるとなれば、その誰かの名を挙げる必要がある。だが確たる証拠が無ければ反撃されかねない。今までヘンリーを責め立てていたのは、エッジリアの告発文書があったからだ。それも公女の発言によって『アルフへイム連邦を告発したもの』に変えられてしまった。


 だがヘンリーには訳が分からない。

 何故なぜ、この公女は俺を助けるようなをしたのだ?

 この小娘には、俺やリチャードが全てを仕組んだと分かっているはずなのに。


 ヘンリーは隣の証言台に立つ少女の表情から真意を読み取ろうとするが、どう見ても緊張しきった小娘にしか見えなかった。


「結論は出たようですな」


 宮宰のガンドルプスが全員が口を閉ざしたのを確認して、シャルル七世の方へ体を向ける。


「それでは陛下――ご裁可をお願いします」

「ええっと、ガンドルプス?」


 問われたシャルル七世は、そばに立つ宮宰に助けを求めるように言った。


「――――結局、誰が悪いやつだったの?」


 シャルル七世の気の抜けた問いかけが、査問会の終わりの合図だった。



    ◆ ◆ ◆ ◆



 シャルル七世は「じゃ、僕はお風呂に行く約束があるから」と言うやいなや、壇上から去ってしまった。そして宮宰のガンドルプスが一礼し姿を消すと、やれやれと言った体で貴族達も立ち上がりぞろぞろと謁見室から出て行ってしまう。エリザの隣にいたエッドフォード伯も、一瞬でも同じ場所に居たくないとで言うようにさっさと帰ってしまった。


『よくやった、エリザ』


 マリナからねぎらうような念話が届く。

 そこには感嘆の意思も混じっていた。


『オレじゃあのうそは思いつけなかった。それにあのカスティージャとかにも負けずに言い返してたし、正直れ直したぞ』

『――まあ、これでも貴族ですから』


 そうエリザは格好つけてみせる。

 本当は自分でもどうして出来たのか不思議なくらいなのだ。ただ無我夢中に、言葉を紡いでいたというのが正しい。――けれど『れ直した』と言われたら、格好つけないわけにいかなかった。


 そう。

 マリナからされた相談というのは、

『エッドフォード伯の立場が悪くなった時に、どうにかしての国の誰かに責任を押しつける理屈を考えろ』

 というものだった。


 マリナの考えでは、シャルル七世はエリザの事だけでなくエッドフォード伯のことも罪に問わない形で決着をつけたいと望んでいるという事だった。

 しかも、そのために意図的に議論を誘導している、と。


 だが、シャルル七世はエリザを『辺境伯』と呼ぶ事で、エッドフォード伯の告発を引き出した。エリザを守るつもりがあるならば、シャルル七世は一度、エッドフォード伯の主張を否定するはず。何らかの反証を用意するのだろう。――だが、そうなると今度はエッドフォード伯の立場が悪くなる。


 どちらもかばうためには、どこかの誰かに責任を押しつけるしかない。


 エリザとエッドフォード伯のどちらも罪に問わないという事は、現状維持に近いものを望んでいるのだろう。となると国内の貴族の誰かをいけにえにするとは考えにくい。

 つまり他国――それも帝国以外。


 そこでエリザの口からとつに出たのが、実際には展開していなかった魔導干渉域を展開していたという嘘と、それを根拠とした『魔獣襲撃は長命人種エルフによるものだったのではないか』といううそだったのだ。


 誰もまさか、貧乏だからと言って貴族の生命線である魔導干渉域展開していなかったなどと思わない。それに魔導干渉域をかいくぐって魔導式を使えるとしたら長命人種エルフしか居ないし、長命人種エルフはその身体的特徴から国外では長く活動できないので貴族が雇っていたとも思われにくい。


 正直ギリギリまで何も思い浮かばなかったが、カスティージャ伯の「証拠など、魔導式で幾らでも消してしまえます」という言葉を聞いて魔獣使いビーストテイマーの事を思い出したのだ。


 ともあれくいって良かった。

 そう、エリザは深くため息を吐く。

 けれどもまだ、マリナの説明全てに納得がいったわけではない。


 どうしてシャルル七世は二人とも罪に問いたくなかったのか分からないし、シャルル七世の意図に乗る必要があるのかも分からなかった。――エリザとしてはエッドフォード伯があのまま貴族裁判に引き出された方が、チェルノートの皆の安全を確保できたのではないかとも思ってしまう。


 それでもマリナの言う通りにしたのは詳しくただす時間が無かったことと、『マリナが言うのなら』という信頼ゆえのことだった。


 ともかくどこかで腰を落ち着けて話し合いたいところだ。エリザは「辺境伯、お部屋へ案内します」と言うこのへいに従って謁見室を後にした。エリザは爵位のことを訂正する事もできず、フラフラとこのへいについていく。この査問会で一生ぶんの精神力を使った気がする。――ああ、王宮のベッドに飛び込みたい。絶対気持ちいい。いや、どうせなら最初に通された妖精布で作られたソファーに寝転びたい。ただのシルクならチェルノートでも用意出来るが、妖精布はすがに手が届かない。一生ぶんほおずりしてやる。


 そう妄想を膨らませていたエリザだったが、このへいに通された部屋は先ほどとは違う部屋だった。

 当然、あのソファも無い。


「あの、」


 エリザは扉の向こうに消えようとしていたこのへいを慌てて引き留める。


「ここ、さっきと違う部屋なんですけど」

「はい。ここにお連れするように言われております」

「誰にですか?」

「ガンドルプス侯です。では――」


 詳しい説明を問う間もなく、このへいは出て行ってしまう。

 面倒事には関わりたくない。そう顔に書かれていた。


「一体なにかしら……」

『なに、エリザ。心配するこたねえよ』


 そう、マリナは念話の向こうで笑う。


『さっきも言っただろ? エリザの戦力を知っていて他の貴族から隠したのなら、その意味は一つだってな。――おっと、後ろだエリザ』

「え?」


 言われて振り向いた先には、王家の紋章が描かれた巨大なタペストリーしかない。

 ――それが、風も無いのに揺れた。


 そしてタペストリーの背後から二人の男が現れる。


 彼らはつい先ほどまで、エリザが顔を突き合わせていた男たち。

 宮宰のガンドルプスと、ブリタリカ王シャルル七世だった。

 恐らくはタペストリーの後ろに隠し通路でもあったのだろう。しかしそれ自体は王族が暮らす宮殿にはよくある仕様だ。チェルノート城にも一つか二つあったはずである。


 だが、問題はどうして隠し通路を通って二人が現れたのか――だ。


 シャルル七世はエリザと目が合うと、気さくに「やあ」とほほむ。


「へ、陛下――」


 エリザは慌ててその場にひざまずく。


「バラスタイン辺境伯――どうか顔を上げていただきたい」


 あれ――

 と、エリザは違和感を覚える。


 かけられた声は、確かにシャルル七世のものだ。

 しかし、先ほどまで軽薄さはどこにもない。

 優しく穏やかで、理性と知性に満ちた話し方。


 顔を上げたエリザを見て、シャルル七世は苦笑する。


「申し訳ない、驚かせてしまったようだ」

「は――いえ、なんというか……」

「先ほどとは雰囲気が違う、と言いたいのでしょう?」

「……はい」


 シャルル七世は困ったように笑い「こうでもしないと、王宮では生きていけないのです」と答えた。


「王というものは、ほどほどに愚かでないと、貴族たちに殺されてしまいますから」

「そんな――」


 エリザは真意を確かめようと宮宰のガンドルプスの方へ視線を向けるが、彼は静かにうなずくだけだった。つまり、シャルル七世の言うことは本当なのだろう。


『なるほどね……、お飾りの操り人形を演じる道化師ピエロってことか』


 念話の向こうで、マリナがちやすようにつぶやく。相変わらず口汚い。

 エリザは『マリナさんは一度口を洗ってきて下さい』と注意してから、眼前の王へと問いかける。


「それで陛下――その、どうしてここに?」


 エリザの問いに、シャルル七世は意を決したように「実は――」と切り出した。


「辺境伯に頼みたいことがあるのです」

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