2冊目 魔導書は知り得たい。

『お主か‼︎アルテアを一撃で消したのは‼︎』


(マリさん……?)


ん?こいつマリって言うのか。


「あ〜、マリとやら、落ち着け」


その一言を発した瞬間周りが戦闘態勢に入った。


「ん?」


俺を不思議に周りを見る。


(当たり前ですよ。マリという名前は向こうから貴方に言ってませんから)


「貴方……何故彼女の名前を……」


そこにはさっき助けたお姉さんが。


「もしや……マリ狙いで来たとはな……」


「ストップ、ストォォォップ‼︎」


周りの女性たちの動きが止まった。


「マリっていう名前はアルテアから教えてもらったんだって‼︎」


『アル……テア?消えたんじゃ……』


周りがザワザワと騒ぐ。


「はんっ‼︎どこにも居ないじゃないか!この犯罪者!」


飛び交う罵声。


(……修馬様。私を掲げてください)


俺は手に持っていた一冊の本を掲げる。


「ほい」


その瞬間本が光った。


次の瞬間、魔導書が消え、ひとりの女性が立っていた。


銀髪。グラマー。きちっと整った凛々しい顔。ぱっと見、歳は16くらい。


『皆さん。修馬様を愚弄するのは万死に値します‼︎』


「万死って……大袈裟だなぁ……」


俺はやっと気付いた。こいつ……アルテアだ。


『アルテア……⁉︎』


マリと呼ばれた少女は驚きの声を上げる。


更に周囲は騒がしくなった。


「アルテア?本物か?」

「いやいや、偽物だろ」

「でもマリ様が……」


などとよく聞こえる。


「マリとやら。これで信じたか?」


マリと呼ばれている少女はビクッと身を震わせ、言った。


『認めよう。彼女こそ炎雷龍アルテアじゃ』


周りが一斉に距離をとった。


まぁ……そうだろうな。


「ほ、本物のアルテアなら固有魔術を使えるはずよ‼︎」


逆上した一人の生徒が叫ぶ。


それに便乗し、周りの生徒たちが叫び出す。


マリさえこちらをちらっと見る。


『残念ながら私は使えません』


え?マジで?


『……嘘……』


ほら、マリさえあんな顔だぞ。


「ふふふ……やっぱりそうですわ!この犯罪者ども‼︎」


うっわ、酷い言われよう。


『正確には私には、ですけど』


みんなの動きが止まった。もちろん俺も。


……へ?


『使うのは勿論修馬様ですよ?』


みんなの目線が俺に向いた。


「へ?俺?」


『はい、貴方です』


いやいやいや。出来んから‼︎


……ん?頭に何か……。


目の前にウィンドウが開かれる。


——習得可能スキル———————


•アルテア固有魔術


————————————————


お。マジか。こういう感じなのね。今すっごく異世界に来たって実感したよアルテア。


迷わずタップする。


……ふぅん。


そして俺は語りだす。


「《世界よ紡げ》


ゆっくりと、ゆっくりと。


《冥府に響く最上の炎雷よ》


マリが顔を青くして叫ぶ。

『こ、この魔法は……』


《天を穿ち海を割き》


アルテアさえ驚きと関心の声を挙げている。

『さすが修馬様です。初めてで私のを……』


《最後の時を歌いたまえ》


生徒達は訳がわかっていない。

「はん‼︎こんな魔法聞いたことがないな。ハッタリだ‼︎」

ハハハハ!とみんな笑っている。


《最後の時を迎えたまえ》


俺自身何をしているのか分からないが、

身体中から魔力が吸い出される感覚がわかる。

体が少しずつ重くなっていく。


——これはヤバイ。


直感がそう告げていた。しかし、止めるわけには行かないな。

アルテアをバカにされるのはなんか嫌だから。それと……のせいかな。


《始祖に帰れ 世界永劫破壊ワールドエンド


——バシュ。


と低く音がなった。


「ハハ……ハハハハ‼︎やっぱりハッタリじゃないか‼︎」


1人が叫んだ。周りの生徒たちに伝染するように移っていく。


『皆‼︎逃げろ‼︎』


突然マリが叫んだ。


「何故です?この犯罪者の魔法は失敗して……」


『おらぬわ‼︎馬鹿たれ‼︎お前はこの魔力の動きが見えんのか‼︎』


「……え?」


焦って魔力の流れを確認した。


——おかしい。


魔力が。この世界の魔力全てがあの少年に向かって行く。


少年は無表情だった。しかし先ほどまでとは違い、紙が銀色に輝き、先ほどまで着ていなかった漆黒のローブを着ている。


「…………」


少年は自分の頭上に手を突き出した。


最初に小さな球ができた。


次に一段階大きくなった。


そのまま大きくなり続けて……


やがて人の頭4つ分ぐらいになった。


マリは顔面蒼白である。


マリはあの魔法について早口で語った。


あれはアルテアの固有魔術内のの隠し玉である世界永劫破壊ワールドエンドという魔法である。


そして小指ぐらいの大きさで帝都一つ(ここでいう帝都とはまぁ国一つと思ってください)が跡形も無く吹き飛ぶ魔法である。


既にあれはアルテアの三倍の大きさを作っている。


大きさは魔力の量に比例する、と。


それを聞いてみんなは悲鳴を上げた。


泣き出すもの。笑い出すもの。気絶するものと。

色々だ。


マリに助けを求めたが、

『お主らの自業自得じゃろ。ま、妾もじゃがな』

と、相手にもしてくれなかった。


確かに今回は私たちが悪かった。

こいつを敵に回してしまったことが運の尽きだった。


そう考えている間も奴の球は大きくなる。


今は家一つ分入るだろうか。それ程の大きさとなった。


あぁ、私達はここで終わるんだな。最後に色々やりたかったな……。


その時、背後から大きな叫び声が聞こえた。


みんなはハッと背後を見た。


あれは何と表したらいいだろうか。闇の塊、恐怖の魔物。そんな感じだった。


確かS指定災厄の闇の者ダークサイドという名前だったか。

しかし今はそんなことを考えている隙もない。


生徒達を1人、また1人と、体に取り込んでいく。


そして何を思ったのか少年が動いた。


少年は黒い球が浮いている手を前に突き出した。


世界永劫破壊ワールドエンド変換ターン聖属性セイクリッド


黒い球が白色へ変わった。凄い凝縮魔力量だ。


発射バースト‼︎」



前には少年。背後には闇の者。

死んだと思った。これで終わったと思った。





——しかし、銃弾は白い軌跡を描きながら

私たちには向かず奥の闇の者へと当たった。


その瞬間闇の者が弾け飛んだ。取り込まれていた生徒達が落ちていく。


少年は一人一人を空中で捕まえて抱え、ゆっくりと降ろしていく。


「何が起こったの……?」


————————————————————————————————


俺は異変に気がついた。


何かが地中を高速で移動している。


「アルテア。地中を移動しているやつはわかるか?」


アルテアは魔導書の状態になって俺の手の中にいる。


(すみません。察知出来ません。

私がもう少し近付いたら察知出来ますがどうします?)


「却下だ。アルテアを危険に晒すわけがない」


(……ズルいお方)


アルテアが意味の分からないことを言っているが

取り敢えず対処法を考えなければ……。


「さっきの奴が来る……⁉︎」


(何処からです⁉︎)


「生徒達の最後尾の……⁉︎」


視線を向けた先には奴がいた。

何と言うか、気持ち悪いな、あれ。


(あれは……⁉︎)


「お?アルテア、知ってるのか?」


(えぇ、彼奴は闇の者ダークサイドと呼ばれているS級指定災厄モンスターです)


「S級指定災厄?強いのか?」


見た目的にアルテアの方が強そう……


(えぇ、荷が重いでしょう、あと私はアレより十倍は強いですよ?)


十倍かどうかは置いといて……この妙な言い回しは……


「要するに俺がやれって事ね」


(そーいうことです)


アルテアがグッと親指を立てている様子が手に取るように分かるわ。


「あれ絶対属性闇だろ」


(そのとーりです)


よく分かりましたね〜、って言ってるけど見た目からわかるだろアレ。


なら……


世界破壊ワールドブレイク変換ターン聖属性ホーリー


おぉ⁉︎白くなった‼︎


(では、ご一緒に〜‼︎)


発射バースト‼︎』


「あ、弾け飛んだ」


(生徒たちが落ちてきますよ⁉︎)


「ヤバッ⁉︎行くぞ‼︎アルテア‼︎」


(はいです‼︎)


俺は生徒達を一人一人横抱きにして地面に降ろしていく。

中には意識を保ってる子もいたが殆どは気を失っていた。


全員を寝かし終わった後残っている生徒の先頭、あのお姉さんを見た。


「信じて貰えたかな?」


そう一言優しく発すると凄い勢いで顔を縦に降り出した。


「生徒達を救って頂いてなんと言えばいいか……‼︎」


「良いんだよ、大した事ないから」


『大した事ない⁉︎』


生徒たちが驚きの声を上げているが気にしない気にしない。


(あ、闇の者の死体が光ってますよ⁉︎)


「もしかしてまだっ⁉︎」


全員が戦闘態勢に入るが光ったまま何も起きない。


(?)


『?』


みんなは分かってないようだ。だけど俺には分かる。


あれは。心臓の鼓動が聞こえる。


「俺が行く」


その言葉にみんなはギョッとした。


しかし、反論もしなかった。


俺は死体に近づいていく。


そして——触れた。


その瞬間死体は光の粒となって霧散した。


その後には……。


「おはよう!おにーちゃん‼︎」


ぺたりと地面に座っている可愛らしい1人の幼女がいた。


























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千載一遇の魔導書《グリモワール》〜忘れられし魔導書と異世界学園生活〜 未柊 @syusya

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