君の眼が映す未来は

幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕

音の葉と言の葉1

──響葉おとはが、死んだ──


その事実は俺の心に深く鋭く突き刺さった。


──響葉が、唯一無二の片割れが…死んだ


「……は、とは………詞葉ことは!」


「…………え、あ…何……?」


「ったく…“何?”じゃねぇよ、大丈夫か?」


「あぁゴメン、大丈夫だよ…?」


「…………無理、すんな」


「してない、よ……? 響月ひびきは心配性だなぁ…」


響月──僕らの幼馴染み──が抱きついてきた。いつもしっかりしている彼にしては、珍しく、それ程僕が今、ふらふらした不安定な感じなのかもしれなかった。


「……ッ………お前、まで…置いて、かないで……くれよ…ッ!? 頼む、から……」


「…………響月……」


──苦しい…辛い、やめろ……いかないでくれ…ッ!


響月のオトが俺の中に流れ込んでくる。


響葉も響月も知らない、、秘密。


──…………勝手に、知ってて視えててゴメンね…響月……


そう…俺には、人の心のうちが……勝手に読めてしまう視えてしまう。本で読んだ所では『感受性が強い』人間の、ごく少数に顕現あらわれる能力チカラ…なのだそうだ。


──……正直言って、コレのせいで響葉は…って思っちゃうな……


違う、って…分かってる。なのに……







俺を責める聲は止まらない。


俺のせいで……


響葉は犠牲になったんじゃないか?


響葉の未来を、俺が食い潰してしまったんじゃないか?


『違う』なんて


誰にも言えない


俺自身だって、『違う』なんて…


……………………………言えねーよ……




──こうして響葉の葬式は終わった。コレから響葉は火葬場で焼かれ、何も言わぬ骨になる。


ボンヤリと黒塗りにされた車に乗せられた、響葉を見て改めて考える。










「ほんとーに、居なくなっちゃったな…」


ポツリと洩らす。響葉が立ててた予定より、少し早い命日だったけど……。

不思議と涙は出ない。双子の、唯一無二の片割れが…死んでしまったのに。


「ハッ……俺、ってすごい薄情もんだな…………」


「詞葉……」


隣で、響月が何か言いたそうに名前を呼んだ。


「ん? なァに響月?」


「…………………………何でも、無い……」


「そう? なら──良いけど」


まだ何か言いたそうな顔をした響月を見ながら、大きく伸びをする。


──響葉が死んだ、って事は…次は俺の番かな? 響葉を独りには出来ないから……


伸びをしながらそんな事を考える。


「…………響葉がさ」


「え?」


「……響葉がさ、言ってたんだ、お前が熱で寝てた傍らで俺に…」


「え、と…なんて?」


響月が蒼空を見上げながら、言う。


「……『?』って……」


「響月……」


「そん時はよく分かってなかったけど……今なら分かる気がするんだ、詞葉…お前は俺や響葉に言えないを、独りで抱え込んでるって……」


「……そんなに、不安定に見える? ゆらゆら揺れる、風前の灯みたいに、俺はそんなに頼りなく見える?」


「……見える。お前、俺たちと楽しんだ後、不意に無表情になるんだよ、気づいてなかったか? “って言うみたいに、凄く後悔と自己嫌悪にまみれた無表情になってる」


詞葉は静かにその言葉を聞いていた。静かに伏せられたその瞳には、何が映っているのかは定かじゃない。


けど…


「……もう、そんなに自分を責めないでくれ…お前の話も聞くし、一緒に居るから、お前が抱え込んでる事、教えてくれ……」


「…………ンな事、簡単に言うなよ。俺がを抱え込んでたとしても、響月や響葉には絶対言いたくない。お前ら二人は…優しすぎるから」


「……そっか、変な事言ってごめんな……」


俺の言葉に、響月が悲しそうに笑いながら、謝る。

その顔に、ぎゅっと胸が絞めつけられる。


──なんて、言えば良かったんだ、よ…?


明らかに自分の言葉で響月が傷ついたのは明白だった。


けど、これしか言えないくて。響月を傷つけずに、話題を変えるなんて芸当は、俺には少々荷が重かった。


『──自暴自棄になるなよ、詞葉?』


「…………えッ……?」


今耳元で、響葉の──……?


「……? どうした?」


「いや……今響葉の、声が聞こえた気がして……」


「響葉の……?」


──気の所為、か……?


憎らしいくらい、蒼蒼とした蒼空に顔を向け、胸中で呟く。

そして小さく、響月に聞こえないほど小さな声で、言った。









「…………………………死ぬ時なんて、一瞬……だよなぁ…………」

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