第9話
駐車場の近くまでゆっくり歩き、慎重に近付く。
回り込む様に駐車場の中へ入ると手足を始めとした人の部品と夥しい血で足の踏み場が無く、まるで、獰猛な獣が喰い散らかした後の様であった。
鉄錆びにも似た血の臭いと燃料が燃える独特の臭いに糞便の臭いが混じった悪臭は、クーフィーヤを纏っていても濃厚で、鼻腔を嫌と言うほど突き刺して来る。
人間と言うのは、腸の中にウンコを溜めてるのだ。
腹を斬ったり、撃たれたりして腸が飛び出て千切れれば、中身が出てくるのは当然の事だろう……
「う、ぅぅぅ……」
か細い声で呻き声を挙げる者と目が合う。見れば、ソイツに左腕は無く、腰から下も何処かに消えていた。
ソイツは残った右腕を伸ばし、怯えた目を浮かべている。
涼介は呻き声を挙げて「助けてくれ! 死にたくない!!」 と、必死に懇願してる男に対して
銃声と共に男の頭が破裂し、髪の毛が生えた頭皮や頭蓋骨の破片、それに中の脳味噌が一気にブチまけられる。
子供の1発も、女の1発も、老人の1発も、死に損ないの1発も変わらない。
撃たれれば、刺されれば、人は簡単に死ぬのだ。だから例え、直ぐに死ぬかもしれない相手だとしても、キチンとトドメを刺しておく。
物語のキャラクターみたいに悠長に死ぬのを眺め、後ろから撃たれて死んだら間抜けだし、時間の無駄だ。
顔の無い死体から目を離し、硝煙立ち上る銃口を下ろした涼介は、周りを見回してから再び歩き出す。時折、死人に
生きて居れば……
「ゴボッ! ゴボボッ!」
喉に突き刺された
やっぱり、刃物だと死ぬ寸前まで苦しむんだな。心臓や腎臓、肝臓刺すと激痛で叫び散らしてから死ぬし……
首の頸動脈と気道を裂けば、声も出せずに絞め殺される様に呼吸出来ない苦しみでジタバタ暴れて、10秒と少し経って死ぬ。
だが、涼介は死ぬのを待てなかったのか、必死に首を押さえて血を止めようと苦しむ彼から刃を抜くと、ストックとフォアエンドを持ってジールを高く掲げて胸に向けて叩き付ける様に
男は直ぐに動かなくなる。
胸に刺した
見ると、逃げようと駆け出した者達が居た。
其れを見た涼介は小さな溜め息を吐くと、左膝を立てて右膝を寝かせてしゃがむ。ジールのフォアエンドを左手で持ち、肘は左膝に乗せて銃を支えると右肩にジールのストックを押し付け、呼吸を落ち着かせた。
身体の揺れが小さくなり、リアサイト越しに見える暗闇に紛れる者達とフロントサイトが合わさる。
トリガーが引かれた。
静寂を破る銃声が1発、2発と放たれると、遠退く足音が止む。
ジールを肩から外して立ち上がると、モノキュラーで確認する。100mほど先で、背中を撃たれて倒れた者達が2人居た。
2人はビクンビクンと大きく身体を震わせ、地面に血溜まりを作っている。すると、その2人が何かに引っ張られ始めた。
引っ張られた2人は、押し潰された果物みたいに"果肉入りジュース"を撒き散らして地面の染みと化した。
アノマリー……プレリースによって圧縮され、解放されたのだ。
それを見ると「うわー、グロい」 と、他人事の如く呟き、モノキュラーを戻してから歩き出す。
誰かの気配に気付いた涼介は近くにあった残骸の陰、エンジンブロックの後ろに身を潜める。それから、そっと顔を上げてジールの格張った大きくて四角いマガジンをボディに乗せた状態で構えると、気配のする方にある車の残骸を撃った。
「キャアッ!?」
銃声と同時に響く金属同士がぶつかる音に混じり、女の悲鳴が聞こえた。涼介は直ぐに地面に伏せる。その瞬間、バカマシンガンの軽快な銃声と共にエンジンブロックやボディと、言った残骸に5.56㎜アサルトライフル弾がバラ蒔かれた。
銃声は直ぐに止んだ。涼介は一気に駆け出し、
走ってる間、撃たれる事は無かった。そればかりか窪みに飛び込んだと言うのに、何故か、さっきまで居た残骸がバカマシンガンで撃たれている。
窪みからバカマシンガンの銃火で見える声の主は、小柄でくすんだ金髪を伸ばした少女であった。少女は怯えながらも、必死な形相で迫り来るだろう
危ないからやりたくないんだけど……
バカマシンガンの銃声が止み、クリップに束ねられる弾が消えたのを見ると涼介はジールを構え、怒鳴り吐ける。
「さっさと銃を棄てろ!!」
「え? なんで? え?」
少女は涼介が居る筈の場所に居らず、何で違う方向から姿を見せてるのか解らなかった。しかも、バカマシンガンの弾が切れた瞬間を突いて来られれば、少女でなくとも混乱するしかない。
「早く棄てろ!!」
だが、そんな少女へ畳み掛ける様にヘッドランプで照らし、怪しい真似をしたら即座に殺す為にトリガーに指を掛ける。
ライトの明かりと共にジールを向けられた少女は、慌てながらも銃身が赤く焼けたバカマシンガンを棄て、泣きそうな声で叫んだ。
「撃たないでお願い!! 私は
その言葉に嘘は無い様に感じた。
よく見ると少女は裸で、身体は汚れているばかりか、幾つもの痣が有る。首を見れば、手で絞められた痕が残っていた。
それからゆっくりと近付いて行けば、股間からは血が垂れた跡が見えた。何が有ったのかを想像するのは、難しい事じゃない……
だけど、必死で泣き叫び、助けを求める少女を見ても怪しく感じてしまう。
さっさと、撃ち殺した方が手間が省ける。そんな酷い事を無意識ながらにも思っているからか、トリガーに掛けた指に力を籠めようとした。
「お願い!! 撃たないで!! 殺さないで!! もう、辞めて!!」
泣き叫んで必死に懇願する少女は、後ずさると裸足で走り出す。
少女にすれば、バンディッツとは言え、平然と助けを求める相手を殺し、顔を変色した血で汚れたクーフィーヤで覆い隠して表情が窺えない涼介は、不気味な怪物にしか見えなかった。
そんな少女の後ろ姿をサイト越しに眺める涼介の人差し指が、トリガーに掛かる。
走れば簡単に追い付くんだろうな。でも……
涼介はジールを構え直し、フロントサイトを走る小さな背に合わせた。
後ろから撃つ方が手間省ける……
人差し指に力が込められようとした瞬間、少女は転んだ。ライトで照らしてみれば裸足が赤く染まっており、割れたガラスの破片が照り返して来る。
涼介はジールを下ろすとスリングで後ろに掛け、周りを見回して用心深く歩みを進める。
「嫌ッ!? 来ないで!!」
嫌がる少女の近く迄来ると涼介は、しゃがみ込んだ。視線の高さを合わせ、クーフィーヤを脱いで顔を見せると、ニッコリ笑う。
「安心しろ……殺すなら、さっさと後ろから撃ってる」
安心出来る要素は皆無であった。見れば、リボルバーの銃口が向けられており、自分の命が目の前に居る"怪物"の気分次第と、言うのが嫌でも思い知らされる。
だからなのか、少女はまた乱暴されるのか? と、怯えて居た。
「え? 痛ッ!?」
リボルバーが戻された。しかも、腰をゴソゴソとやって雑嚢から包帯とガーゼ、それに消毒薬と言った医療品を取り出すなり、自分の足を処置し始めた。
少女は消毒液が傷に染みたのか、短い悲鳴を挙げる。涼介はアルコールで先端を濡らし、消毒したツールナイフのプライヤー部分で傷に刺さった破片をテキパキ抜いていった。
それが終わると、分厚いガーゼを当てて包帯を足に巻く。
「これで良い……」
「え? 何で?」
少女は訳が解らず混乱した。そんな少女を気にせず涼介は、口を開く。
「悪いんだけどさ……中に誰か居ないか? 教えてくんね?」
口調は穏やかで、にこやかに笑って優しげな雰囲気がある様に思える。
だが、少女から見れば、自分に乱暴した者達と同じにしか思えなかった。それ故、足の傷を治療して貰っても警戒心を解く事は無かった。
そんな沈黙で問いに返す少女の様子に溜め息を吐き、少女の脇を通り過ぎてジールを手にする。
「次、銃を向けたら殺す」
そう言い残すと裏口の方へと向かった。
裏口には置き土産のビックリ箱で倒れた無惨な死体が4つ転がっていた。落ちてる銃を蹴り飛ばし、
確認を終えると、裏口に近付く。扉の正面には立たず斜め前に立った所で、ジールを構えてセレクターをフルオートに合わせた。
喧しい銃声と共に扉が孔だらけにすると扉の脇に駆け寄った。壁を背にした涼介はジールのマガジンを変え、チャージングハンドルを引いて装填を済ませるなり扉を馬の蹴りみたくバックキックで乱暴に開けるや、ピンを抜いた
耳を塞いだと同時に爆音がして、扉がバラバラに吹き飛んだ。
「ゲホッ! ゲホッ!」
爆煙と暗闇に包まれた中に飛び込むと、脇に跳んで壁を背に部屋を見渡しながらジールを構え、咳き込む者の胸に銃口を向ける。
「ガッ!?」
イーリャを持つ男が胸を撃たれ、小さな悲鳴を挙げて背中から血を噴き出しながら倒れた。耳をつんざく銃声を響かせ、次の獲物に銃口をスライドさせて再び、トリガーを引く。
頭を撃たれた者は床と壁を赤く彩り、ピクピクと身体を痙攣させて崩れ落ちた。
沈黙が訪れる。ヘッドランプを照らし、何度も見回して誰も居ない事を確認すると、部屋の向こうから慌ただしい足音がした。
涼介は敢えて扉の前に立つと、また、フルオートに合わせて銃声を喧しく掻き鳴らした。扉の横へ歩んでジールのマガジンを外し、予備と詰め替えてから、奥に通ずる扉を開ける。
通路にはズタズタになった状態で、3人の死体が転がっていた。
コレ、ドラムで凪ぎ払ったけど殺せてない?
それとも、いっぱい居るって最悪なオチか?
異様な人の多さに考えられる事を並べると、涼介は後悔に渋面を浮かべてしまった。
少し考えるとジールから
何だろ、コレでも足りないって思っちゃうのは……
通路を通り、ドアを見付けるとドア越しに1発撃ち込む。反応は無かった。
裏口から突入した時と同じようにバックキックして蹴破り、中へと飛び込む。
部屋には誰も居らず、小さなランプの火が仄かに照らしてるだけの掃除用具等が納められている物置であった。涼介は中をチェックし、本当に誰も居ないか? 確認する。
誰も居ない事を確認すると、イーリャを下ろして部屋を後にした。通路に出ると目だけを動かし、左右、前と見回して警戒しながら慎重に1歩ずつ進む。
途中、大きなドアを見付けた。ドア越しに1発撃ったが、さっき同じようにシーンとした静寂しか返って来ない。
扉を蹴破り、中へ入ると鉄錆びの臭いと共に強烈な酢の臭いがした。それを嗅ぎ、臭いの元を目の当たりにすると、涼介は思わず顔をしかめてしまう。
「最悪だ」
納入した商品を保管する為の倉庫だった部屋には天井から大きな金属製のフックが先端に付いた鎖が吊る垂れている。それは珍しくも何ともなかった。
だが、その鎖の何本かには人間の死体が吊るされていた。見ると、手足が無い者や皮を剥がれ、目玉がくり貫かれた者も多く居る。
明るい時、仲間の首を掻き切って吊るした時点で、何となく解ってた。
けど、人間を食糧として吊るしてるのは、あんまり見たくねぇわ……
「ママ!!」
泣きそうな呼び声に銃口を向ける。其処に居たのは先程の少女であった。
少女には涼介が向ける銃口より、左脚が無い吊るされた女の死体の方が大事であった。
「ねぇ! 起きて!! 死んじゃ嫌だ! ママ!! ママ!!」
少女は泣き叫び、母親の躯を必死に揺らす。
女……少女の母親にも少女と同じように股間部分、性器の辺りに汚れと裂傷が痛々しく残っていた。それを見ると、涼介はウンザリした表情を浮かべる。
大方、ガキと一緒にレイプされた後、首を掻き切られて殺された。と、見るべきか?
子供が死んでないのは……
豚みたいに太らせてから喰う序でにセックスを楽しもうと思ったか?
クライレディの
理由は何であれ、ロクな理由じゃないのは確かだ。
念の為、倉庫の中をチェックして安全を確認する。生きている者は自分と、母親を肉として吊るされ、泣き叫ぶ少女しか居なかった。
そんな様子に居たたまれない気持ちになった涼介は、倉庫を後にする。
その後は、さっきと同じく部屋を回り、生きてる者が居れば
例え……
「撃たないでくれ!!」
銃を棄て跪き、必死に懇願して命乞いをしても意味は無い。
銃口が静かに男の頭へ、向けられる。
「辞めてくれ! 俺には家族がむす……ブベッ!?」
どんな言葉を放たれても涼介は止まらず、躊躇い無く淡々と静かにトリガーを引いた。
商品が陳列していたスーパーマーケットのメインホールに銃声が木霊し、目の前で男の顔が弾け散った所で完全な静寂が訪れる。
周りは頭や胸を撃たれた幾つもの死体と無数の薬莢ばかりで、虚しさしか残らなかった。
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