第47話 悪の四天王もいろいろ大変だ1

薄暗い部屋でその会議は行われていた。

部屋の中央には簡素な4つの椅子と机が配置され、ほかに物が置かれている様子はない。

薄暗く光る電球が、部屋の中を怪しく照らしていた。


「それではアクギャーク四天王会議を始める」


最初に言葉を発したのは、鎧を着た初老の男だった。

白いひげを蓄え眼帯をつけたその男は、一目で只者ではないとわかる雰囲気を放っている。


「ククク・・・このメンバーが集まるのは久しぶりですね・・・」


声に反応したのは、白衣を着た長髪の男であった。

体つきは細く、年も20台後半といったところだろうか。

初老の男とは違う何をするかわからない、そんなオーラを放っていた。


「チッ・・・アタシ一人だけで十分なんだけどね」


そう答えたのは胸元が大きく開いた黒いボンテージに黒いマスクを着た女、アクギャーク四天王の1人レディ・ダークであった。

他の二人に比べるとどこか不機嫌そうにしている。


「・・・是非もなし・・・」


最後に答えたのは、禍々しい真っ黒な鎧を全身に着込んだ男だ。

顔は一切見えないが、声から中にいる人間が男であることがかろうじてわかる。


ここは世界征服を目論む、悪の秘密結社、アクギャーク帝国のアジト。

武器製造・人体実験・兵器開発など、既存の統治機構を破壊するための準備が日々行われている。

そしてその中枢を担う4人、それがアクギャーク四天王である。


「おやおやぁ・・・レディ嬢は不機嫌でいらっしゃるようだ・・・ジャスティスファイブに負け続けていることなど気にしなくとも大丈夫ですよ」

白衣を着た男がねっとりとした口調で、対面に座っているレディ・ダークをあからさまに煽る。

「・・・今なんて言った?この引きこもり野郎」

対するレディ・ダークは不機嫌であることを一切隠そうとせず、白衣の男を睨めつける。

「おっと申し訳ない、これはとんだ勘違いをしていたようです・・・よくよく考えれば負けたことを気にしているのであれば、おめおめとこの会議に出られるわけがありませんでしたね失敬失敬!」

「テメェ!」

レディ・ダークは立ち上がり腰につけた自らの武器に手をかけ、白衣の男が袖に隠した武器を使おうとしたその時、


「ドクトル・マッド、レディ・ダーク、二人ともやめんか」


初老の男が静かに言い放つ。

声の大きさとは裏腹に、その言葉は異質な存在感を放ってその場を支配する。

「「申し訳ありません、ジェネラル・ナイトメア」」

先ほどまで殺気をまき散らし、攻撃態勢をとっていた二人が動きを止めて謝罪をした。

このやり取りからジェネラル・ナイトメアと呼ばれた男が立場的に、トップであることがうかがえる。


「お前たちに集まってもらったのは他でもない・・・今も話に上がったジャスティスファイブについてだ」


ジャスティスファイブという名を聞いた瞬間、ダークは苦い顔をする。

対してドクトル・マッドと呼ばれた白衣の男は、どこか楽しそうに口を開く。

「ジャスティスファイブ・・・!我々アクギャーク帝国の正解制服を阻む謎の五人組!初めは下っ端の戦闘員が何人かやられるだけでしたが・・・最近ではアクギャーク帝国屈指の精鋭、四天王であるレディ嬢も倒してしまったとか・・・いやはや研究者としては奴らの力がどのようなものなのか興味がありますね・・・」

「チッ・・・」

ジャスティスファイブという存在に対照的なリアクションを見せる二人。

そんな二人を抑えつつナイトメアは会議を進める。

「ドクトル・マッドの言う通り、これまでは取るに足らない羽虫のような存在だったが、レディ・ダークが敗れたとなっては話は別だ。我々の悲願、世界征服を達成するためにも早急な対応をする必要がある。ドクトル・マッド、例のものは?」

「はい・・・もう完成しております」

「例のもの・・・?」

ジェネラルの問いかけを聞いた瞬間、マッドはスッと立ち上がりわざとらしく礼をした。

「先日、レディ嬢との戦いで、ジャスティスファイブはどういった手段を使ったかわかりませんが、急激にパワーアップをしました」

そのパワーアップ方法がSMプレイや包茎手術であることもつゆ知らず、ドクトルは話を続ける。

「もはや奴らの力は一介の戦闘員では務まりません・・・そこで私は組織全体のパワーアップを図るべく、新しい戦闘服の提案をジェネラルにさせていただきました!」

「新しい戦闘服・・・?」

レディ・ダークは怪訝そうな顔をする。

「ええ!そうです!我々が普段戦闘で使っている闇の力、『ダークパワー』は人間の悪の感情を源にしています!そこで!新しい戦闘服はより効率的に人間から悪の感情を吸い取ることができるようにしました!ククク・・・これを着ればパワーは今の倍以上になることでしょう!」

「フン・・・服を着替えるだけで強くなれるなんて・・・そんなことあり得るのか?」

「ええ・・・理論は完璧・・・残すは戦闘による最終実験のみです・・・ただある程度戦闘力のある方に着ていただなければ必要なデータが取れない・・・そこで今回は四天王として実力のある皆さまに実験へ協力してもらうため集まっていただいたのです!」

ドクトルは失敗するなど微塵も思っていないのか、まさしく自信満々といった表情で語る。

対してレディ・ダークは一切信用をしていないのが態度からはっきりとわかる。

「アンタみたいな胡散臭い男の言うことは信用できないわ・・・はぁ・・・ナイト・インフェルノ、貴方もこの男の作った戦闘服なんて着たくないわよね?」

そう言ってレディ・ダークは隣に座っている鎧の男に話しかける。

男は腕組をしながら一切動くことなくただ静かに


「・・・是非もなし・・・」


そう答えるだけであった。

「・・・あっそう、さすがアクギャーク帝国最強の騎士様ね。自分は十分強いから何があっても問題ナシってワケ?」

レディ・ダークが皮肉で返すが、

「・・・」

返答はなかった。


ナイト・インフェルノ、素性は不明、鎧の下の素顔は誰も見たことがない謎の男である。

その戦闘力は圧倒的で、四天王のリーダーであるジェネラル・ナイトメアをも超える強さを持っていると、組織内でも噂されている。

だが口数は少なく、必要最低限の言葉しか話さないため、コミュニケーションが全くと言っていいほど取れない。


「はぁ・・・もういいわ・・・」

レディ・ダークはこれ以上何を言っても無駄なことがわかると、反論することをあきらめた。

そんな彼女をなだめるかのように、ジェネラルは言葉をかける。

「レディ・ダークよ、これも我々アクギャーク帝国繁栄のためだ。一肌脱いでくれまいか」

「・・・ジェネラル様がそう言うのであれば・・・」

流石のレディ・ダークも上司から頼まれれば、受け入れざるを得ない。


「さて・・・どうやら同意もとれたようですし、早速私が開発した戦闘服のお披露目といきましょうか!」

実験できることがうれしくてたまらないのか、ドクトルはずっとテンションが高いままだ。

パチン!

ドクトルが指を鳴らすと暗闇の中で何かがうごめいているのがわかった。

暗くてよくは見えないが、何やら人型のマネキンが運ばれているようだ。

その様子を見ながら、レディはゆっくりと目をつむって想像する。

(まぁ・・・このクソ白衣のことは信用していないけど、やっとこのきわどい衣装から解放されるのはうれしいわ・・・結構露出多いし毛の処理とか大変だったのよね・・・あんまり期待していないけど今度はカワイイ系のがいいなぁ・・・ゴスロリ系とかは流石に厳しいけどスカートとかもうちょい女の子っぽいのとか・・・)

悪の組織の幹部とは思えないほど、レディは乙女なことを考えていた。



「さぁ皆さんお待ちかね!これが新しい戦闘服です!!」

パチン!

そう言ってもう一度ドクトルが指を鳴らすと、運ばれたマネキンに光が当てられる。

(まぁ・・・期待していないけど見るだけ見てやるか!)

若干の期待をしつつ目を開けると、そこには



乳首と局部にのみ絆創膏が貼られた女性型のマネキンがあった。



「極限まで肌を晒すことで周囲の人間の性欲を掻き立て、その邪でエッチな感情を吸収して戦闘力とする・・・これこそが究極の戦闘服!


『バンド・エ〇ド』です!」


「一肌どころか全部脱いでるじゃねぇかあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


レディ・ダークの絶叫がアジト中に響き渡った。


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