第31話:旧友との再会



「……あ!めぐみんじゃん!」


「えっ、ほんとだ!

 じゃあ、あれがあの……?」


 里の観光、という名目のもと、久しぶりに落ち着いたデートをしていると、前方からめぐみんと同じくらいの歳の二人の少女が、俺たちを見て声をあげる。


「……おや、ふにくらととろんこではないですか。元気にしてましたか?」


「うん、まぁ元気だった……って違うわよ!ふにふらとどどんこよ!」


「あんた、同級生の名前くらい覚えてなさいよ!それでも紅魔族一の天才なの⁉︎」


 そんな反応をする二人を見るめぐみん。

 どうやら自分の望んだ反応だったのか、それを見ながら少し嬉しそうにしている。

 うん、分かる。

 人をおちょくるのって楽しいよね。


「なんですか?やりますか?今なら二人まとめて相手してあげますよ?」


「あんた、旅して頭でもおかしくしたの?

 ロクに体術の授業も受けなかったあんたが二人まとめてなんて、大丈夫?頭の病院でも教えよう……って、ごめんごめんごめんごめん!」


「えっ…、ちょ、まだ私は何も言ってな……痛い痛い痛い痛い!痛いから!あんた今何レベルなのよ!」


 今現在は蘇ってはいるものの、かつてバニルを倒して一気にレベルを上げためぐみん。

 他にも、ベルディア戦の大量の雑魚や、大体のクエストでの相手の処理はめぐみんなので、上がりに上がったそのレベルにものを言わせて、二人を一掃していた。

 ある程度続けると、満足そうにこちらを向いて。


「……ではカズマ、先程自分達でも名乗っていましたが改めて。

 このツインテールの方がふにふらで、ポニーテールの方がどどんこです。

 どちらも、最後まで私の足元にも及ぶことができなかった、紅魔族において凡人の域を超えられない二人です」


「「あんた、そろそろはっ倒すよ?」」


 ……なんか、このおちょくり方知ってる。

 相手のコンプレックスになってそうなところを、的確に突いていく嫌がらせ。

 アレだな。

 俺がよく使うやつだな。

 めぐみんが軽いSに目覚めちゃったのは、もしかして俺のせいか?

 ごめんなさい。

 悪影響ばっか与えててごめんなさい。


 でもまあ、今一応めぐみんから二人を紹介して貰ったわけだし、俺も自己紹介をしようか。


「どうも、サトウカズマです。アクセルで冒険者やってます。どうぞよろしく」


「「こ、こちらこそ!」」


 ……ん?

 なんか二人とも、緊張してない?


 すると、そんな二人を見ていためぐみんが。


「おい、普段ちっとも出会いがない上に男がいなくて寂しいのは分かるが、私の男に色目を使うのはやめて貰おう」


「「え、いやだ」」


「あ?」


 めぐみんさん、目。

 目が光ってるよ。


「な、なぜだか理由を教えて貰おうか」


 お、めぐみんの顔が引きつってる。


 それにしても、いきなりどうした俺。

 ついに人生初のモテ期が来たのか?

 それとも、紅魔族にとっての俺はイケメンの部類に入ったりでもするのだろうか?

 めぐみんしかり、この二人しかり。

 ゆいゆいさんも、昨日のことがあったにしても俺の事は気に入ってくれたみたいだし。

 ゆんゆんはそうでもないが、あの子は普通の紅魔族と少し違うしな。


 いや別に、めぐみんだけじゃ物足りないとか、そういう事ではない。

 むしろ、俺には勿体無いくらいだと今でも思っているのだが、チヤホヤされるのは別に悪くはないなと思う。

 将来めぐみんと結婚することになったら、拠点をこっちに移してもいいかもしれない。


 と思っていると、二人は当たり前なことを言うように口をそろえて。


「「だって、金持ちじゃん」」


 ……最近の女の子はしっかりしてるなぁ。


「その人、特に顔が良かったりするわけじゃないけど、金いっぱい持ってるんでしょ?」


「それに、めぐみんが落とせたんだし、私たちでもお金を貢いでもらうくらいならできるかなと思ってさ」


 おい、態度と喋り方が変わってるぞ。

 さっきの緊張はそういうことかよ。

 てか、俺の男としての魅力は金だけか。

 そろそろ泣くぞコノヤロー。


「ふざけないでください。

 カズマは決して、お金だけの男なんかじゃありません」


 俺が二人の言葉に自信をなくす中、めぐみんは明らかな敵意を向けて話し出す。


「へ、へぇ。なら、今ここでその人の良いところをあげて見なさいよ」


「そ、そうよ。そんなに言うんだったら、今ここで言って見なさいよ!」


「良いですよ?」


「「えっ」」


 残念。

 恥ずかしがらせて言い負かそうと思ったのかもしれないが、その手はめぐみんには通用しない。

 なんたって最近は、あまり恋愛を経験したことのないウィズや、ボッチのゆんゆんに自分の恋愛の進展状況を自慢気味に話してるからな!

 おかげで隣にいる俺は凄え恥ずかしいんだけど。


 そして、めぐみんは話し出す。


「この人の良いところは、すごく優しいところです」


 話し出し、そこで止まった。


 ……待ってくれ。

 俺ってそこまで良いところない?


「それで終わり?ふふ、紅魔族一の天才のあんたがこれなら、その人、相当良いところないんじゃないの?」


「全くだね。それか、やっぱり旅の途中で頭でも打ったのかな?病院教えてあげる?」


 さっきのめぐみんもめぐみんだが、こいつらも大概だな。

 おちょくるのが上手い。

 しかし、俺は真の男女平等を願う者だ。

 別にお前らをおちょくるのに躊躇したりしないぞ、泣かせてやるか?


 そんな事を思っていると。


「……本当にそうでしょうか?」


「「ん?」」


「確かに、お金があって、イケメンな男性が彼氏なのは良いかもしれません。

 しかしお金があっても、優しさがなければそれを自分に使ってくれるとは限りません」


「うっ………」


 そんなめぐみんの正論に、ふにふらがこれを漏らす。


「それにイケメンであっても、性格が冷酷極まりない人物であれば、そんな上辺だけの恋なんてすぐに冷めてしまうでしょう」


「うぅ………」


 なおも続くめぐみんの言葉に、次はどどんこが声を漏らす。


「今こそお金のあるカズマですが、この人はお金を持つ前から優しかった。

 仲間が危険になれば、どんな時でもしょうがないなと助けに行き、動けない時は背負って安全な場所まで運んでくれます」


 おお、さっきつけられた傷が癒されていくのが分かる。

 さすがめぐみん、俺の天使様。


「人の悪いところを受け入れる事ができますし、悲しいことがあった時には寄り添ってくれます」


 ……なんか、聞いてて涙が溢れそうなんですけど。

 やっぱり、めぐみんは俺のこと分かってくれてるんだな!


「人の日課にも毎日付き合ってくれますし、怖いことがあれば胸を貸してくれます。

 人を心配した時には、自分から声をかけてきてくれます」


 あ、やばい。

 目頭が熱くなってきた。


「皆の誕生日を大切にしてくれますし、気遣いができます。

 優しい人というのは、こういうものです」


 なんかもう、今すぐ抱きしめたい!


「そして何より、夜はすごく優しいのです」


「「「……え?」」」


 ナニイッテルノ、メグミンサン?


「夜は……すごく、優しいのです」


 わー、聞き間違いじゃなかったー。


「な、何言ってんのよあんた……。

 あれでしょ?どうせ、トイレについてきてくれるとかそんな感じなんでしょ?」


「そ、そうよ。あのめぐみんに限って、アレはないでしょ?」


「……内容は、あなたたちの想像にお任せしますよ……」


 ……おい、心配そうにこっちを見るな!

 俺は知らないし何も言ってない!


「な、なんで目をそらすの⁉︎

 ねぇ、嘘なんでしょ?嘘って言ってよ!」


「お願い、嘘って言って!

 めぐみんにだけは、めぐみんにだけは絶対負けたくないの!」


 目をそらした俺を見て、めぐみんに摑みかかる二人。

 そんな二人をめぐみんは……


「…………フッ」


「「‼︎」」


 鼻で笑った。


「……べ、別に、負けただなんて思ってないから!」


「……く、悔しくなんか、ないんだから!」


 いかにもな負けゼリフを叫ぶ二人に、めぐみんは俺の腕に抱き着きながら。


「結婚式には、二人も呼んであげますよ」


「「わあああああああああ!」」


 そんなセリフを放ち、二人を泣いて帰らせた。

 本日この景色を見るのは2回目です。


「……なぁ、お前って、俺を破滅させたかったりする?」


「……それでカズマに他の女が寄ってこないなら、それでもいいかもしれませんね」


「…………」


「…………」


「えっ」


 あれ、前みたいに『嘘です』って言ってくれないの?

 もしかして、半分くらいマジだったりするの?

 それとも、今のは完全に本音?


「な、なぁ…。嘘、だよな?」


「…………」


「…………」


「…………」


 ……黙ってないで、嘘って言ってくれよ!


 お願いだから、嘘って言ってくれよぉぉ!






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 本日二度目の、少女が泣きながら走り去っていく場面を見てからちょっとして。

 俺たちは、ある人物の家を訪ねていた。


「あるえー!いるのでしょうー?

 出てきてくださーい!」


 そう。その人物とは、今回の出来事のシナリオを考案したという、あるえという人物の家だ。


 その人物を、めぐみんは戸を叩きながら声で呼び出す。

 すると、内側から扉が開かれ。


「そんなに大声を出さなくても……おや、めぐみんじゃないか。

 どうしたんだい?旅に出たのは去年だったはずだが、妹が恋しくてもう戻ってきてしまったのかい?」


「違いますよ!あなたは私をどれだけ重度なシスコンだと思っているのですか⁉︎」


 中からは少し男勝りな喋り方をする、めぐみんと同じ眼帯をつけた発育の良い女の子が出てきた。


「どれだけって、それはもう深刻な……ん?君は、外から来た人かな?

 では、自己紹介をさせてもらおうかな」


「待ってください。あなた今なんと言いましたか?私はもしかして、学校ではそんなキャラで通っていたのですか⁉︎」


 めぐみんが抗議を続けているが、少女はそれを無視してポーズをとり、自己紹介を始める。

 いや、もう名前は知ってるんだけどね。

 それに、やっぱりその変なポーズはとるんですね。


「我が名はあるえ。紅魔族随一の発育にして、やがては作家を目指す者!」


 紅魔族随一の発育て……。

 いや、うん。発育は良いんだけどね?

 それをここで言うと……。


「……なんですか?その名乗り上げは、私への当てつけですか?

 ……良いでしょう!買ってやりますよその喧嘩!

 ゆんゆんも大概ですが、あなたもあなたでなんですか!こんな脂肪の塊を胸にぶら下げて!そんなの、こうしてやります!」


 ほら。


「え、いや。そんなつもりは別に……。

 ちょっ、待っ……痛たたたたた!

 やめ、やめないかめぐみん!

 君も見てないでめぐみんを止めてくれ!」


 めぐみんに胸を力一杯引っ張られながら、あるえは俺に訴えかける。


「無駄です。カズマが私を止めることはありません。大人しくこのまま引きちぎられてください」


「まあ、そういうこった。めぐみんの怒りが治るまでそうやって相手してやってくれよ」


「お、おかしくないか君!

 よくこの状況でそんなこと……痛たたた!待ってくれめぐみん!そろそろ本当にちぎれるかもしれない!」


 人様の家で女の子を押し倒し、ある意味胸に触れまくる。

 これが女の子同士じゃなかったら、ただの事件現場だぞ。

 そしてその近くに立ってる俺って、相当怪しくない?

 まあ、百合百合しいのが見れたから別に良いけど。

 そんな事俺にとっちゃ今更だし。


 でもまあ、流石にそろそろ止めないとダメかな?


「それに、今回の出来事のシナリオを考えたのもあなたらしいではないですか!

 そのせいで、一体どれだけ私が恥をかいたことか、あなたは知っているのですか⁉︎」


 ……やっぱり止めるのはもう少し後にしようかな。


「いや、その節は本当に悪いと思っているから!なんなら、お詫びも考えてあるから!」


「…………ほう?」


 それを聞いためぐみんは、即座に手から力を抜く。

 現金な奴だなぁ。


「実は…………………」


「……ほう、……ほう!」


 すると、話が終わったのか、二人は向き合い、見つめあって手を繋ぎ。


「私はあなたを誤解していたようです。

 これからも末長く、この関係を続けていきましょう」


「そうだね、君は私のとても大事な友だ。

 これはあくまで私の予想だが、君は将来素晴らしい大魔法使いになるだろう。

 その暁には、是非ともその冒険譚を私に聞かせてほしい」


「ええ、良いでしょう!

 いつかその日がくれば、我がめぐみん冒険譚を一番先にあなたに語りましょう!」


 どうやら仲直りしたようだ。


 ……女の子の友情って、美しいなぁ。


 俺が、たった一つの取引であっという間に元どおりになる女の子たちの友情にある意味感動を覚えていると、


『魔王軍警報、魔王軍警報。手の空いているものは、直ちに里の入り口グリフォン像前に集合。敵の数は千匹程度と見られます』


 カンカンと鳴る鐘とともに、そんなアナウンス学校で流れてきた。


「せっ⁉︎」


 俺が驚きの声を上げる中、二人の紅魔族は平然とした顔をしている。

 こいつらは千匹という数字が聞こえなかったのだろうか?

 この集落の規模では、里の人口はせいぜい三百人程度といったところだ。

 三倍以上の魔王軍の兵を相手に、この余裕はなんだろう。


「君は、何をそんなに慌てているんだい?」


「……ああ、そういえば、カズマは初めてでしたね。慌てなくても大丈夫ですよ。

 ここは強力な魔法使いの集落、紅魔の里です。カズマも見てみますか?」


 ……え?


「……見てみるって?」






 




 








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