第10話ウィード・キャリアー

 お手製の釘バットが唸りを上げる。

 蜂型モンスターが避けるも、避けた先を魔法陣で狙われると、回避中はそれ以上の回避が出来ないので、あっけなく撃ち落とされた。

 まぁ、毒針を受けても、自前の毒素で上書きが出来る。毒をもって毒を制すると言うからな。

 それに、蜂は毒針を刺すと、毒が詰まった袋ごと針が抜けて、寿命が極端に短くなる。

 つまり、毒針を無した蜂は、戦闘に勝っても死ぬ。負けても死ぬ。世知辛いです。

 ファンタジーの蜂は、スキルのように毒針を何度でも使ってくるが、連続で刺す事が出来るだけで、やっぱり寿命が縮む。

 蜂型モンスターは大抵が働き蜂なので、短命でも替えが利くのだ。


 空を飛んでいるモンスターを倒すには、魔法による範囲攻撃が当たりやすい。空間を埋めつくし、逃げ場を与えないので、羽や翼が焼かれる事となる。

 ドラゴンの翼膜も、弓矢で貫く事が出来る。

 しかし、ドラゴンは墜落しても炎を吐くので、依然として脅威は変わらない。

 魔法で飛んでいるモンスターは、魔力を奪えば飛べなくなる。あるいは、魔法を妨害してやればいい。


 スケルトンやゾンビ等のアンデットは、肥料の一部で、ゴーレムは替えの土である。相手にならん。

 ゾンビやスケルトンは、何も人型だけを指すモンスターではない。ネズミや虫、猿の骨や死体も含める。

 ゴーレムは土や岩、金属等を加工したモンスターだ。更に発展すれば、人間が乗れるようにもなるだろう。ガ〇ダムは時代を先取りし過ぎだと思っている。


 冬虫夏草な肉体は、当然ながら土も食える。だが、土だけでは大量の根っこを、維持するのが難しい為、同族である植物や狼、猿の死体を食べたりしている。

 咀嚼も出来るが、大量かつムダ無くカロリーを取るには、根っこによる侵食からの吸収が、一番効率が良かった。

 戦闘で猿や狼を生き埋めにするのは、食事をしやすいように下拵えも兼ねているのだ。冷酷だが、これも弱肉強食。


 歩いていると、野生の大根や馬鈴薯、野イチゴを発見する。

 基本的に、品種改良された野菜と、原種に近い野生の野菜では、実り方からして違う。

 人間に都合がいい形状とかを模索して、品種改良された野菜は、ビニールハウスで年中収穫出来る。

 糖度や味も、野生のままでは低いしうまく無い。

 が、自然の恵みである山菜や野草は別だ。それはそれで美味いと、人間は季節ごとに採取へと赴く。

 その中でも、毒キノコに注意しなければならない。食用キノコと見分けが難しい種類があるからだ。

 俺は雑草だが、毒に耐性があるだけで、毒がまったく効かないという訳ではない。

 正直言って、腹痛になった。久しぶりの痛覚だが、肉体に毒が蓄積されると、壊死や高熱にさらされる。下痢にもなるし、行動力が落ち、警戒も出来なくなる。

 危うく肉体を放棄するところだった。


 毒キノコの毒素をなんとか解毒した後、スライム・ボックスに毒キノコを詰め込む。

 毒キノコ以外にも、毒を持つ野草があるので、その野草もスライム・ボックスに入れていく。

 そしてボックス内でひたすら潰し、キノコと野草を混ぜ合わせる。簡単だが、これで化学兵器の完成だ。

 バットの表面にケバを作って、ボックスに浸せば毒を付与させられる。表面が乾燥したら、また浸けておけばいい。

 地面に埋めて置けば、土壌汚染も可能だし、川に投げ入れれば、水質汚染と川魚の殲滅も出来るだろう。また、餌に仕込めば罠としても使える。


 大根を炒って作った糖を、野イチゴを潰して煮詰めたジャムに入れる。

 甘味は重要だ。戦争中は甘いモノを巡って、内部分裂をする場合だってある。

 取引材料として、胡椒の類いも用意したいが、生憎ながら胡椒がない。

 椎茸のように、キノコを乾燥させたモノならある。

 大豆として使える豆は見つけたが、塩がない。

 魔法で野菜とかから精製しようにも、抽出する魔法を知らないので開発中だ。

 発酵させる魔法も、手探りで作っている。

 カビを使えば酒だって作れるし、猿や狼の母乳でチーズも作れる。

 果実酒は結構簡単に作れるが、酒としての価値が薄い。米があれば米を噛んで、唾液と米を発酵させた口噛み酒が作れる。ブドウなら踏み潰して、ワインの原形も作れるだろう。長く寝かせれば、ヴィンテージ品としても使えるか。

 まぁ、果物は野イチゴしか見つけてないけど。


 ある日、クレイ・ゴーレムと出会した。

 泥と砂利で出来たゴーレムなので、スライムに近い流動的な動きだ。

 この世界のゴーレムは、核となる部分を砕けば、ゴーレムを無力化する事が出来る。

 勿論、核を引きずり出せば停まるし、埋め込むと再び動き出す。

 核によって再生と復元能力を持つが、それは元々の形状に戻る事を意味する。泥人形なら、水分の含有量も含めるので、土と水の二つが必要となってくる。

 水が少ないと、泥にならないので、土人形となってしまう。核は泥人形でしか機能しないため、復元が終わるまで、自動的に動作を止めてしまうのだ。

 融通が利かないとも言えるが、自然発生のゴーレムなんてそんなもんだろう。


 根っこで拘束し、水分を常に一定量だけ含むようにする。核はそのまま、抜き取ると動かすのも手動となるからな。

 含水量を一定にしておけば、必要な部分だけしか動かせないし、暴走したりすれば何時でも止められる。

 移動するだけで土を自動的に汲み上げ、余分な土は苗床として利用が出来るのだ。

 土を汲み上げる際に、石や砂はそのまま残る為、通った跡は砂利道となり、その上に余分となった土が舗装される。

 で、抜き取った水分が染み込み、畑のウネに近いモノとなっていく。

 ただし、同行させると端から見て不自然なので、根っこを操り強制的に引き離す。

 これで泥人形ならぬ、畑人形だ。


 土人形としてのゴーレムは、その背中に野生の野菜を植えておく。天然の畑として使えるから、手間も掛からない。

 野菜が根を張り巡らしていけば、土人形の強度が上がる。消費した養分は、自動的に再生と復元能力で元通り。収穫すれば瑞々しい野菜が取れるし、また繰り返しゴーレムに植えられる。

 そう、土や泥のゴーレムは敵ではない。移動式の畑なのだ。


 椿や菜種に似た植物が生えていた。

 おそらく、種を乾燥させて砕き、布で絞れば植物油が取れるはず。前世では椿油や菜種油があったし。

 問題は布だ。

 綿や木綿は見つけていない。

 竹は見つけたが、編み込んでも竹籠にしかならないだろう。

 いや、強い圧力を掛けて、潰すように絞る方法もある。ゴーレムに足踏みでもさせておけばいいか。

 油は燃料にもなるし、潤滑油や錆びを防ぐ用途にも使える。

 銀製品の酸化も、浸けて置けば抑えられる。

 霧吹きのような容器に入れ、吸い上げて霧状に撒き、火を着ければ火炎放射器のようにもなる。

 ちょっと違うが、ガスを使うスプレー類は、制汗剤ですら簡易の火炎放射器になりうる。火気厳禁なのは当たり前だ。


 薬草の類いも見掛ける。ヨモギが良い例で、民間療法としては、磨り潰したヨモギを擦り傷に塗る。火傷した部分に、アロエの肉を張り付けるとかもある。

 まぁ、ポーションはそれ専用の植物でなければ作れない。キノコとハチミツを混ぜただけでは、即効性の回復薬にすらならないのだ。

 確かに、ポーションの元となる薬草は、この森にも生えているが、時期ではないのか量が少なく、質も悪いようだ。

 多分、栽培場所が整っていないのが、大きな要因だろう。雑草に養分を取られ放題なら、時期じゃなくても良く育たないのは仕方ない。

 もしくは、大気中の魔力が少ないからか?

 実は魔力によって変異した雑草が、ポーション用の薬草とか言うオチか?

 しかし、例えそうだとしても、十分な養分と水分は必要だろう。


 潜伏場所から進む事、丸二週間が経過。

 途中でドラゴンを、オーラの索敵にて見掛けたので、仕方なく遠回りしたり、狼のボスがいるテリトリーに足を踏み入れてしまい、群れによって追い出されたりした。

 長かったが、ようやく目的地に着いた。

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